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第10話:地下の底、光の先

 地下都市の最下層。そこは、光すら届かない「廃棄区画」だ。

 かつて豪華なギルドの椅子に座っていたライオスは今、湿った石壁に囲まれた独房の中にいた。


「……計算が合わない。なぜだ。なぜ私の『完璧な芸術』が評価されず、あんな女の『詰め込み』が称賛される……」


 彼は今も、独房の床に指で図面を描き続けていた。だが、彼が描くのはどれも自分一人が美しく君臨するための家。

 アリアがいた時は、彼女が黙って構造の歪みを直し、生活の導線を整えてくれていた。彼女を失った今、ライオスには「人が住むための家」すら、まともに描くことができなくなっていた。


「アリア……。そうだ、アリアを呼べ。あいつを連れてこい! 私の右腕として、また働かせてやるから……!」


 狂ったように叫ぶライオスの声に応える者はいない。

 ただ、重い鉄格子の向こうで看守が冷たく吐き捨てた。


「無駄ですよ。アリア様は今、カシム閣下と共に、全区画の再開発計画を指揮されている。あんたみたいな『人を人と思わない男』の顔なんて、もう二度と思い出すこともないでしょうな」


 その言葉が、ライオスの喉を凍らせた。

 彼はその時、ようやく理解したのだ。

 自分が捨てたのは「無能な妻」ではなく、自分の人生を支えていた唯一の「光」だったのだと。

 一方、カシムが統治する区画のバルコニー。

 夜(を模した減光時間)の静寂の中、アリアはカシムと二人で、眼下に広がる街の灯りを見つめていた。


「ライオスのギルドは解体され、資産はすべて、被害を受けた住民たちの補償に充てられることになった。……もう、あいつが君を苦しめることはない」


 カシムがアリアの肩に、そっと自らの外套をかけた。

 地下の冷気は、アリアが設計した新しい循環システムによって、心地よい微風へと変わっている。


「……ありがとうございます、カシム様。でも、不思議ですね。あんなに辛かったはずなのに、今はもう、怒りも悲しみも感じないんです。ただ、明日はどこを工事しようかって、そればかり考えていて」


 アリアが笑うと、カシムはその愛らしい横顔を、慈しむような眼差しで見つめた。


「君は、根っからの建築士なんだな。……アリア、私はこの地下都市を、ただの避難所ではなく、いつか地上の星空にも負けない輝きを持つ『故郷』にしたい。君に、その隣にいてほしい」


 カシムの手が、アリアの頬を優しく撫でる。


「私個人の『家族』としても。そして、この街の『光』としても」

「……はい、カシム様。私の設計図の最後の一筆まで、あなたに捧げます」


 二人の影が、人工の月明かりの下で重なる。

 地下都市のリストラ建築士。

 彼女の逆転劇は、ここから全区画を巻き込んだ、壮大な「希望の建築」へと繋がっていく。

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