第21話:十万人の片想い
「アリア様! 本日の配給、私が設計した『超高密度栄養素ゼリー』をぜひ!」
「どけ! アリア様には我が一族伝来の、岩盤熟成チーズこそが相応しい!」
あの日、十万人の命を「パズル」のように組み合わせて救い出したアリア。
崩落の危機が去った後の地下都市は、感謝を通り越して、全住民が「アリア様教」の狂信者と化していた。
彼女が通路を通れば、屈強な採掘夫たちが道を開け、一斉に最敬礼する。
「アリア様が通られるぞ! 埃を立てるな! 空気を清浄しろ!」
もはや建築士の枠を超え、地下世界の「歩く聖域」となったアリアは、押し寄せる貢ぎ物と賞賛の嵐に目を白黒させていた。
「あ、あの……皆さん、仕事に戻ってください! まだ補強計算の続きが……」
「アリア様の御手を煩わせるな! 計算機なら俺たちが人力で回す!」
「アリア様は座っているだけでいい! 我々が人間椅子となって支えましょう!」
「……いい加減にしろ、貴様ら」
地平線を割りそうなほど冷たい声が響き、群衆が凍りついた。
軍靴の音を響かせ、黒いマントを翻して現れたのは、独占欲が限界突破したカシムだ。
彼はアリアの細い腰をガシッと抱き寄せ、周囲を威圧するように鋭い視線を走らせる。
「アリアは疲れている。これ以上の接触は、国家反逆罪とみなす。……散れ」
「閣下! それは横暴です! アリア様はみんなの太陽だ!」
「そうだ! 閣下一人で独占するなど、構造計算の無駄遣いです!」
「黙れ。彼女の『隙間』を埋めていいのは、私だけだ」
カシムは公衆の面前でアリアの額に深く口づけを落とし、彼女を「お姫様抱っこ」で抱え上げた。
住民たちから「ぎゃあああ! 閣下が職権乱用したぞ!」という悲鳴が上がる中、カシムはアリアを最上層のシェルターへと連れ去っていく。
一方、その頃。
再建された「ライオス建築ギルド(の跡地)」の地下掃き溜めでは、精神が崩壊したライオスが、泥水で地面に図面を描いていた。
「……計算……アリア……ここを3ミリ削れば、アリアが僕を見てくれる……。いや、1ミリだ……。アリア、君がいなければ、僕の引く線には『体温』がないんだ……」
かつてアリアを「無能」と切り捨てた男は、今や彼女の影を追うだけの、哀れな亡霊と化していた。
シェルターに戻ったアリアは、カシムの腕の中で顔を赤くしていた。
「カシム様……ちょっと強引すぎます」
「……言ったはずだ。君を誰にも触れさせたくないと。十万人の視線すら、私には耐え難い」
カシムはアリアをソファに下ろし、逃げられないように両手で囲い込む。
彼の瞳には、守護者としての顔と、一人の男としての「執着」が混ざり合っていた。
「アリア。君が作るこの街に、私の居場所は……一番近くにあるか?」
「……当たり前です。カシム様がいない図面なんて、私、一生引きません」
アリアがその胸に顔を埋めると、地下の英雄は満足そうに目を細めた。
外では十万人のファンたちが「アリア様親衛隊」の結成式を行っているが、今の二人には、共有する数センチの「隙間」こそが、世界で最も完璧な設計図だった。




