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傭兵譚  作者: Lance
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ギュリーヌス要塞

 バッファリオ城とバッフェル城、二つの城を落としたロイトガル軍は、傭兵団も合流し兵站を確保しながら進軍を続けた。

「この後は一気に首都を落とすのかな。腕が鳴る」

 ローランドの隣でキンブルが力こぶを見せ付ける。

 だが、大陸各地を歩いていたローランドには分かっていた。この先にはもう一つ、敵の重要拠点がある。隊列は騒然とした。

 城がある。しかし、明らかに首都では無い。攻撃的な配置だ。城壁上では旌旗が不気味に靡いている。

「ギュリーヌス要塞」

 ローランドは口にした。長くベルファウストの壁となっていた拠点である。

 隊列は完全に止まった。

「ギュリーヌスだと?」

 キンブルが尋ねて来た。

「ああ。俺も若い頃、何度か戦いを挑んだことがあるよ。まだまだ現役だったか」

 使いが来て赤鬼とローランドを王が呼んでいると知らせた。

 先頭を進んでいた赤鬼傭兵団から二つの騎馬が抜けて後方へ駆けて行った。

「ローランド、お主、王の信任が厚いのだな」

 赤鬼が並走しながら感心していた。

「どうなんでしょうね。何か案を出せと言われても今回ばかりは」

「まぁ、皆で額を突き付けるとしよう」

 中軍に王は、両騎士団長と、バトーダ、ドムルと共にいた。

「御苦労」

 若き獅子王はまずそう言った。

「ギュリーヌス要塞ですか」

 ミティスティが嘆息する。

「そう嘆かれるな聖雪騎士団長殿。どう攻めるか話し合おうでは無いか」

 赤鬼が言った。

「まず、敵は姿を見せないところを見ると籠城を選んだのだろうな」

 バトーダが口火を開く。

 一同は真剣な顔になった。

「バッファリオ城、バッフェル城に援軍を送っていたのは間違いなくこの要塞からだ。兵力では拮抗しているか優っているかは分からぬが」

 ギルバートが続く。

「ベルファウスト本国から増援が送り込まれるまでが勝負だな。しかも、勝負は既に始まっている」

 聖銀騎士団長が言うと歩兵大隊長のドムルが頷いた。

「時間が無いのならば早急に城攻めに移るべきでは無いでしょうか?」

 一同が沈黙する。

 ローランドは挙手した。

「何だ?」

 王が尋ねる。

「敵が出て来ないなら好都合。まずは周辺を偵察してはどうかと」

「そう時間は無いのだぞ?」

 ギルバートが念を押すように言った。

 ローランドは頭の固い御老体に愛想笑いを浮かべる。

「どれほど時間を要する?」

 ブリック王が再び尋ねた。

「半日ほど」

「ううむ」

 唸ったのはギルバートだ。だが、彼にも分かっている。今の兵力はロイトガルが割ける最大の兵力なのだ。地味な城攻めで着実に死なせて行くよりは何か方法に頼りたいと。

「分かった。人選はお主に任せる。我らは一旦兵を少し退く」

「承知しました。お任せください」

 ローランドは頭を下げるとバトーダに言った。

「こういうことに向いている方を誰かお借りしたいのですが」

「ならば、小隊長のエドガーを貸そう」

「助かります」

 


 2



 正午過ぎて二時間。二騎の騎影がギュリーヌス要塞の周りを巡っていた。

「四方に分厚い扉。石造りの壁は年代物だが厚い」

 二人は馬を並べながら周囲を隈なく回っていた。

「こいつは中々歯応えがあるぞ。まともにぶつかっても被害はデカい。ベルファウストの首都を攻められなくなる」

 歳の頃は二十六ぐらいだろうか。手槍を提げたエドガーが馬上で言った。

「そうだな。だが、何かしらきっかけがあれば」

 ローランドらは北側へ再び回り込む。水源を確保しているらしい。水路があるが、要塞同様年代物の鉄格子で侵入を阻んでいた。すると城壁上から敵兵が現れ、二人に向かって嵐のように矢を浴びせた。

 二人は慌ててその場を離れた。

「撃って来たぞ」

 エドガーが笑う。

「そういうことのようだ」

 ローランドも笑みを浮かべた。

 二人はさっそく本陣へと駆けて行ったのであった。



 3



「水路?」

 王ら重鎮が言った。

「ええ、敵が教えてくれました」

 ローランドは応じた。

「作戦はこうです。どうにか北側の守りを手薄にして、水路の鉄格子を破り、そこから内部へ潜入する。もっとも陽動で多数の兵を必要とするでしょう。最初に潜入するのは腕利きが三十人ほど。この部隊は内部をかく乱します。それから後続を送って内部から制圧するのです。ですが、敵も自らの弱点を知っているので上手い陽動が必要です」

 ローランドの話を聴き一同は唸った。王を除いて。

「私が陣頭に立とう」

 王が言った。

 ローランドはその言葉を待っていた。実際、それぐらいしか差し出せるものが無い。

「そんな、危険です!」

 ミティスティが反対し、ギルバートも続く。

「ラムで三方の門扉を打ちましょう。それで敵は慌てるはず」

「いや、王の申される通りだ」

 赤鬼が言った。

「何と、赤鬼、王はワシやお主とは違うのだ!」

「同じだ」

 王は言った。

「私も赤鬼もギルバートも、兵の皆も命は平等だ。兵が命を懸けるのにどうして私だけ見ていられようか」

 良い目になったなとローランドは王を見て思った。

「王!」

 ドムルが感激の声を漏らす。千人の可愛い部下を率いるのだ。彼ほど感動しない者はいないだろう。

「しかし、王! ならば、王に似た体躯の者を王に化けさせましょう。私は王が騎馬隊を直々に指揮していることだけでも命が潰れる思いです」

「すまぬな、ギルバート。だが、私にやらせてくれ」

「ぬ、ぬぅ……」

 ギルバートは呻いた。折れた証だろう。

「人選はどうします?」

 ミティスティが尋ねた。

「こう言う仕事は傭兵が向いている。しかも軽装なら尚更、クロノス傭兵団に任せていただきたい」

 バトーダが名乗り出た。

「確かにうちはつっかえたり重い武器を使う奴が多いからな」

 赤鬼が破顔する。

「あいや待たれい!」

 ギルバートが声を上げた。声が若干裏返るほどの大音声であった。

「何だギルバート不服か?」

「いえ、そうではありません。先ほどの私の言を取り上げていただきたいのです。王に似た体躯の者を王に化けさせ、王を含めて三方へ派遣するのです! 良い陽動になるでしょう」

 ほぉ。ローランドは感心した。ドムルも目を丸くしている。

「諸将どう思う?」

 ブリック王が尋ねる。

「良い芝居になるでしょうな」

 赤鬼が笑い声を上げた。

 こうして作戦は決まったのであった。

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