Number3:North church pursuer magnum jet run
彼女は、気づいていた。
空を見上げた彼女は、険しい表情を浮かべていた。
心地よいはずの晴天の風が纏わりつく様に、心臓を強く締め付けている。
神経を研ぎ澄まし、目を閉じ、大きく息を吸った後、周囲を警戒しながら足早に噴水の広場の方へ出た。
路地の間を吹き抜け続ける風は、人々の賑やかで陽気な群衆に紛れ、気配を消す。滴り落ちる水滴は、背後に潜む敵とは別に、頭上から見下ろす者の視線に重く冷たい殺気をのせている。
体から血の気が引いていき、全身の筋肉が強張ってゆくのがわかった。
ーまずい…。
唇を強く噛み締めて、自分を鼓舞したティアは、教会の大聖堂の方へ向かって走り出した。
屋根の上に潜んでいた影も同時に、空を滑空しながら動き出す。
こんな時に………。
予備ホルスターに収納してあったアンチリールマグナムを建物の壁に向かって発砲する。
黒く光る鎖が、ティアの体を屋根の方へ移動させた。
素早く次の態勢に移る。
さっきまで羽織っていた銀コートを脱ぎ捨てた彼女の髪は白く変色し始め、太陽の光に照らし出される紫外線の光に反応した目は黒から赤紫に近い独特な色の発光をみせた。
魂に眠る本当の力を呼び覚ます…
ドクンッ……………ドクンッ……………
細胞に巡る血が、体温を上昇させ沸騰してゆく感覚。
どこか懐かしく暖かい。
眼の奥底に情熱と無慈悲の炎を灯す。
一方、彼女の変化に動じない追跡者は、不穏な笑みを浮かべたままだ。
相手の反応から読み取れる余裕は、場馴れしていることに間違いはなかった。
嫌な汗が手一杯に滲みはじめている。
急いで銃器を素早く縦に振り、リールを回転させて、発光信号弾倉に換装する。
空高くにターゲットを絞ると、枯れた音が、波打つ様に響き渡り、赤爆煙が辺りを覆う。
すぐ近くを走っている蒸気機関の警笛音にかき消されながら、煙は鬱蒼と消えていった。
次の瞬間、
フードを被り姿形を偽っていた正体不明のそれは、ティアの動きに合わせて、瞬時に攻撃を仕掛けてきた。
巨大なハンマーが男を中心に周囲に円を描く様に空間を切り裂く風が散り走った。
シュン…ジッジジ
彼女の頭上に降りかかる。
ティアは、こめかみすれすれギリギリのラインで衝撃波で出来た畝る斬撃を交わした。しなやかな動きで敵を翻弄する。
「ふははは、元気な獲物は好きだぜ」
「なぁ、ハイデン」
「あぁ、とっとと始末してしまおう」
もう片方の男はそう言い放つと、ティアに向かって距離を詰めてきた。
男は防御態勢をとる彼女を目の前に、蹴りを放つ。
穢れを祓う清き白の意味が込められた専導服を着た敵からは、常人のそれとは別物の力が漂っている。
銀の刻印が彫られた擬似魔導銃に、六芒星のペンダントが垣間見えていた。
間違いない………。
私達アリスとは相対する存在調和を乱す輩。
国に属さず、法に従わない。
基本を何者にも従わない個々人の集合体を是とする。教会の執行者「???」だ。
正直、これ以上は厳しい。
万全の装備とは言えない状態で、十字架保有者も不在のこの状況。
さすがに、これだけの強烈な殺気を放つ手練れ2人を相手に次の手を考える余裕は私には無かった。
特にあのハイデンと呼ばれていた者は、明らかに別格の強さを誇っている。
目の前300mに長距離を飛ぶのに最適な渡り橋があるのが確認出来た。
「よそ見はいかんなぁ、お嬢ちゃんよー!」
しまっ……!
物凄い熱風をもろに体で浴びてしまった。
焼けるように痛い。
意識が朦朧とする中で背中目がけて放った一発は、パラシュートが開く間も無く、勢いだけを殺さない。
マグナムジェットの気流を最大にしたまま操作することに失敗したティアは、教会の大きな扉突き破り、姿を消してしまう。