第18話:深層の女神と独占欲
「……信じられない。この狭い岩壁が、なぜこれほどまでに『心地よい』のだ!?」
深層開発の第一期区画に入居した住民たちの間で、衝撃が走っていた。
かつては「岩の墓場」と忌み嫌われた最深部。そこには、アリアの魔法的計算によってミリ単位で最適化された、究極の『積層型プライベート空間』が整然と並んでいた。
「見てくれ! このベッドの角度、収納の配置……まるで俺の体のサイズを測ったかのようにぴったりだ!」
「アリア様は、俺たち一人ひとりの生活を分かってくださっているんだ……!」
通路を歩けば、屈強な職人たちが一斉に膝をつき、祈るようにアリアを仰ぎ見る。
「アリア様、どうか俺の娘をあなたの弟子に!」「アリア様こそが真の地下の太陽だ!」
その光景はもはや建築士への評価を超え、「救世主」への崇拝に近いものとなっていた。
だが、その様子を背後で見ていたカシムの瞳には、冷徹な独占欲が宿っていた。
彼はアリアの肩を抱き寄せ、群衆から引き剥がすように自分の外套で包み込む。
「……アリア。あまり、他の男たちにその笑顔を見せないでくれ」
「カシム様……? でも、皆さんが喜んでくれているのが嬉しくて」
「君の価値を、ここの連中はまだ理解しきっていない。君の指先が生み出す一線が、どれほどの資産価値を生み、どれほどの命を救っているか……」
カシムはアリアを、一般人は立ち入り禁止の『最上層・防護迎賓館』へと半ば強引に連れ戻した。
そこはアリアのためにだけ改装された、最高級の調度品と、彼女の仕事のためだけに用意された巨大な魔法図面台がある「黄金の鳥籠」だ。
「君はここにいればいい。設計に必要なものはすべて私が用意する。……君を、あのライオスのような愚か者や、君を神格化する暴徒たちに触れさせたくないんだ」
カシムはアリアの指先に口づけを落とす。その目は、慈しみと同時に、彼女を誰にも渡さないという支配欲に濡れていた。
一方その頃。
強制労働施設で、アリアが設計した「超効率的な居住ユニット」に詰め込まれたライオスは、絶叫していた。
「クソッ! なぜだ! なぜこんな狭いスペースなのに、私の『芸術的な執務室』より機能的なんだ! 認めん、私は認めんぞアリアァ!」
彼が嫉妬に狂えば狂うほど、世間でのアリアの評価は跳ね上がり、彼女を巡るカシムの「囲い込み」もまた、激しさを増していくのだった。




