騙し騙され
〈子らは元氣ハロウィン冷えと人は云ふ 涙次〉
【ⅰ】
(前回からの續き)
安保卓馬の栽培してゐるフラーイの花は、何も「道化」一人が狙つてゐるのではなかつた。怪盗もぐら國王・故買屋Xのコンビも、實は目を着けてゐたのである。勿論今回の仕事は盗みではない。國王が卓馬に云ひよつて、一株分けて貰はう、と云ふ仕事。ついでに栽培の仕方を訊き、ブラックマーケットで賣り捌く- 國王は盗みの快樂を伴はない仕事は、彼の美學から外れてゐるので嫌だつたが、朱那から「収入の安定化」を云ひ含められての登板である。嬶天下は一人カンテラ・悦美に始まつた事ではなかつた。
【ⅱ】
安保さんに見つかると大ごとになるのが豫想された。ので、國王、彼の服務時間帯に安保宅を訪れた。「國王さん、フラーイの花かい?」-卓馬には讀めてゐた。國王は軍資金として50萬圓用意してゐた。「分かつてゐるなら話は早い。株分け、50萬でだう?」-「そんな大金になる仕事なの?」-國王、正直に「マリファナの代替品としてブラックマーケットで賣れば、これでも儲けの方がでかい」-卓馬「ぢや、僕の代參として、國王さん、働く積もりはない?」-「だう云ふ事?」-「僕もフラーイの花で、ひと稼ぎしたいのさ」-「なる程。定期的に出荷出來る当ては、ある?」-「あるよ」。と云ふ譯で利害関係が一致した。面白くないのは「道化」である。面白くない、と云ふのは、これまた彼の美學に叛する。
【ⅲ】
「道化」は臍を囓んだ。と云つて一株50萬圓以上のカネを出すのも詰まらん。こゝは、國王からフラーイを奪ふしかない。彼は國王に憑依しやうとした。夢枕に立つた。「國王、故買屋Xなんかに卸さず、俺に卸した方が利率がいゝぞ」-だが國王は信用出來る相手にしか、惡事(?)の話はしない。「さう云ふお前は、【魔】だな。誰がお前なんかに儲けを渡すもんか。因みに俺に取り憑く積もりでも、無駄だぞ。カンさんが怖くはないのか?」-「糞つ、取り付くシマもなしか。ぢや、實力行使ある迄だ」
※※※※
〈ハロウィンや教會附属の幼稚園シスター一人混じれる保母さん 平手みき〉
【ⅳ】
國王の夢から出た「道化」は、然しこの事態を豫期してゐなかつた。取り敢へず、國王を殺すか、とも思つたが、カンテラ一味に報復されるのは目に見えてゐた。
「かうなりや駄目元で、安保宙輔にこの話を暴露しやう」
【ⅴ】
翌日、「もぐら御殿」に電話があつた。安保さんからである。「こら、もぐら。うちの卓馬に何吹き込んだ」-「え゙。もしかして安保さん、【魔】の云ふ事、眞に受けるんスか?」-飽くまで白を切る。「ぢや、俺は騙されてゐると」-「さうですよ。だつて俺の夢でさう云つたんだから、間違ひない」-「ぐぬゝ。ぢや俺は一體だうすればいゝんだ」-「カンさんに頼んで下さいよ。俺も迷惑被つて、困つてるんだ」だうやら化かし合ひも、國王が勝つたやうだつた。
【ⅵ】
困つた「道化」は、ルシフェルに泣きついた。然し、ルシフェル、「お前がこんな使へぬ奴だとは知らなかつた。責任取つて、死ね!」-ルシフェルは指先の鈎爪で「道化」の躰を引き裂いた。カンテラ、水晶玉でそれを見てゐた...
【ⅶ】
數日後、またしても「もぐら御殿」に電話。カンテラからである。「分け前を貰はう。當然の事だよな」-「カンさん、あんたもワルだなあ」-「お互ひ様よ」。安保さん一人聾桟敷に置かれ、彼は「フラーイの件がなければ、石田さんに惡意を持つ理由がない」と、勝手に一人で和解を決めた、とさ。誰が一番ワルかつて? カンテラに決まつてるだろ・笑。お仕舞ひ。
※※※※
〈すさまじを猫が啼くなり午前5時 涙次〉
PS: カンテラ、ダイアモンド相場で損した分をこれで取り戻した。元より、誰にも眞相は語らなかつた。安保さんには惡いが、この世は騙し騙され、だと知つて貰はう。安保さんはこの業界でやつて行くには、眞人間過ぎる。それに何より、卓馬の事は、卓馬自身が決めた方がいゝ。と、カンテラ、一人ごちた、とか。




