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傭兵譚  作者: Lance
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要塞攻略戦1

 立ちはだかるギュリーヌス要塞。そよぐ旌旗の隣には弓兵がびっしり並んでいた。

「やはり打って出て来る気配はないな。このまま援軍を待とうというのか、それとも警戒しているのか」

 ローランドの隣でブリック王が言った。

「人数的には下か五分。打っては出て来ないでしょうな」

 ローランドが応じた。

「ふむ、では命懸けの茶番劇を始めるとするか。全軍に通達せよ」

 ブリック王は盾を手にして馬を進めた。

「ギュリーヌス要塞の兵に告ぐ! 大人しく要塞を明け渡せば本国への無事な帰還を約束する!」

 これと同じ口上が今頃東と西で言われているだろう。三人のブリック王、いや正式にはローランドの隣にいる本物と、士卒の中から容姿に恵まれ、体格が近い者を二人用意させた。偽物のブリック王を死なせぬために彼らには盾を持たせている。だが、本物だけが持たないというわけにもいかず、仕方なしに王は盾を取った。

 案の定、城壁上は慌ただしくなった。

「ラムを進ませよ! 我らも行くぞ」

 鬨の声が上がる。

 聖雪騎士団と歩兵三百がラムと長梯子を持って足を進める。

 城壁上からは弓矢が乱射された。

 正直、ここまで焦るとは、やるな、ギルバート殿。老騎士の機転にローランドは感心した。

 盾の部隊が前衛を固めている。敵の矢はそれに阻まれている。

 さぁ、今だ。カティアにクロノス傭兵団!

 ローランドは祈る思いで心の中で叫んだ。



 2 



 北側の遠くに身を隠していたクロノス傭兵団の斥候、エドガー達が戻って来た。

 カティアは緊張を覚えた。秘密裏に潜入して敵と打ち合う。初めての経験だが、クロノス傭兵団にそんな動揺は見られない。カティアはルクレツィアのことを考えた。彼女はロッシ中隊長に預けて来た。刃の重たい剣を振り回してバテているほどの時間は無い。フレデリカがいなくなってカティアはいつもルクレツィアの傍にいた。彼女は頑張ってはいるが、まだまだ剣に振り回されている。良い剣なだけに使いこなして欲しい。

「団長、北側の敵の姿が消えました」

 エドガーが報告するとバトーダは頷いた。

「ユリア、後発隊の指揮を頼む」

「はい」

 その声にカティアはクロノス傭兵団に女性が所属していたことを始めて知った。だが、確認している暇は無かった。

「カティア、行くぞ」

 バトーダに言われ、一行は徒歩の兵としてひとまず三十人が先行した。手持ちの破城鎚を全員で抱え、駆けている。

 川の流れに沿って行くと要塞の影が見えてきた。

 見つかりませんように。カティアはそう祈った。

 聳える城壁上に敵はいなかった。水の溜まりがあり古い鉄格子の向こうへ水が流れている。まずエドガーが入り、溜まりが腰ぐらいの深さであることを確認した。それからは早かった。次々皆が入り、破城鎚を戻してぶつける。

 古い鉄格子は少々歪んだ。ソードブレイカーでは残念ながら斬れそうもない厚さだった。カティアも胸まで水に浸かり全員が声を出さずに息だけを荒げて破城鎚をぶつけ続ける。

 鉄製の格子と鉄製の鎚。音は出るが、城壁上に敵が現れる気配が無い。

 そうして鉄格子が折れて穴を造った。

 エドガーが先行する。水をザバザバと掻き分け進んで行く。松明の灯りが着いた。それを合図に傭兵達は次々突入した。

 カティアは十五番目に入った。秋の始め、まだまだ暑さの残るこの時季なのに水は冷えすぎていた。

 それでも無心に松明の後を追い、一行はついに段になっているところに到着した。狭いため十人ほどは水の中だ。

 身体が寒さで震える。だが、敵と遭遇すれば治るだろう。もうすぐだ。「戦鬼」の異名を持つカティアはそのために潜入組に抜擢された。装備も片手用の武器なのも評価された。

 バトーダとエドガーが段を上がり、おそらくは木製の扉の前で耳を澄ませている。

 エドガーが頷く。

 バトーダが蹴破り、エドガーが飛び出す。

 傭兵らは続いて段を駆け上がった。

「よし、散ろう」

 バトーダが言い、傭兵らは頷いて駆けて行った。バトーダ自身とカティアも後に続く。エドガーと三名ほどの傭兵が退路の確保と後発隊の案内のために後に残った。

 カティアは駆けた。石造りの迷路の中をバトーダとは違う道を五名の傭兵と進んでいる。

 前方で悲鳴が上がった。傭兵らは駆ける。カティアは哀れな文官の亡骸を一瞥した。

「上に上がるには階段だ。どこにある?」

「さっきの奴を殺さずに脅して吐かせりゃ良かったんだよ」

「んなこと言ったって、皆殺しっていう命令だぜ」

 足の止まる傭兵らに向かってカティアは言った。

「敵の増援は間違いなく向かって来ているわ。急ぎましょう」

「急ぎましょうって言っても姉ちゃん」

「我武者羅に走るしか無いわ。私は行くわよ」

 カティアは宣言通り駆けた。外には大切な仲間達がいる。彼らの命を握っているのは自分達なのだ。

 背後から傭兵らが後に続き、カティアは石造りの迷宮の回廊を駆けた。扉ばかりが並んでいるが無視した。ここは水路とは違う。階段を遮蔽する必要はない。剥き出しで待っているはずだ。

 女の勘が告げた通り階段は見つかった。

「あったわよ」

 カティアらは一旦息を整えた。

 この要塞は四階ぐらいはあるだろう。まだ上の喧騒は聴こえない。

 他の部隊は上手くいったかしら。後続は来たのかしら。

「そら、上に行くぞ! ここまで来たら上がって上がって、斬りまくるのみだ!」

「その前にバテそう」

 傭兵らが冗談を言い合っている。

「ほら、お兄さん達、急ぐわよ」

 カティアが手を叩くと、傭兵らが本職の顔をした。カティアも頷き、彼らの後を追って階段を上がったのだった。

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