表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/25

第19話:跪く権力者たち

 アリアが設計した新区画『深層パレス・ハニカム』の完成は、地下都市の階級社会を根底から覆した。

 かつてアリアを「詰め込み設計の二流」と馬鹿にしていた中央セクターの肥太った貴族たちが、今やカシムの執務室の前に長蛇の列を作り、なりふり構わず叫んでいる。


「カシム閣下! 頼む、あの『アリア様の設計した部屋』に一枠でいいから入れてくれ! 私の屋敷は広すぎて、魔力循環が悪くて凍えそうなんだ!」

「全財産を寄付してもいい! アリア様の計算した『究極の導線』の中に身を置きたいんだ。あそこに入れば、病すら治ると噂じゃないか!」


 彼らが喉から手が出るほど欲しがっているのは、アリアが数ミリ単位の誤差も許さず組み上げた、魔力伝導率100%の超高密度居住ポッド。

 狭い。しかし、一歩も動かずにすべてが完結し、魔力が常に活性化するその空間は、広さだけが自慢の旧来の建築を「前時代の遺物」へと変えてしまったのだ。


「……ふん。かつて彼女を泥棒扱いし、追放を黙認した者たちが、今さら何を」


 カシムは冷徹に言い放ち、並み居る権力者たちを一瞥だにせず、奥の『アリア専用設計室』へと入っていく。

 そこでは、純白のドレスに作業用エプロンという、聖さと機能性が同居した姿のアリアが、巨大な魔法ホログラムを操作していた。


「あ、カシム様。また入居希望者が増えたんですか? まだ壁の裏側に『三千人分』の隙間を見つけたので、詰め込めますよ?」


 アリアが事も無げに言う。

 常人なら計算だけで発狂するような膨大な構造数値を、彼女は呼吸するように処理していく。その姿は、もはや建築士ではなく、空間を司る女神そのものだった。


「……アリア。君はあまりにもお人好しだ。あんな連中、通路で寝かせておけばいいものを」


 カシムは背後からアリアの腰を抱き寄せ、その細い首筋に顔を埋めた。

 彼の独占欲は、アリアの才能が知れ渡るたびに、どす黒く、深く変質している。


「君のその『神の指先』が描く一線は、今や金貨万枚以上の価値がある。……それを、私以外の誰にも見せたくないんだ。いっそ、この部屋ごと封印してしまいたいほどに」

「ふふ、困ります。まだ救わなきゃいけない『隙間』があるんですから」


 アリアが微笑むと、カシムの腕に力がこもる。

 一方、強制労働キャンプ。

 アリアが「効率化」のために設計した超高密度ポッドに、囚人として詰め込まれたライオスは、発狂寸前だった。


「……計算が……合わない……。なぜだ、なぜこの狭いポッドの方が、私の大聖堂より『尊い』のだ……! アリア! 私をここから出せ! 私の美学を……ぐあああああ!」


 彼がどれほど叫ぼうとも、アリアの設計した防音壁は完璧だった。

 彼の絶叫は誰にも届かず、ただアリアへの崇拝と、彼女を独占するカシムへの嫉妬だけが、地下の闇に虚しく響くだけだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ