第19話:跪く権力者たち
アリアが設計した新区画『深層パレス・ハニカム』の完成は、地下都市の階級社会を根底から覆した。
かつてアリアを「詰め込み設計の二流」と馬鹿にしていた中央セクターの肥太った貴族たちが、今やカシムの執務室の前に長蛇の列を作り、なりふり構わず叫んでいる。
「カシム閣下! 頼む、あの『アリア様の設計した部屋』に一枠でいいから入れてくれ! 私の屋敷は広すぎて、魔力循環が悪くて凍えそうなんだ!」
「全財産を寄付してもいい! アリア様の計算した『究極の導線』の中に身を置きたいんだ。あそこに入れば、病すら治ると噂じゃないか!」
彼らが喉から手が出るほど欲しがっているのは、アリアが数ミリ単位の誤差も許さず組み上げた、魔力伝導率100%の超高密度居住ポッド。
狭い。しかし、一歩も動かずにすべてが完結し、魔力が常に活性化するその空間は、広さだけが自慢の旧来の建築を「前時代の遺物」へと変えてしまったのだ。
「……ふん。かつて彼女を泥棒扱いし、追放を黙認した者たちが、今さら何を」
カシムは冷徹に言い放ち、並み居る権力者たちを一瞥だにせず、奥の『アリア専用設計室』へと入っていく。
そこでは、純白のドレスに作業用エプロンという、聖さと機能性が同居した姿のアリアが、巨大な魔法ホログラムを操作していた。
「あ、カシム様。また入居希望者が増えたんですか? まだ壁の裏側に『三千人分』の隙間を見つけたので、詰め込めますよ?」
アリアが事も無げに言う。
常人なら計算だけで発狂するような膨大な構造数値を、彼女は呼吸するように処理していく。その姿は、もはや建築士ではなく、空間を司る女神そのものだった。
「……アリア。君はあまりにもお人好しだ。あんな連中、通路で寝かせておけばいいものを」
カシムは背後からアリアの腰を抱き寄せ、その細い首筋に顔を埋めた。
彼の独占欲は、アリアの才能が知れ渡るたびに、どす黒く、深く変質している。
「君のその『神の指先』が描く一線は、今や金貨万枚以上の価値がある。……それを、私以外の誰にも見せたくないんだ。いっそ、この部屋ごと封印してしまいたいほどに」
「ふふ、困ります。まだ救わなきゃいけない『隙間』があるんですから」
アリアが微笑むと、カシムの腕に力がこもる。
一方、強制労働キャンプ。
アリアが「効率化」のために設計した超高密度ポッドに、囚人として詰め込まれたライオスは、発狂寸前だった。
「……計算が……合わない……。なぜだ、なぜこの狭いポッドの方が、私の大聖堂より『尊い』のだ……! アリア! 私をここから出せ! 私の美学を……ぐあああああ!」
彼がどれほど叫ぼうとも、アリアの設計した防音壁は完璧だった。
彼の絶叫は誰にも届かず、ただアリアへの崇拝と、彼女を独占するカシムへの嫉妬だけが、地下の闇に虚しく響くだけだった。




