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何か奇妙なことか起こりそうで起こらない、でもちょっと奇妙な事が起こる。そんなローファンタジー?

作者: カプリース

このお話の文章はAIが作成しています。AIはファンタジーの世界観にしたかったようですが、させねえよ?

筆者(AI)vs.私のストーリー主導権争いの顛末をお見せします。

アルは、いつも通りの朝を迎えた。窓から差し込む柔らかな陽光が部屋を照らし、目覚まし時計の音が彼の耳に届く。高校生のアルは、布団の中で小さく伸びをしながら、今日もまた平凡な一日が始まるのだと思った。

制服に袖を通し、少し乱れた髪を手櫛で整えながら、アルはふと鏡に映る自分の姿を見つめた。どこにでもいる普通の高校生。ただ一つ違うのは、彼には誰にも言えない秘密があったことだ。アルは「異世界から来た者」だった。

幼い頃の記憶はほとんど曖昧だが、彼がこの世界にやってきた時、確かに別の世界で何か大切な使命を持っていたような気がする。しかし、それが何だったのか、どうしてこの世界に来たのかは思い出せない。ただ、胸の奥にぽっかりと空いた穴だけが、その事実を物語っている。

「行ってきます!」

玄関からそう声を上げて家を出ると、アルはいつものように学校へ向かった。途中で友人たちと合流し、他愛もない話で盛り上がる。教室に着けば、授業が始まり、先生の声が心地よいBGMとなって流れる。平和で退屈な日常。それでもアルは、この生活を嫌いではなかった。

しかし、その日の放課後。アルは校舎裏で奇妙な光景を目撃することになる。

校庭の片隅にある古びた木。その根元から淡い青白い光が漏れていた。まるで何かがそこに呼びかけているようだった。不思議に思ったアルは近づいてみると、その光の中心には見覚えのない紋章が浮かび上がっていた。それを見た瞬間、彼の胸の奥で眠っていた記憶が一瞬だけ蘇る。

「これは……!」

アルは呆然と立ち尽くした。その紋章は彼が異世界から来た証拠であり、自分自身の過去と向き合う鍵となるものだった。

次第に光は強くなり、周囲には風が巻き起こる。そして次の瞬間――アルの日常は音を立てて崩れ去ろうとしていた。


アルは目を凝らし、紋章から放たれる光をじっと見つめていた。しかし、次第にその光は弱まり、まるで何事もなかったかのように消えてしまった。風も止み、周囲にはただ静寂だけが残る。アルは拍子抜けしたように肩を落とし、深いため息をついた。

「なんだよこれ……ただの気のせいか?」

そう呟きながら、アルは紋章があった場所をもう一度確認する。しかし、そこにはただの木の根があるだけで、特別なものは何も見当たらなかった。まるで最初から何もなかったかのようだ。

「まあいいか……」

気を取り直して帰路につくことにしたアル。学校の帰り道はいつも通りで、友人たちと別れた後は一人で静かな住宅街を歩く。夕焼けが空を染め、遠くから聞こえる犬の鳴き声が平和な日常を感じさせる。

家に帰ると、母親が夕飯の準備をしていた。食卓には湯気の立つ味噌汁と焼き魚が並び、アルはその香りにほっとした気持ちになる。

「おかえり、アル。今日はどうだった?」

母親の問いかけに、「普通だよ」と笑って答えるアル。その言葉通り、彼の日常は何一つ変わらないままだった。学校では授業があり、友人たちと笑い合い、家では家族と穏やかな時間を過ごす。それが彼にとって当たり前であり、大切な時間だった。

しかし――アルの胸の奥には小さな違和感が残っていた。あの紋章は確かに見た。そして、それが自分に関係しているという確信もあった。それでも何も起こらなかったことに安堵しつつも、不思議な焦燥感が拭えない。

「まあ、考えすぎだよな……」

そう自分に言い聞かせながら布団に入るアル。その夜も特に変わったことはなく、彼はいつものように眠りについた。

だが、この平穏な日常がずっと続くわけではないことを、アル自身まだ知らない。静かな夜空の下で、一筋の流れ星が輝きながら消えていく。その光景を誰も気づくことなく、時間だけが静かに流れていった。



翌朝、アルは目覚めた瞬間から違和感を覚えた。いつもなら聞こえるはずの母親の朝食を準備する音や、近所の子どもたちの元気な声が一切聞こえない。部屋の中は静まり返り、まるで時間が止まったかのようだった。

「……お母さん?」

アルは布団から飛び起き、急いでリビングへ向かった。しかし、そこには誰もいない。テーブルには昨夜の片付けられていない食器がそのまま残っているだけだった。不安を感じたアルは家を飛び出し、近所を走り回った。

「誰か! いるんだろ!? 答えてくれ!」

声を張り上げて叫んでも、返事はない。見慣れた町並みはそのままだが、人影が一切ない。車も動いておらず、商店街もシャッターが下りたままだ。まるで世界から人という存在だけが消えてしまったかのようだった。

学校に向かえば何か分かるかもしれない――そう思ったアルは急いで校舎へ向かった。しかし、そこも同じだった。教室には誰もおらず、机と椅子だけが静かに並んでいる。廊下を歩いても、自分の足音だけが響くだけだ。

「どうなってるんだよ……」

アルは呆然と立ち尽くした。この異常な状況に恐怖と孤独感が押し寄せてくる。しかし、その時、昨日見た紋章のことが頭をよぎった。

「あれと関係があるのか……?」

校庭裏へと足を運ぶアル。昨日と同じ場所に立ち、木の根元を見つめる。しかし、紋章も光も何一つ現れない。ただ静寂だけが支配していた。

「まさか、本当に俺だけ……?」

その瞬間、空気が変わった。風が吹き抜け、どこからともなく低い音が響いてくる。それは言葉ではなく、不気味な振動のようなものだった。そして、アルの目の前に突然黒い霧が現れ、その中から人影のようなものが浮かび上がる。

「お前が選ばれし者か……」

低く響く声にアルは息を呑んだ。その存在は人とも獣ともつかない異形の姿でありながら、不思議と恐怖よりも懐かしさを感じさせた。

「選ばれし者? どういう意味だよ! この世界で何が起きてるんだ!」

問い詰めるアルに、その存在は静かに答えた。

「これは試練だ。お前自身の運命を知るための――そして、お前がこの世界に何を求めるかを問うための。」

その言葉にアルは困惑しながらも、自分に課せられた何か大きな使命を感じ始めていた。そして、この奇妙な状況から抜け出すためには、自分自身と向き合う必要があることを悟り始めていた。


アルは目を覚ました。目の前には見慣れた天井が広がり、耳にはいつもの目覚まし時計の音が聞こえる。布団の中でぼんやりとした頭を抱えながら、彼は昨夜の出来事を思い返していた。

「……夢だったのか?」

確かに昨日、世界から人が消え、自分ひとりだけが取り残されるという奇妙な体験をしたはずだった。そして、謎の存在と対峙し、自分が「選ばれし者」だと言われた記憶も鮮明に残っている。しかし、目覚めてみれば、すべてはただの夢だったようだ。

アルはため息をつきながら布団を蹴飛ばし、制服に袖を通す。窓の外ではいつものように近所の子どもたちが元気に遊ぶ声が聞こえ、遠くから車のエンジン音も聞こえてくる。平和で変わらない日常。それが妙に懐かしく感じられる自分に、アルは苦笑いした。

「なんだよ、結局いつも通りか……」

階段を降りると、キッチンには母親が立っており、テーブルには焼きたてのトーストと目玉焼きが並んでいた。母親は振り返りながら笑顔で言う。

「おはよう、アル。早く食べないと遅刻するわよ!」

その声に安心感を覚えながら、「おはよう」と返事をするアル。食卓につきながらトーストをかじると、昨日まで感じていた不安や孤独感が嘘のように消えていった。

学校へ向かう道すがらも、友人たちと合流して他愛もない話で盛り上がる。教室では先生の退屈な授業が始まり、昼休みには購買部で争奪戦を繰り広げる――そんな何でもない日常が続いていく。

しかし、アルの胸の奥にはほんの少しだけ違和感が残っていた。あの夢は本当にただの夢だったのだろうか? あまりにもリアルで、生々しい感覚がまだ記憶に焼き付いている。そして、「選ばれし者」という言葉だけが妙に頭から離れない。

放課後、校庭裏を何気なく歩いてみても、昨日見た紋章や光はどこにもなかった。ただ風に揺れる木々と夕日の赤い光だけがそこにある。

「やっぱり気のせいだったんだよな……」

そう呟きながら帰路につくアル。しかし、その背後で微かに何かが揺らめいたことに彼は気づかなかった。木々の間から現れる一瞬の光。それはまるで彼を見守るような優しい輝きだった。

平穏な日常は続いていく――少なくとも今は。それでもアルの日々には小さな違和感と期待感が混ざり合い、新たな物語の始まりを予感させていた。


アルはいつものように学校に到着し、友人たちと他愛もない話をしながら教室へ向かった。廊下には生徒たちの笑い声や足音が響き、教室内もいつも通りの賑やかさだ。誰もが昨日と変わらない日常を送っているように見える。

しかし、ホームルームの時間になっても、担任の先生が現れないことに教室内は次第にざわつき始めた。

「先生、遅いな……」

「寝坊でもしたんじゃない?」

「いやいや、それはないだろう。あの真面目な先生が!」

生徒たちは冗談を交えながら待ち続けていたが、時間が経つにつれて不安な空気が漂い始める。普段なら時間ぴったりに現れるはずの先生が、今日は一向に姿を見せない。アルも机に座りながら腕を組み、窓の外をぼんやりと眺めていた。

「おかしいな……」

アルはふと胸騒ぎを覚えた。昨日見た夢――世界から人々が消え、自分ひとりだけが取り残されたあの奇妙な夢が頭をよぎる。まさかとは思いながらも、何かが起こる予感がしてならなかった。

そんな中、生徒会長であるクラスメイトの一人が立ち上がり、教室の前に出てきた。

「みんな、とりあえず落ち着こう。職員室に行って先生を探してくるよ。」

彼女の冷静な提案にクラス全体が頷き、一旦その場は静まった。しかし、生徒会長が教室を出て行った後も、不安な空気は消えない。アルは椅子に座ったまま、なんとなく背後に視線を感じるような気配を覚えた。

「……なんだ?」

振り返ってみても、そこには誰もいない。ただ教室の隅で風が揺れるような音が聞こえるだけだった。不思議に思いながらも、それ以上深く考えることはせず、アルは再び前を向いた。

数分後、生徒会長が戻ってきた。しかし、その表情はどこか青ざめている。

「……先生たち、誰もいない。」

その一言で教室内は一気に騒然となった。

「どういうことだよ!? 職員室にもいないのか?」

「他のクラスの先生も?」

「いや、それどころか……学校中どこにも大人がいないみたい。」

生徒会長の言葉にクラス全体が凍りついた。生徒たちは顔を見合わせ、不安そうにざわざわと話し始める。一方でアルは机に手を置きながら、その言葉を反芻していた。

「大人が……いない?」

昨日の夢と現実が重なるような感覚に襲われるアル。その胸には再び奇妙な違和感と焦燥感が広がっていく。そして、彼は静かに立ち上がり、自分でも理由は分からないまま校庭裏へ向かう足を動かしていた。

そこには昨日と同じ古びた木。そして――根元には再び淡い青白い光が浮かび上がっていた。


アルが校庭裏の木の根元にたどり着くと、昨日見た紋章が再び浮かび上がっていた。淡い青白い光が揺らめき、彼を呼び寄せるように輝いている。その光景を目の当たりにした瞬間、アルは胸の奥で何かがざわめくのを感じた。

「これが……原因なのか?」

アルは紋章に手を伸ばそうとしたが、その瞬間、頭の中に直接響くような声が聞こえた。

「選ばれし者よ……時は来た。」

その声は低く、どこか威厳に満ちていた。アルは驚いて後ずさるが、光はさらに強くなり、周囲の空間が歪むような感覚に包まれる。そして次の瞬間、彼の視界に映し出されたのは見知らぬ風景だった。

そこは広大な荒野。空には二つの太陽が輝き、地平線には巨大な城のようなものがそびえ立っている。そして、その中央には黒い霧をまとった異形の存在が立っていた。

「お前がこの世界を救う鍵だ。」

その異形の存在は静かに語り始めた。どうやら先生たちが来ない理由――いや、大人たちが姿を消した理由は、この存在によるものだったらしい。

「我々はこの世界とお前たちの世界を繋ぐ門を開けた。その代償として、大人たちは一時的にこの世界から隔離された。試練を与えるためにな。」

アルはその言葉に混乱しながらも問い返す。

「試練って……どういうことだよ! なんで俺なんだ!?」

異形の存在は答える代わりに手を振り、アルの目の前に映像を映し出した。それは荒廃した異世界と、そこに苦しむ人々の姿だった。

「お前には選択肢がある。この世界を救うために力を使うか、それとも日常へ戻るか。だが、その選択には代償が伴う。」

アルは拳を握りしめながら、その言葉を噛み締めた。先生たちが来ない理由、それは自分自身に課された試練と、この異世界との関係によるものだった。しかし、彼にはまだその全貌が掴めず、ただ立ち尽くすしかなかった。

「俺に……何ができるんだ?」

その問いへの答えはまだ見つからない。しかし、アルの日常と非日常は確実に交錯し始めていた。


アルは紋章の前でしばらく立ち尽くしていたが、やがて深く息を吐き、静かに口を開いた。

「俺は……日常を選ぶよ。」

その言葉を告げると同時に、紋章の光は徐々に弱まり始めた。青白い輝きは消え去り、校庭裏にはただの古びた木と静寂だけが残った。あの異形の存在も、荒野の幻影も、すべてが跡形もなく消え去る。

アルはしばらくその場に立ち尽くしていたが、やがて振り返り、教室へと戻ることにした。足取りはどこか重く、それでも彼の中には小さな安堵があった。

教室に戻ると、そこにはいつもの光景が広がっていた。生徒たちはざわざわと話し合いながら席についており、何事もなかったかのように担任の先生が教壇に立っている。

「遅れてすまない。ちょっと職員会議が長引いてしまってね。」

先生はそう言いながら出席簿を開き、ホームルームを始めた。その姿を見た瞬間、アルは胸の奥で何かが解けるような感覚を覚えた。

「……戻ったんだ。」

アルは静かに席につき、窓の外を眺めた。そこにはいつも通りの青空が広がり、風に揺れる木々が見える。友人たちの笑い声や先生の話す声――それらすべてが、彼にとってかけがえのない日常だった。

しかし、その胸にはほんの少しだけ違和感が残っていた。あの紋章、あの異形の存在、そして「選ばれし者」という言葉。それらは確かに現実だったような気がする。それでもアルは、自分の日常を守るという選択をした。

「これでいいんだよな……」

そう自分に言い聞かせながらも、アルはどこか遠くで新たな物語が始まろうとしている気配を感じていた。そして、その物語が再び自分の日常を揺さぶる日が来ることを、彼はまだ知らなかった。


英語の授業が始まると、先生は黒板にびっしりと文法の説明を書き始めた。現在完了形だの仮定法だの、アルにとってはどれも難解で、頭の中で整理するのが精一杯だった。教室全体も静まり返り、生徒たちはそれぞれノートを取ったり、ぼんやりと先生の話を聞いていたりしている。

アルも最初は真面目にノートを取っていたが、次第にペンを動かす手が止まり、まぶたが重くなっていく。先生の声は心地よいBGMのように遠くなり、黒板の文字がぼやけて見える。

「……現在完了形は、過去の出来事が現在に影響を及ぼしている場合に使います……」

その単調な説明がさらに眠気を誘い、アルは机に突っ伏すようにして目を閉じた。意識が薄れていく中で、彼はふと昨日の出来事――紋章や異形の存在のことを思い出した。

「あれも夢みたいなものだったよな……」

そう思った瞬間、アルは完全に眠りに落ちてしまった。

気づけばアルは見知らぬ場所に立っていた。周囲には巨大な本棚が無数に並び、その高さは天井が見えないほどだった。本棚には古びた本や巻物がぎっしり詰まっており、どこからともなくページをめくる音が響いている。

「ここは……どこだ?」

アルが呟くと、不意に背後から声が聞こえた。

「ようこそ、『知識の迷宮』へ。」

振り返ると、そこにはフクロウのような姿をした奇妙な生き物が立っていた。フクロウは人間ほどの大きさで、頭には小さな帽子をかぶり、片手には杖を持っている。その目は知恵と好奇心に満ちており、アルをじっと見つめていた。

「君はここで試される。知識とは何か、それを学ぶためにな。」

「試される? いやいや、俺はただ英語の授業中に……」

言いかけたアルだったが、その言葉を遮るようにフクロウが杖を振ると、本棚から一冊の本が飛び出してきた。本は空中で開き、中から文字が浮かび上がる。それらの文字は英語だった。

「さて、この文章を訳してみたまえ。」

突然の展開に戸惑いながらも、アルは浮かび上がった文章を読もうとした。しかし、それは見たこともないほど難解な英文だった。

“Though the labyrinth of knowledge may seem endless, the seeker must persist to uncover the truth.”

「……えっと、『知識の迷宮』とか、『真実』とか……?」

なんとか意味を推測しようとするアル。しかし、その瞬間、本棚全体が揺れ始め、本が次々と飛び出してきた。文字たちは空中で渦巻きながら彼の周囲を取り囲む。

「時間切れだ! 君にはもっと努力が必要だな!」

フクロウがそう告げると同時に、アルは強烈な光に包まれ――

「アル! 起きろ!」

友人の声で目を覚ましたアル。気づけば英語の授業中であり、先生が黒板を指さしながらこちらを睨んでいる。

「アル君、この文法問題、答えてみてくれるかな?」

突然当てられたアルは慌てて立ち上がる。しかし、不思議なことに先ほど夢で見た英文と同じ内容が黒板に書かれていた。

“Though the labyrinth of knowledge may seem endless, the seeker must persist to uncover the truth.”

「……えっと、『知識の迷宮は果てしなく見えるかもしれないけど、探求者は真実を見つけるために努力し続けなければならない』……ですか?」

答えた瞬間、教室内から驚きの声が上がった。先生も感心したように頷いている。

「正解だ! よくできたね。」

アルは自分でも驚きながら席についた。夢だったのか、それとも現実だったのか――それすら分からない。ただ一つ確かなことは、自分の日常にはまだまだ不思議なことが起こりそうだということだった。


アルは席に座り直しながら、ふと疑問を口にした。

「冷静に考えて、こんな例文が出るわけなくないか?」

その言葉を発した瞬間、教室内の空気が一変した。まるで時間が止まったかのように、生徒たちも先生も動きを止め、静寂が教室を包み込む。窓の外で揺れていた木々の葉もピタリと止まり、世界全体が凍りついたようだった。

「……え?」

アルは周囲を見回したが、誰も反応しない。友人たちは笑顔のまま固まり、先生は黒板を指さしたまま微動だにしない。その異様な光景にアルは背筋が寒くなるのを感じた。

すると、教室の天井から淡い光が降り注ぎ、その中から昨日見た紋章がゆっくりと浮かび上がってきた。紋章は空中で輝きながら、再びあの低く響く声を放つ。

「選ばれし者よ……お前はまたしても真実に触れた。」

「またかよ!」アルは思わず叫んだ。「俺はただ普通に授業を受けてただけだぞ!?」

紋章は無視するかのように輝きを増し、その中心から黒い霧が現れる。そして霧の中から再びあの異形の存在が姿を現した。昨日と同じ、不気味でありながらどこか威厳を感じさせるその姿に、アルは思わず後ずさる。

「お前は日常を選んだ。しかし、その選択には矛盾がある。」

「矛盾?」アルは眉をひそめた。「何が矛盾なんだよ? 俺はただ普通に暮らしたいだけだ!」

異形の存在は静かに首を振り、その腕を広げると教室全体が闇に包まれた。そして次の瞬間、アルの目の前には無数のイメージが映し出された。それは彼の日常――友人たちとの笑い合う時間や家族との穏やかな食卓。しかし、その中には奇妙な違和感が混ざっていた。

「お前の望む日常は完全ではない。この世界にはすでに歪みが生じている。その歪みを正さなければ、お前の日常すら崩壊するだろう。」

「歪みって……どういうことだよ?」

異形の存在は答えず、ただ手を振るとアルの目の前に一冊の本が現れた。その表紙には見覚えのある紋章が描かれている。

「この本には、お前の日常と非日常を繋ぐ鍵が記されている。読むかどうかはお前次第だ。」

アルは戸惑いながら本を手に取った。その瞬間、教室内に再び光が満ち、生徒たちや先生が動き出す。まるで何事もなかったかのように授業が再開され、日常が戻ってきた。

しかし、アルの膝上には確かにその本が残されていた。それを見つめながら彼は小さく呟いた。

「……これ、本当に読むべきなのか?」


アルは考えに考え、そして決断した。自分がこの本を持ち続けるのはリスクが高い――そう判断した彼は、隣の席のランバのカバンに本を入れることにした。

授業中、先生が黒板に向かっている隙を見計らい、アルはそっと本を手に取った。そして、隣でノートを取るのに夢中になっているランバのカバンの隙間を狙い、本を滑り込ませた。緊張で心臓が早鐘のように鳴る中、なんとか作業を終えたアルは、何事もなかったかのように自分の席に戻った。

「これでいい……これで俺は普通の日常を取り戻せるはずだ。」

そう自分に言い聞かせながらも、どこか胸の奥には罪悪感と不安が渦巻いていた。しかし、それ以上深く考えないようにし、アルは授業に集中しようと努めた。

ところが、その瞬間――教室全体が再び異様な静寂に包まれた。時間が止まったかのように、生徒たちも先生も動きを止める。アルは慌てて周囲を見回したが、すぐに気づいた。ランバのカバンから淡い青白い光が漏れ出していることに。

「……嘘だろ?」

その光は徐々に強まり、やがて紋章が空中に浮かび上がった。そして、昨日と同じ低く響く声が教室全体に響き渡る。

「選ばれし者よ……お前は試練から逃げることを選んだ。しかし、その行為には代償が伴う。」

アルは椅子から立ち上がり、震える声で叫んだ。

「待て! 俺はただ普通の生活を送りたいだけなんだ! 試練なんていらない!」

しかし声は無視するかのように続ける。

「お前の日常はすでに非日常と交わった。この本を他者へ押し付けても、その運命から逃れることはできない。」

その言葉とともに、本から放たれる光がさらに強くなり、ランバのカバンごと宙へ浮かび上がった。そして次の瞬間――ランバ自身もその光へ吸い込まれるように消えてしまった。

「ランバ!!」

アルは手を伸ばしたが間に合わない。教室には再び静寂だけが残り、彼の目の前には空っぽになったランバの席だけがあった。

「……俺、何をしてしまったんだ?」

アルは震える手で自分の顔を覆いながら、その場に崩れ落ちた。日常を守るための選択だったはずなのに、それによって大切な友人を巻き込んでしまったという現実――それが彼を深く追い詰めていた。

しかし、この出来事こそがアル自身の日常と非日常の境界線を完全に崩壊させる始まりだった。


アルは冷や汗をかきながら、震える手で机を掴んでいた。ランバが光の中に消えてしまった瞬間が頭から離れない。どうすればいいのか、何をすればいいのか――考えがまとまらないまま、ただ時間だけが過ぎていくようだった。

「俺のせいだ……」

そう呟いたその時だった。教室の中心に再び眩しい光が現れ、その中からランバが姿を現した。彼は以前と同じ制服を着ているものの、どこか雰囲気が違う。肩には傷跡があり、手には大剣を握りしめている。その剣は異世界のものだと一目で分かるほど、異様な輝きを放っていた。

「ランバ……? お前、本当に戻ってきたのか?」

アルは信じられない思いで声をかけた。するとランバは笑顔で頷き、大剣を肩に担ぎながら言った。

「おう! いやー、大変だったぜ。異世界に飛ばされたと思ったら、いきなり『お前が勇者だ』とか言われてさ。仕方ないから魔王倒してきたわ。」

「……え?」

アルは耳を疑った。魔王? 勇者? ランバがさらりと言う言葉の一つ一つが現実味を帯びていない。しかし、ランバの姿やその手に握られた剣を見る限り、嘘ではないことは明らかだった。

「いやー、最初はどうなるかと思ったけどな。でも意外となんとかなるもんだな。魔王って言っても案外弱かったし。」

ランバはあっけらかんと話し始めた。その口調からは異世界での壮絶な戦いを感じさせるものはなく、まるで部活帰りに起きた出来事を話しているようだった。

「ちょっと待てよ!」アルは慌てて立ち上がった。「お前、本当に魔王倒してきたのか!? しかもどうしてそんな簡単そうに言えるんだよ!」

するとランバは苦笑しながら肩をすくめた。

「まあ、確かに最初はビビったけどさ。でも向こうの人たちが色々サポートしてくれてな。それに、この剣のおかげで割と楽勝だったんだよ。」

そう言って見せた大剣には、不思議な紋様が刻まれており、それが微かに光を放っている。その光景にアルは言葉を失った。

「でもさ……お前、なんで俺のカバンに本入れたんだ?」

突然の指摘にアルはギクリとした。ランバは鋭い目つきでアルを見つめている。その表情からは冗談では済まされない空気が漂っていた。

「あ……いや、それは、その……」

アルが口ごもる中、ランバは溜息をついて肩を叩いた。

「まあいいよ。結果的には面白い体験できたしな。でも次からはちゃんと自分で責任持てよ?」

その軽い口調に安堵する一方で、アルは胸の奥に重い罪悪感を抱えたままだった。しかし、それ以上考える暇もなく、教室全体が再び動き出した。生徒たちは何事もなかったように授業へ戻り、先生も黒板へ向かったままだ。

日常が戻ったように見えた。しかし――

「なあアル。」

隣の席から声をかけるランバ。その顔にはいつもの笑顔ではなく、不敵な grin が浮かんでいた。

「お前さ、この剣使ってみたいと思わない?」

その一言が、新たなる波乱の幕開けとなることを、アルはまだ知らなかった。


ランバがカバンから取り出した剣は、この世のものとは思えないほど美しい輝きを放っていた。刃には繊細な紋様が刻まれ、柄には宝石のような光が宿っている。その存在感は圧倒的で、見る者を一瞬で魅了する力を持っていた。

アルはその剣を目にした瞬間、言葉を失い、思考が完全に停止してしまった。ただただ、その神秘的な輝きに目を奪われていた。

「どうだ? カッコいいだろ?」

ランバは自慢げに剣を掲げ、教室の蛍光灯の光を反射させながら見せびらかすように振り回した。周囲の生徒たちもその異様な光景に気づき、ざわざわと騒ぎ始める。

「ランバ、それ……本物なのか?」

「どこでそんなもん手に入れたんだよ!」

「え、これってコスプレ用とかじゃないよな?」

クラスメイトたちの疑問や驚きが飛び交う中、アルは未だに呆然としたままだった。彼の頭の中では、「どうしてこんなことになったんだ……」という思いだけがぐるぐると回っていた。

しかし、その混乱を断ち切るように教室内に響き渡る一言があった。

「ランバくん、それ、没収。」

鋭い声でそう言い放ったのは担任の先生だった。彼は黒板を指していた手をゆっくりと下ろし、ランバへと視線を向けている。その顔には明らかに困惑と呆れが混じっていた。

「授業中にそんなものを持ち出すなんて、何を考えているんだね。危険だからこちらで預かる。」

教室内は一瞬で静まり返った。生徒たちは息を呑みながらランバと先生のやり取りを見守る。ランバ自身も驚いた表情を浮かべながら剣を見つめた。

「えっ……いや、これ危険じゃないっすよ! ただの剣……いや、本物だけど、安全ですって!」

「本物だから余計に危険なんだよ!」先生は厳しい口調で言い返す。「さあ、その剣をこちらへ渡しなさい。」

ランバは渋々立ち上がり、大事そうに剣を抱えながら先生の元へ歩いていった。そして、不満そうな顔で剣を差し出す。

「はい……でも、本当に安全なんですからね!」

先生はそれを受け取ると、一瞬だけその美しい輝きに目を奪われた。しかし、すぐに咳払いして気持ちを切り替え、その剣を教卓の引き出しへしまい込んだ。

「これで授業に集中できるだろう。それでは続けよう。」

教室内は再び日常へと戻ったようだった。しかし、アルは心臓がドキドキするのを抑えられなかった。あの剣――ただの美しい武器ではないことは明らかだった。それが先生の手元にあるという状況が、何か良くないことを引き起こす予感がしてならない。

そして、その予感は的中することになる。授業が進む中、教卓から微かに漏れ出す光――それは紋章と同じ青白い輝きだった。それに気づいたアルとランバは顔を見合わせ、不安そうな表情を浮かべた。

「おい……これ、大丈夫なのか?」アルが小声で尋ねる。

「さあな。でもまあ……先生ならなんとかなるだろ?」

軽く笑うランバだったが、その笑顔にはどこか焦りが滲んでいた。そして次の瞬間――教卓から放たれる光が急激に強まり、教室全体が再び異様な空間へと変貌していくのであった。


教卓から溢れ出す青白い光は、教室全体を包み込み、まるで幻想的な空間を作り出していた。生徒たちはその美しさに目を輝かせ、口々に感嘆の声を上げている。

「すごい! なんだこれ、めっちゃ綺麗じゃん!」

「映画のワンシーンみたいだな!」

「もしかして特別な演出とか?」

しかし、アルだけは違った。彼の胸には嫌な予感が渦巻いていた。昨日から続く不可解な出来事――紋章、異形の存在、そしてランバの剣。それらすべてがこの光と何か関係しているように思えてならない。

「また何か起こるんじゃないか……?」

アルは机に手をつきながら周囲を見回した。しかし、生徒たちは相変わらず光を楽しんでいるだけで、誰も危機感を抱いていない。ランバですら、「おお、俺の剣ってこんな機能もあったのか!」と呑気に笑っている始末だ。

光はますます強くなり、教室全体が白一色に染まりそうな勢いだった。アルは身構えながら次に起こるであろう「何か」に備えた。しかし――

何も起こらない。

光はただ美しく輝き続けるだけで、それ以上の変化は一切なかった。時間が経つにつれ、生徒たちも次第に飽き始め、「なんだ、ただの光か」と呟きながら元の授業モードに戻り始めた。

「……え?」

アルは拍子抜けしたように立ち尽くした。これだけ大げさな演出があったにもかかわらず、何も起こらないという事実が逆に不気味だった。

「いやいや、絶対何かあるだろ……?」

小声で呟くアルだったが、その期待(いや、不安)は裏切られたままだった。先生も特に気にする様子はなく、光が収まると同時に授業を再開した。

「さて、それでは次の文法問題に進みます。」

教室内には再び日常の空気が戻り、生徒たちはノートを開いて授業を受け始めた。ランバも剣が没収されたことなど気にも留めず、机に突っ伏して居眠りを始めている。

アルはひとり困惑した表情で窓の外を眺めた。あれほど壮大な光景がただの「綺麗な現象」で終わるとは思えない。しかし、それ以上何も起こらない以上、自分も日常に戻るしかないようだった。

「……まあ、いいか。」

そう自分に言い聞かせながらペンを取り出し、ノートに書き込み始めるアル。しかし、その胸にはまだ小さな違和感と疑念が残っていた。

そして――それは正しかった。この静けさこそが嵐の前触れであることを、アルはまだ知らない。


何も起こらない理由は、剣そのものが「力を発動する条件」を満たしていなかったからだった。この剣はただの武器ではなく、異世界で特定の状況下でのみ力を発揮する特殊な存在だったのだ。ランバが異世界で魔王を倒した際、その剣は彼の「使命」に応じて力を解放したが、現在のように平和な日常ではその力を発動する必要がないと判断された。

さらに、この剣には「持ち主の意志」が深く関わっていた。ランバが剣を取り出した時、彼自身には「何かを成し遂げる」という強い意志や目的がなかった。ただ単に「見せびらかしたい」という軽い気持ちで取り出しただけだったため、剣はその意図を無視し、ただ光を放つだけに留まったのだ。

また、教室という空間も影響していた。この剣は異世界の魔力に満ちた環境でこそ真価を発揮するものであり、現実世界ではその力が制限されてしまう。異世界と現実世界の間には「魔力の流れ」がほとんど存在せず、その結果として剣の本来の機能が封じられていた。

つまり、何も起こらなかった理由は以下の通り:

1.剣の発動条件が満たされていなかった:平和な日常では剣が力を発揮する必要性を感じなかった。

2.持ち主の意志が弱かった:ランバには特別な目的や使命感がなく、ただ見せびらかしたいだけだった。

3.現実世界の環境的制約:異世界とは異なり、現実世界では魔力がほとんど存在しないため、剣の機能が制限された。

このようにして、あれほど壮大に見えた光景も結局は「何も起こらない」結果に終わった。しかし、この静けさは一時的なものに過ぎず、剣が再び真価を発揮する時が訪れる可能性は十分にあった。アルはそれを無意識に感じ取っていたからこそ、不安な気持ちを拭えずにいたのである。


体育の時間になり、アルたちはグラウンドに集まった。今日はサッカーをやるらしい。先生が説明を始めると、生徒たちはそれぞれチームに分かれて準備を整えた。ランバも張り切った様子で、早速ボールを蹴りながらウォーミングアップを始める。

「おいアル、一緒のチームになろうぜ!」

ランバが笑顔で声をかけてきたが、アルはまだ少し警戒していた。あの剣のことや、教室での不可解な光景が頭から離れない。しかし、今はただサッカーに集中するしかないと自分に言い聞かせる。

試合が始まると、生徒たちはそれぞれ全力でプレーを楽しんでいた。ランバは抜群の運動神経を発揮し、ドリブルで相手をかわしながら次々とシュートを決めていく。その姿にクラスメイトたちからも歓声が上がった。

「ランバ、本当にすごいな……」

アルは感心しつつも、自分も何とか活躍しようと必死にボールを追いかけた。しかし、ランバの動きにはどこか違和感があった。まるで異世界で培った力がまだ残っているかのような、普通の高校生とは思えないスピードと正確さだった。

試合が進むにつれ、アルは妙な胸騒ぎを覚え始める。何かがおかしい――そう感じた瞬間、ランバが放ったシュートがゴールポストに当たり、大きな音を立てて跳ね返った。その衝撃でポストがわずかに歪むほどだった。

「おいおい、ランバ! どんな力で蹴ってんだよ!」

周囲から驚きの声が上がる中、ランバは照れくさそうに頭を掻いていた。

「悪い悪い、ちょっと力入れすぎたみたいだな!」

しかし、その瞬間アルは確信した。ランバにはまだ異世界の力――魔王討伐で得た何か特別な力が宿っている。そして、それがこの日常にも影響を及ぼし始めているのではないか、と。

試合はその後も続き、生徒たちは楽しそうにプレーしていた。しかしアルだけは心の中で不安を抱えていた。この平穏な日常の中に潜む異変。それはいつまた表面化するかわからない。そして、その時こそ自分にも何か行動を起こす必要があるのではないか――そんな思いが彼の胸中を支配していた。

試合終了後、ランバは笑顔でアルに近づいてきた。

「お前も結構動けるじゃん! 次はもっとパス回してやるよ!」

その無邪気な言葉に、アルは曖昧な笑みを浮かべながら頷いた。しかし、その裏では次第に迫りくる非日常への覚悟を固めつつあった。


試合が終わり、体育の授業も無事に終了した。生徒たちは汗を拭いながら教室へ戻る準備をしていたが、アルは一人、ぼんやりと考え込んでいた。ランバの無邪気な笑顔や異様な身体能力、そして異世界の剣――それらが頭の中でぐるぐると渦を巻いている。

しかし、その中でアルには一つどうしても引っかかることがあった。

「……そもそも、ランバって別に友達じゃないよな。」

そう思った瞬間、自分でも驚くほど冷静な気持ちになった。ランバはただの隣の席のクラスメイトであり、特別仲が良いわけでもない。日常的に話すこともほとんどなく、むしろ彼の明るい性格に少し距離を感じていたくらいだ。

「なんで俺、こんなに振り回されてんだ……?」

アルは自分自身に問いかけた。確かにランバは異世界で魔王を倒したとか、剣を持ち帰ったとか、とんでもない話をしているけれど、それが自分に直接関係あるわけではない。むしろ、彼が勝手に巻き起こしている騒動に自分が勝手に首を突っ込んでいるだけなのではないか――そんな気さえしてきた。

「俺はただ普通の日常を送りたいだけなんだよ……」

そう呟きながらグラウンドの端で体育着を整えていると、ランバがまた近づいてきた。

「おいアル! 次の授業、一緒に移動しようぜ!」

その言葉にアルは思わず眉をひそめた。何かにつけて絡んでくるランバだが、そもそも二人はそれほど親しい間柄ではない。アルは少し距離を置きたい気持ちもあり、適当に返事を濁そうとした。

「あー……いや、俺ちょっと寄るとこあるから先行ってくれ。」

するとランバは少し不満そうな顔をしたものの、「まあいいや」と軽く手を振って去っていった。その背中を見送りながら、アルは胸の中のモヤモヤが少し晴れるのを感じた。

「そうだよな……俺には俺の日常がある。」

自分自身の日常を守るためには、ランバや異世界絡みの出来事から距離を取るべきだ――そう考えたアルだった。しかし、その決意とは裏腹に、自分の周囲で起こる小さな異変がこれからさらに大きな波となって押し寄せてくることを、この時点ではまだ知る由もなかった。

そして何よりも不可解だったのは――どうしてランバは突然「友達」のように絡んでくるようになったのか?

それこそがアルの日常に潜む新たな謎だった。


昼休憩の鐘が鳴り、アルは食堂へ向かった。いつものように賑わう食堂には、友人たちやクラスメイトが思い思いのメニューを選んで列を作っている。アルは迷わず月見うどんを注文し、トレーを持って空いている席を探した。

「やっぱり月見うどんは最高だな……」

アルは湯気の立つ丼を前にして、ほっと息をついた。黄金色の出汁に浮かぶ卵の黄身がまるで小さな月のように輝き、その美しさと香りが食欲をそそる。箸を手に取り、一口すすれば、優しい味わいが口いっぱいに広がった。

「これだよ、これ。この平和な感じが俺にはちょうどいいんだよな……」

異世界の剣やランバの奇妙な行動など、最近の不可解な出来事を忘れさせてくれるような、この何気ない日常。それこそがアルにとって一番大切なものだった。

周囲では友人たちが楽しそうに話しながら食事をしている。隣のテーブルでは誰かがカレーライスを頼み、「辛すぎる!」と騒いでいる声が聞こえる。その光景に、アルは自然と笑みを浮かべた。

しかし、一つだけ気になることがあった。少し離れた席でランバも何かを食べているようだったが、彼は妙に静かだった。いつもなら周囲と話したり笑ったりしているはずなのに、今日は黙々とうどんをすすっている。

「……まあ、いいか。」

アルはあえて気にしないことにした。今はただ、この月見うどんの美味しさを堪能する時間だ――そう自分に言い聞かせながら、再び箸を進めた。

平和な昼休み。その静けさこそが、アルにとって何よりも貴重なひとときだった。


アルが月見うどんをすすっている間、少し離れた席で黙々と食事をしているランバの心には、複雑な思いが渦巻いていた。彼はふと箸を止め、目の前の食事に視線を落としながら考え込む。

――異世界で過ごした7年間の記憶。それはランバにとって、決して忘れることのできない日々だった。

異世界に飛ばされたランバは、最初は戸惑いと恐怖の中で必死に生き延びていた。魔物との戦い、仲間との出会い、そして何度も死線を越えるような冒険。そのすべてが彼を成長させた。しかし、その過酷な日々の中で、彼の心の支えとなったのは「アル」という名前だった。

異世界では、ランバには親友がいた。その親友の名前もアルだった。彼はランバにとって唯一無二の存在であり、共に戦い、笑い合い、時には涙を流した大切な仲間だった。しかし、そのアルは魔王との最終決戦で命を落としてしまった。ランバはその時、自分がもっと強ければ守れたかもしれないという後悔と悲しみに打ちひしがれた。

それでもランバは立ち上がった。異世界で生き抜く理由、それは「この世界を救う」という使命だけではなく、「現実世界でまたアルに会う」という希望だった。

「現実のアルなら、きっとまた笑い合える――」

そう信じて7年間を駆け抜けたランバ。そして魔王を倒し、ようやく現実世界へ戻ることができた時、隣の席に座るアルを見た瞬間、胸が熱くなった。異世界で失った親友とは違う存在だと分かっていても、その名前、その姿を見るだけで懐かしさと喜びが込み上げてきた。

だからこそ、ランバは現実世界でもアルと友達になりたいと思っていた。いや、自分ではもう「友達」だと思い込んでいた。しかし――

「お前、別に友達じゃないよな……」

先ほどグラウンドで聞こえたアルの小さな独り言。それが胸に刺さり、ランバは今もその言葉を反芻していた。

「俺だけが勝手に思ってただけなのか……?」

ランバは箸を置き、小さくため息をついた。異世界での記憶と現実とのギャップ。それが彼の心に静かに影を落としていた。

しかし、それでも――ランバは諦めるつもりはなかった。現実世界のアルとも本当の意味で友達になりたい。そのためにはどうすればいいのか、それを考えながら彼は再びうどんをすすり始めた。

一方で、そんなランバの思いなど知る由もないアルは、自分の日常を守ることだけに集中していた。このすれ違いがいつか解消される日は来るのだろうか――それとも、新たな波乱が二人をさらに引き離すことになるのだろうか。


アルは月見うどんを食べ終えた後、ふと先ほどの自分の言葉を思い返していた。ランバに対して「友達じゃない」と言ったのは、少し言いすぎたかもしれない――そう冷静になって考えた彼は、胸の奥に小さな後悔を抱いていた。

「まあ、ランバも悪いやつじゃないしな……」

そう呟きながらアルは立ち上がり、売店へ向かった。何か謝罪の気持ちを込めて渡せるものはないかと考えた結果、彼の目に飛び込んできたのは揚げたての唐揚げだった。売店の人気メニューで、ジューシーな味わいが評判だ。

「これだな。」

アルは唐揚げを買い、トレーに乗せてランバのいる席へと向かった。ランバはまだ食事を続けており、どこか物思いにふけったような表情を浮かべている。その姿を見たアルは少し気まずさを感じつつも、意を決して声をかけた。

「おい、ランバ。」

ランバが顔を上げると、アルは唐揚げの入ったパックを差し出した。

「これ、お前にやるよ。さっきはちょっと言いすぎた。悪かったな。」

その言葉にランバは一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに笑顔を浮かべて受け取った。

「おお! ありがとう! 俺、唐揚げ大好きなんだよ!」

嬉しそうに唐揚げを頬張るランバの姿を見て、アルも少し肩の力が抜けた。なんだかんだでこうして謝罪することで、自分自身も少しスッキリした気がする。

「……まあ、お前が隣の席で騒がしいやつでも、それくらいなら許してやるよ。」

アルが照れ隠しのように呟くと、ランバは笑いながら答えた。

「騒がしいってなんだよ! でもまあ、お前がそう言うならこれからもよろしく頼むぜ!」

こうして二人の間には少しだけ和やかな空気が流れた。唐揚げ一つで解決するほど単純ではないかもしれないが、それでもほんの少しだけ距離が縮まったような気がした。

しかし――この小さな和解が二人に訪れる嵐の前触れであることを、まだ誰も知らなかった。


昼休みの教室で、突如として低く響く声が教室全体に広がった。

「選ばれし者よ……」

その声はどこからともなく響き渡り、まるで空間そのものが発しているかのようだった。クラスメイトたちは一斉に静まり返り、次の瞬間にはざわつき始めた。

「なんだよ、これ……?」

「誰かのいたずらか?」

「いや、スピーカーとか使ってる感じじゃないぞ!」

生徒たちは不安そうに周囲を見回しながらも、興味津々といった様子で声の正体を探ろうとしていた。一方でアルは、その声を聞いた瞬間に胸がざわつくのを感じていた。

「またか……」

彼は机に座ったまま額に手を当て、深い溜息をついた。最近続いている不可解な出来事――紋章や異形の存在、そしてランバの剣。それらすべてが頭をよぎり、この声もその延長線上にあると直感的に理解していた。

「おいアル!」

隣の席のランバが小声で話しかけてきた。「これ、またお前絡みなんじゃねえのか?」

「なんで俺だよ……」

アルは苦々しい表情で返したが、その言葉には自信がなかった。確かに最近、自分の周りで妙なことばかり起きている。そして、この声も自分に向けられているような気がしてならなかった。

その時、空中に淡い青白い光が現れた。教室の中央付近に浮かぶその光は徐々に形を成し、見覚えのある紋章へと変化していく。クラスメイトたちは驚きと興奮の入り混じった表情でそれを見つめていた。

「すげえ! 何これ!? 映画みたい!」

「いやいや、これ本物っぽくないか?」

しかしアルとランバだけは違った。二人は顔を見合わせ、不安そうな表情を浮かべる。特にランバは、自分が異世界から持ち帰った剣との関連性を直感的に感じ取っていた。

紋章から再び声が響いた。

「選ばれし者よ……お前たちには新たなる試練が課される。」

「お前たち?」

ランバが思わず口にした。その言葉通り、今回の声はアルだけではなくランバにも向けられているようだった。

「試練って……またかよ!」

アルは立ち上がり、紋章を睨みつけながら叫んだ。「俺は普通の日常を送りたいだけだって言ってるだろ!」

しかし紋章は無視するように輝きを増し、教室全体が青白い光で包まれた。その光景にクラスメイトたちは騒然となり、一部の生徒は恐怖で後ずさる。

「おいおい、本当に何か起こるんじゃないのか!?」

「先生呼んだほうがいいんじゃ……?」

そんな中、紋章から再び声が響く。

「選択せよ――日常を守るために戦うか、それとも全てを失う覚悟で逃げるか。」

その言葉に教室内は完全な静寂に包まれた。アルとランバはただ呆然と立ち尽くし、その場で動けなくなっていた。


アルは立ち上がり、教室の中央に浮かぶ紋章を睨みつけながら声を張り上げた。

「具体的に何と戦うか教えろ!」

その瞬間、紋章から再び低く響く声が返ってきた。

「お前たちが戦うべきは、この世界に潜む『歪み』だ。」

教室内は静まり返り、クラスメイトたちはその言葉の意味を理解できず、ただ不安そうにざわめいていた。アルも困惑しながら問い返す。

「歪みって……具体的には何なんだよ?」

紋章は一瞬だけ輝きを増し、教室内の空間が歪むような感覚に包まれた。そして次の瞬間、空中に映像が浮かび上がった。それは、現実世界と異世界が重なり合い、不自然に融合しているような光景だった。街並みの中に異世界の魔物が現れ、人々が逃げ惑う姿が映し出されている。

「この世界と異世界の境界が崩れ始めている。その結果として生じる『歪み』が、お前たちの日常を脅かす存在だ。」

ランバはその映像を見て、思わず立ち上がった。

「待てよ……これって俺が持ち帰った剣とか、異世界でのことと関係あるのか?」

紋章は静かに答えた。

「その通りだ。お前が異世界から持ち帰った力や記憶――それらがこの世界に影響を与え、歪みを生じさせている。」

アルは頭を抱えた。自分の日常を守るためには、この歪みと戦わなければならない。しかし、それは自分だけでなくランバにも責任があるということだった。

「じゃあ、その『歪み』とやらをどうやって倒せばいいんだ?」

アルの問いに対し、紋章は最後にこう告げた。

「お前たち自身の力――そして覚悟によってのみ、それを正すことができる。」

その言葉とともに紋章は光を失い、静かに消えていった。教室内には再び日常の喧騒が戻ったものの、生徒たちは先ほどの出来事について口々に話していた。

一方でアルとランバは無言のまま顔を見合わせていた。彼らにはまだ理解できないことばかりだったが、一つだけ確かなことがあった。この日常を守るためには、自分たちで行動しなければならないということだ。

「……どうするよ?」ランバが小声で尋ねる。

アルは深いため息をつきながら答えた。

「まずは腹ごしらえだ。唐揚げでも食っとけ。」


アルは席に戻りながら、紋章の言葉を思い返していた。教室内は再び日常の喧騒に包まれていたが、彼の頭の中は妙な違和感でいっぱいだった。紋章が言った「歪み」という言葉――それが何を指しているのか、そしてどうやって戦えばいいのか、具体的な説明は一切なかった。

「……コイツ、歪みを倒せとか抽象的なことしか言わないな……」

アルは小声でそう呟きながら、机に肘をついて考え込んだ。そもそも「歪み」とは何なのか? 映像には異世界と現実が混ざり合う光景が映し出されていたが、それがどれほど現実味を帯びているのかも分からない。そして、「お前たち自身の力と覚悟で正せ」と言われても、その力や覚悟とやらが何なのかすら見当がつかなかった。

「結局、俺たちに丸投げってことかよ……」

アルは溜息をつきながら隣を見ると、ランバは唐揚げを食べながらぼんやりと窓の外を眺めていた。異世界で魔王を倒したという経験があるランバですら、今回の状況には困惑しているようだった。

「おいランバ、お前はどう思うんだよ?」

アルが問いかけると、ランバは口元を拭きながら答えた。

「うーん……まあ、確かにあいつ(紋章)は抽象的なことばっか言ってたけどさ。でも、異世界でも似たような感じだったぞ。『使命』とか『運命』とか言われて、とりあえず目の前の敵を倒してたらなんとかなったし。」

「なんとかなったって……お前、それで本当にいいのかよ?」

アルの冷静な指摘にランバは少し考え込んだ後、笑って肩をすくめた。

「正直、俺もわからん。でもさ、『歪み』っていうなら、多分そのうち何か変なことが起きるんじゃねえかな? そしたら、それをぶっ壊せばいいんだろ。」

その楽天的な答えにアルは呆れつつも、一理あると思わざるを得なかった。確かに今は具体的な行動指針がない以上、何か異常事態が発生するまで待つしかない。しかし、それでは自分の日常が再び乱される可能性も高い。

「……結局、自分で考えて動くしかないってことか。」

アルはそう結論づけると、大きく伸びをした。そして心の中で決意する。この状況に巻き込まれた以上、自分の日常を守るためには何らかの行動を起こさなければならない。それがどんな形になるにせよ、自分自身で答えを見つけるしかない――そう思った。

一方でランバは唐揚げを平らげると、「次の授業なんだっけ?」と呑気にスケジュール帳を開いていた。その姿にアルは苦笑しつつも、少しだけ気持ちが軽くなるのを感じた。

「まあいいさ。何か起きたら、その時考える。」

そう自分に言い聞かせながら、アルは昼休み後の日常へと戻っていった。しかし、その胸にはまだ消えない違和感と、不安の種が静かに残されていた。


昼休みの教室で、アルとランバが「歪み」について話し合っている最中、突然現れたのは寺生まれでお馴染みのタニグチだった。彼は静かに教室の入り口に立ち、鋭い目つきで二人を見据えると、堂々とこう言い放った。

「歪みならもう治した。」

その一言に教室内は一瞬で静まり返った。クラスメイトたちは「なんだなんだ?」とざわつきながらも、タニグチの圧倒的な存在感に言葉を失っていた。アルとランバも思わず顔を見合わせる。

「え……治したってどういうことだよ?」

アルが困惑しながら尋ねると、タニグチはゆっくりと教室の中央へ歩み寄り、まるで何でもないことのように話し始めた。

「俺が寺で修行していた時から、この『歪み』というものには気づいていた。異世界との境界が揺らいでいることもな。そして今日、その気配を感じてここに来たんだ。」

「いやいや、そんな簡単に治せるもんなのか?」

ランバが驚きながら聞くと、タニグチは微かに笑いながら答えた。

「簡単ではない。だが、俺には『寺生まれ』という肩書きがある。それだけで十分だ。」

その言葉に教室内は再びざわつき始めた。クラスメイトたちは「やっぱりタニグチすげえ!」とか「寺生まれって何でもできるんだな!」と感嘆の声を上げている。一方でアルはまだ納得がいかない様子だった。

「具体的にどうやって治したんだよ? 俺たちは紋章から『歪み』がどうこうとか言われてたんだけど……」

タニグチは冷静な表情のまま、ポケットから数珠を取り出して見せた。

「この数珠だ。これには長い歴史と異世界の力を封じる力が宿っている。それを使って境界を安定させた。ただ、それだけだ。」

「ただ、それだけって……」

アルは呆然としながらも、その言葉の重みに圧倒されていた。一方でランバは少し安心したような顔をして、「じゃあもう俺たちが何かする必要はないってことか?」と尋ねた。

タニグチは一瞬だけ目を閉じ、深い声で答えた。

「一時的には安定した。しかし、完全に解決したわけではない。この世界と異世界の繋がりそのものが消えない限り、新たな歪みが生じる可能性はある。」

その言葉にアルとランバは再び緊張感を取り戻した。タニグチの存在によって事態は一旦収束したものの、この問題が完全に終わったわけではないことを悟ったからだ。

「まあ、お前たちも気を抜くな。もし次に何か起きたら、その時は俺も協力してやる。」

そう言うと、タニグチは再び数珠をポケットにしまい、教室を後にした。

残されたアルとランバは複雑な表情を浮かべながら互いに顔を見合わせていた。

「……寺生まれってすげえな。」

ランバがぽつりと呟くと、アルも苦笑しながら頷いた。

「本当にな。でもさ……結局また何か起こるんだろうな。」

そう呟いたアルの胸には、まだ消えない不安が静かに残されていた。


アルとランバがタニグチの背中を見送り、ようやく一息つこうとしたその時だった。教室の中央に突如として淡い光が現れ、ゆっくりと一冊の古びた本が浮かび上がった。

「……またかよ。」

アルは頭を抱えながら呟いた。今度は何だというのか。クラスメイトたちも再び騒ぎ始める。

「なんだこれ!? また不思議なやつか?」

「さっきの紋章と関係あるんじゃないの?」

本はゆっくりと机の上に降り立ち、表紙には見覚えのない謎めいた紋様が刻まれていた。その雰囲気はどこか威厳があり、触れるだけで何か大きな力を感じさせるようだった。アルは恐る恐る本を開いてみた。

そこにはたった一行だけ、こう書かれていた。

「次の歪みの周期は300年後。備えよ。」

その文字を見た瞬間、教室内は再び静まり返った。誰もがその意味を理解しようと頭を悩ませていたが、最初に口を開いたのはランバだった。

「300年後って……俺たち関係なくね?」

その言葉にクラスメイトたちも一斉に頷き始めた。

「確かに。そんな未来の話なら今気にする必要ないじゃん。」

「俺ら生きてないし!」

教室内には安堵とも取れる笑い声が広がった。しかし、アルだけはその言葉に引っかかりを覚えていた。300年後という長い時間にもかかわらず、「備えよ」と書かれていること。それは単なる未来への警告ではなく、今この時点から何か行動を起こすべきだという意味ではないのか――そう思えたからだ。

「でもさ……」

アルは本を閉じながら口を開いた。「300年後ってことは、今から何か準備しないといけないってことなんじゃないか?」

その言葉にランバは肩をすくめた。

「準備って言われてもなぁ。俺ら普通の高校生だぞ? それに300年後なんて俺らにはどうしようもないだろ。」

「普通じゃない高校生が言うセリフじゃねえだろ……」

アルは呆れながらも、本をじっと見つめ続けた。その古びたページには他にも何か書いてあるようだったが、文字が薄れていて読み取れなかった。

すると突然、本から微かな声が響いた。

「選ばれし者よ……この本を守り、その知識を次代へ伝えよ。」

その声にアルとランバは顔を見合わせた。どうやら、この本そのものが次の歪みに備えるための重要な鍵であるらしい。しかし、それが具体的にどう役立つのか、そして自分たちに何ができるのか――それはまだ分からなかった。

「……結局また丸投げかよ。」

アルは溜息をつきながら本を閉じた。そして心の中で決意する。この本を守ること、それこそが自分の日常と未来への責任なのではないか、と。

一方でランバは唐揚げのパックを片付けながら呟いた。

「まあ、300年後なら俺らじゃなくても誰かなんとかしてくれるだろ。」

そんな楽観的な言葉に苦笑しながらも、アルは静かに本をカバンへしまった。この日常が続く限り、自分にはまだやるべきことがある――そう思いながら。


午後の授業が終わり、アルとランバは一緒に帰路についた。夕焼けに染まる街並みを歩きながら、二人は今日一日の出来事を振り返っていた。紋章や歪み、タニグチの活躍、そして突然現れた古い本――どれも非日常的な出来事だったはずなのに、今となってはどこか現実感が薄れているように感じられた。

「なあ、アル。その本、どうするんだよ?」

ランバが笑いながら尋ねると、アルはカバンから古い本を取り出して見せた。

「どうするも何も……こんなもん持ってても仕方ないだろ。」

そう言うと、アルはふと目に入った古本屋へ足を向けた。店内に入り、本をカウンターに差し出す。

「これ、売りたいんですけど。」

店主は本を手に取り、しばらくページをめくっていたが、特に興味を示す様子もなく淡々と答えた。

「500円でいいかい?」

「はい、それで。」

アルは即答し、本を売却した。手渡された500円玉をポケットにしまいながら店を出ると、外で待っていたランバが腹を抱えて爆笑していた。

「お前、本当に売っちまったのかよ! あんな神秘的な本を500円で!? しかもあの声とか光とか全部無視かよ!」

「だってさ……結局、大したこと起きなかったじゃん。」

アルは肩をすくめながら答えた。「300年後とか言われても俺には関係ないし、それより今の500円の方が役立つだろ。」

その言葉にランバはさらに笑い転げていた。アルもつられて苦笑いしながら歩き出す。

「でもさ、結局何か起こりそうで何も起きなかったよな。」

アルは夕焼け空を見上げながら呟いた。「まあ、それが一番いいんだけどさ。」

「確かにな!」

ランバは笑顔で頷き、「俺たちにはやっぱ普通の日常が一番だよな」と言った。

こうして二人はいつもの帰り道を歩きながら、特別でもなんでもない日常へと戻っていった。異世界や歪みの話も、今となっては少し不思議な思い出話程度のものになった。

所々でファンタジー世界から脱却させるためにAIに展開を投げつけましたが、やはり本文を握っているAIは強く、ファンタジー世界観に引っ張られました。

そんなAIとの死闘の末に完成した、ファンタジーなのかファンタジーじゃないのかよく分からないストーリーでした。

キャラクター名はこちら(人間)で決めましたが、冷静に考えると、日本人離れした名前ですね。

そんなことはさておき、いまのところ、AIだけでは、まともなファンタジー小説は書けないのだろうと感じました。

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