『ぷちエンジェル』凸柑の章
突如として部屋の天井から閃光が疾走る。その直後、轟音と共に天井が崩落し室内が土煙に覆われる。
煙の中からネオン色の残光とともに、二人の小柄な少女が姿を現す。天使の羽が舞い、スカートがひらりと舞う魔法少女だった。
ミ「ぷちエンジェル、参上っ!!とびちる情熱、ぷちミカン!」
ブ「…コ、コホー…コホー…」
ミ「邪悪な闘気をビンビンに感じちゃった!!街の平和はわたし達が――きゃあああっ!?」
高名乗りを挙げた魔法少女ぷちミカンは眼前の敵の姿を視認すると、甲高い悲鳴と共に顔を覆う。
スーツの男二人は突然の闖入者に、再度“警棒”をファスナーから取り出し身構える。
ミ「……な、なに……その……ぶつけあってる!?それで“勝負”って言ってたの!?!?!?!?」
いたいけな魔法少女の頬が羞恥に染まり、瞳には軽蔑の涙がにじむ。
ミ「だめだよぉおおぉ!R-18だよぉおぉお!ぷちぷちビームどころじゃないよぉおおぉ!!」
耳をふさぎ、目を覆い、半泣きでくるくるまわってから――
ミ「うぅ……正義のヒーローなのに……」
ミ「この変態怪人!せ、正義の鉄槌っ……ビタミンボンバーっ!!」
ミカンは半泣きで突進し、魔法ステッキを振りかぶる。
その一撃は炎のエフェクトをまといながら、真っすぐハリーの顔面に向けて叩きつけられる!
ガッ!
だが、その軌道を読んでいたジョンが、腰の回転を生かして警棒を跳ね上げ、ステッキを受け止めた。
ビィン!!
ミ「えっ!? なにこれ!? なにで受けたの!? なにその硬さぁああ!!?」
続いてハリーがカウンター。
「よそ見すんなッ!」
腰をひねり警棒で、スカート越しにミカンの下腹部を突き上げる!
ゴンッ!!!
ミ「ぎゃあああああああ!! なにこれっ!! 変な感触した!!」
ミカン、号泣。
魔法少女らしからぬ雑なスイングで滅多打ちするが、ステッキの攻撃のことごとくを熟練の男達は警棒でいなしていく。ぶつかるたびに“ブニッ”“バチィン”“ベチベチン”という明らかに魔法の世界では聴かない効果音が響く。
ミ「ああもうやだ!ステッキに変な液体ついたぁ!!これもう浄化できないやつぅ!!」
取り乱すミカンの口に目掛けてハリーの突きが迫る。ミカンは唇の皮一枚のところで間一髪避ける。ハリーの警棒の先端には撫でとったミカンのルージュがこびり付いている。
ミ「さっきからどこ狙ってんのよぉおお!!(ペロッ)なんかしょっぱあいぃぃ」
ついに悲鳴とともにステッキを手放し、腰を抜かして床に手をつくミカン。
ミ「ミカンは……正義を守りにきたのに……なんで変な攻撃ばっかするの……なんであたしの……そんな……」
手をついた床にミカンの涙が落ちると、次の瞬間オレンジに輝く魔法陣が床に現れた。魔法少女の涙と正義を糧に詠唱が始まったのである。会議室には一瞬だけ静寂が満たす――
が。
既に空中に跳んでいたジョンとハリーは共通の敵、謎の魔法少女目掛けて警棒を振り下ろす。
ぷちミカンの危機にもう一人の魔法少女ぷちブドウの大きな瞳が仮面の下で鋭く光った。
ブ(ミカンの正義ごっこもこれで終わるかなぁ……あ、酸欠…もう無理……)
ぷちブドウが失神した刹那。
ぷちミカンの最大魔法【ポンカン・ビタミンインパクト】の詠唱が終わった。
オレンジ色のまばゆい光は熱を伴って部屋の机を吹き飛ばし、窓ガラスを砕き、そしてビルの構造に深刻なダメージを与えた。