『男のプライド』
会議室。蛍光灯が唸るように鳴る。机を挟んで立つジョンとハリー。口は閉ざされ、目線だけが言葉を発している
資料棚の前で立ち尽くす女――結衣。顔は青ざめ、バインダーは指に喰い込むほど強く握られている。目が二人を往復し、喉が震える
沈黙の中、ジョンがゆっくりと腰に手を伸ばす。スーツの裾をかき分け、警棒を抜く。その動きはゆるやかだが、確実に“始まり”を告げる
結衣「――ちょっ、待って、ジョンッ!?やめて!こんなの、嘘でしょ…っ!」
結衣の目は二人を往復し、ジョンの腰に伸びる手に一瞬止まった。警棒が抜かれると、彼女の顔がさらに青ざめ、慌てて目を反らした。声が震え、言葉が途切れる。
結衣「やめてよ!!お願い、やめて、やだやだ、こんなのやだあっ!!」
椅子がひとつ倒れる。結衣が一歩後ずさり、壁に手をつく。身体は震え、涙が滲む
ジョン「……もう話すことはない。次に動いた方が、壊れるぞ」
ハリーの顎がわずかに上がる。その目は静かに、ジョンの右手を追う。ゆっくりと、ハリーも警棒を握り、構えに移る。腰が沈み、肘が絞られ、足幅が開く
ハリー「話すために来たんじゃない。決着を見届けるためだ」
一瞬の間。椅子の脚が床をきしませる音。書類が一枚、空調でわずかに舞い上がる
ジョン低く「口を閉じてくれて助かる。…俺の手も、ようやく自由になる」
ジョンが踏み込む――警棒を高く構えて振り下ろす。ハリーは軸足をひねって、足の甲で一撃を蹴り止める
ハリー「届いてると思うなよ」
その蹴りの反動を使って、ハリーが即座に警棒を振り上げる。腰を落とし、肘の角度で加速する――ジョンが腕を交差させてガード、腕の骨が軋む
ジョン「……舌より動きが早いな」
ジョンが距離を取って警棒を振る――ハリーがそれを掌で受け流し、返すように自分の警棒を振り下ろす。間一髪避けたジョンの額を警棒の先端が撫でる
ハリー「警棒は言葉より雄弁だ」
ジョン、今度は警棒を斜めに構えて突き出す――ハリーが跳ねるように外し、右足で打点を削ぐ
警棒の弾かれた方向を読むように、ハリーが腰を沈め、警棒を下から振り上げる
ジョン「――その打ち方、俺の昔の癖だ。……よく見てやがる」
ハリーが腰を沈めたまま、警棒を握り直す。ジョンの目が細くなり、次の一手を読み合う静寂
ジョンが先に動く。低い姿勢から、警棒を振り抜く。狙いはハリーの肩――だが、ハリーは素早く半歩引いて回避
勢いのまま、ジョンの警棒が机の角に叩きつけられる。書類が跳ね上がり、ペン立てが転げる
ハリー「当てる気あるのかよ。机に決着を委ねるつもりか?」
ジョン「……俺は投げた。お前が逃げた。それだけの話だ」
ハリーが机を蹴って反動をつけながら踏み込む。警棒を両手で振り下ろす――ジョンが腕で受け、反発で後退
ジョン「蹴りで距離を詰める…小手先で粘る気か?」
ハリーが重心をさらに下げる。片足で床を蹴り、体をひねって警棒を突き上げる――ジョンが避けきれず、机の縁に腰を打ちつける
ジョン「ッ……!」
ハリー「その机、お前の“安全圏”じゃなかったか?今は、殴られる場所だ」
水平に滑ったハリーの警棒が鋭く腹部に突き刺さる。ジョンの身体が弓なりに跳ね、膝が抜けるように床に沈む。息が漏れ、喉の奥で鳴る音が何かを吐き出すようだ
ジョン「ッ…ぅ…それが……お前の、応答か……」
床に片膝をついたまま、警棒を握る指先が震える。内臓に入ったダメージで彼は立ち上がれない
ハリー「ようやく黙ったか。…腹で理解する方が、よほど誠実だろ?」
見ればジョンの警棒は先程のダメージで既に萎みきってしまっていた。
無様なジョンの警棒を一瞥したハリーは、握っていたまだ硬い警棒をズボンに仕舞い込んだ。下ろしていたファスナーをジーーッと閉じる。
結衣「誰か、この馬鹿な男たちなんとかして‥‥」