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第22話:王の執着、神の領域

 カシムがアリアを「公認の伴侶」として最上層シェルターへ連れ去った翌日。地下都市の勢力図は完全に塗り替えられていた。

 かつてアリアを「無能」と蔑み、ライオスと組んで彼女を追放した中央セクターの重鎮たちが、冷や汗を流しながらカシムの執務室の前に集まっていた。


「か、カシム閣下……! アリア殿……いえ、アリア様の再構築された『ハニカム区画』ですが、我々中央貴族にも相応の優先入居権をいただけるのでしょうな?」

「左様です! 我々が資金を出さねば、都市の維持など……」


 カシムは書類から目を上げることすらなく、ただ冷徹に、一振りの漆黒の剣を机に置いた。

 その瞬間、部屋の空気が凍りつく。地下最強の武力と、全都市のエネルギー源を掌握するカシムの威圧感だけで、並み居る権力者たちがバタバタと膝をついた。


「勘違いするな。この地下世界のすべての資源、そしてお前たちの生死すら、私の指先一つで決まる。……そしてその私が、全権をアリアに委譲した」

「全権、だと……!?」

「アリアが『不要』と言えば、中央セクターごと埋め戻しても構わん。……貴様ら、彼女を『リストラ』した時のことを忘れたわけではあるまいな?」


 カシムの言葉に、重鎮たちは顔面蒼白となった。今やアリアは単なる建築士ではない。地下最強の男が跪き、全財産と武力を捧げた「地下の真の支配者」なのだ。


 その頃、アリアはカシムの特注した『黄金の設計室』で、新たな図面を引いていた。

 そこへ、没落し、もはや浮浪者同然となったライオスが、警備の隙を突いて(あるいはカシムが絶望を与えるためにわざと通して)這い寄ってきた。


「ア、アリア……! 頼む、私のギルドを再建してくれ! 君のその『隙間を埋める技術』があれば、私の芸術は完成するんだ……!」


 かつての傲慢さは微塵もない。汚れ果てたライオスが、アリアの靴に縋り付こうとする。


 だが、その手はアリアに届く前に、背後から現れたカシムの軍靴に踏みつけられた。


「……私の許可なく、彼女の『隙間』に入るなと言ったはずだ」

「がはっ……! カ、カシム閣下……!」

「ライオス。貴様がドブに捨てた『無能な妻』は、今や私が一秒会うために国家予算を動かさねばならぬ御方だ。……貴様の引く薄汚い線など、彼女の図面には一ミリも必要ない」


 カシムはゴミを見るような目でライオスを見下ろすと、アリアの肩を抱き寄せ、これ見よがしに指先に口づけを落とした。


「アリア、こんな男のために君の『神聖な設計時間』を割く必要はない。……この男には、君が設計した『最も効率的で、最も息苦しい独房』がお似合いだ」

「カシム様……。でも、ライオスさんも少しは反省したんじゃ……」

「甘いな。君の慈悲は、これからは私だけに向けなさい」


 カシムはアリアを独占するように抱きしめ、その耳元で低く囁く。

 地下最強の王が、アリアの前でだけ見せる甘く、しかし狂気的なまでの執着。


 ライオスは、自分が失ったものの巨大さと、決して届かない二人の「完璧な空間」を見せつけられ、ただただ絶叫しながら引きずられていった。

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