Number2:Want you meet to reir apple
ティアは手を止めた。
冷酷な感情と暗い瞳に映る赤き闇に恐怖が伝染する。
「ひっ…」
林檎を落とした彼女は、腰が抜けてしまっている様だった。つい涙を流してしまう。
「うっ…うっ…」
あちゃーと言わんばかりに、男は頭を抱えていた。
「おいおい、ミッチェルじゃないか」
「あれほど、気をつけて入って来いと言ったのに」
「おじさん、こ、この方は…」
涙でボヤけた視界が晴れてゆく
「ティア?……」
「ティアなのね!」
彼女の瞳に宿る闇は深く薄く溶けてゆく。
「ごめんなさい、気が立ってたわ」
「怪我は無い?レア」
首元ギリギリで皮膚をかすめそうになっていた銃剣のナイフはホルスターへ収納されてゆく。
「何年ぶりかしら!」
「元気にしてた!?」
ティアにしがみつく
彼女の名は、「ミッチェル•レアニーローズ」
ここで住み込みで働いている。
「おい、そろそろ離してやれ」
「ティアが失神しかけてるぞ」
「あ!」
昔と変わりない彼女の姿に安堵したティアは、嬉しそうに、そしてやるせない気持ちをよそに空の様相で身の回りの荷物を整理し始める。
「せっかく再開したのにもう行ってしまうの?」
「……」
「本部直電の招集命令があるから」
「そろそろ、行かなきゃ…」
ティアは、彼女の手の平に金の時計を渡し、ゆっくりと呼応する様に言葉を放つ。
「私が戻らなかった時は、これを……」
「ティア……」
「私が朽ち果てる時は、遡る軌跡に従って」
もう片方のグロックが入ったホルスターを取り外し、レアに託す。
銃を受け取った彼女は、咄嗟に理解した。
アリスの掟で最も重要なこと。
かつて、この娘の姉がアリスであったこと。
途絶える命の次は、その者が使っていた銃が次のアリスを指し示す。
それは、敵が近くにいることを知らせるものだった。
ティアは最後に、怪訝そうに悲しむ彼女に背を向け微笑みながら、前に佇むドアを勢いよく開けた。