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傭兵譚  作者: Lance
92/161

初撃

 あれから更に三日ほど調練を続け、騎馬隊はある程度は形になった。

 テトラとクラウザー、三人衆は今こそ行動を起こす時だと意見が一致した。何故なら、聖氷騎士団からの補給が一度止まったためである。

 ロイトガルの騎士団長ニーは、テトラ達をどうとも思っていない。思っているとすればただの使い捨ての駒だ。その駒が如何にあの細い目を見開くほどの働きと重要性を示すかがポイントだ。

 騎馬隊百は留守にマディアを残して出立することになった。

「では、マディア殿、後をよろしく頼む。何かあれば逃げて下さい」

 テトラが言うとマディアは頷き、背中から錦の羽織を取り出した。

「これは!?」

「あんたの破れてたやつを参考に縫ってみたのよ。着てく?」

「無論、無論! いや、勿論、勿論か!」

 テトラは思わぬ贈り物に感激していた。錦の羽織こそが私の象徴!

「似合うね」

 ロイトガルから送られてきた使い古した鎧の上から着るとマディアが褒め称えた。

「マディア殿は、素晴らしい方だ!」

 テトラは思わずマディアを抱き締めていた。

「これさえあれば千人力です……」

 司令室で二人きり、誰も見ている者などいない。

 ハッと、として腕を解こうとするとマディアが逆に腕を回してきた。そして麗しい顔を見上げて言った。

「みんなをくれぐれもよろしくね」

「畏まった」

 テトラはそう応じ、マディアからゆっくり離れた。女性の良い香りが後を引く。

 マディア殿を是非とも嫁に欲しいが、まずはやることをやらなければなるまい。

 テトラは外に出た。



 2



 テトラの黄金馬ストームの脚力に優る馬はいなかった。それでもロイトガルは馬だけはしっかり若いのを選別して送ってくれた。それなりに期待はしているということだろうか。

 二列縦隊でテトラはクラウザーと共に並んだ。

「テトラ殿、はっきりさせよう」

 クラウザーが冷厳な瞳を向けて言った。

「どちらが頭目かか?」

 テトラが言うとクラウザーは頷いた。

「私は率いたいと言うならクラウザー殿に任せたいが」

「いや、私の方も経験豊富なテトラ殿こそ、その見事な外装と駿馬と共に絵になると思う」

「ボルスガルドはあなたの国だぞ、クラウザー殿」

「うむ、分かっている」

 この青年騎士は再び全てを失うのを恐れている。テトラはバシリとクラウザーの肩を叩いた。

 クラウザーが顔を向けるとテトラは微笑んだ。

「全力で助力させていただく。ボルスガルドを取り戻しましょう」

「かたじけない」

 行軍は続いた。輜重隊はいない。携帯食料と沢の水で腹を満たし、民を驚かせないため荒れた村々を迂回して進んで行く。言わば軽騎兵隊だ。逃げることをだけを考えての装備だ。太陽が、武器に防具を照らし出す。ロイトガルから送られてきた使い古した物ばかりだったが、徹底的に磨いて研いで陽光を反射するまでの輝きを得た。華のある百騎だ。

 日が更に過ぎる。いよいよ目標が見えて来た。三人衆の内、デイッツが斥候に出向いて、プリシス後方の砦を窺って戻って来た。

「砦は木造。後方だからかな、兵の士気は緩んでるよ。ついでにあそこは兵糧庫の中継地点の役割も果たしているらしい」

 兵糧庫を落とせれば良い戦果にもなる。だが、焦りは禁物だ。

「出るのか? テトラ殿?」

 ギュイが尋ねて来た。髭が濃く目はギョロギョロし額は広い。悪党面は健在だ。

「夜まで待とう。火矢が恐ろしいほど脅威に見える夜に。良いかなクラウザー殿?」

 テトラが言うとクラウザーは頷いた。

 全員がまだ昼間だというのに弓を帯びている。その緊張感こそが命を失わぬ秘訣だ。テトラは一同を見てそう思った。



 3



 夜の帳が下りると、クラウザーが声を上げた。

「砦へ近付くぞ」

 テトラはそれで良いと頷いた。

 肩の矢筒には油が入り矢じりが満たしてある。二十本ほど入っているが、今日は一本だけしか使わない。

 砦の影がより鮮明に見えたところで、クラウザーは停止をさせ、火打石で矢に火を着けるように命じた。矢を咥え、両腕で石を鳴らして火を着ける。

 と、火打石の音が重なり過ぎたのか、砦の城壁上に兵の影が現れた。

 テトラは矢を放った。

 炎の軌跡を残し矢が飛んで行く。そして兵士に見事命中した。

「皆、準備は良いな? 放てー!」

 風の音と共に次々夜空に綺麗な炎が舞い上がった。それらは砦の内部に吸い込まれて行った。

「クラウザー殿、退却を。私はもうひと働きしてくる」

 テトラはストームを駆けさせた。

 これだけではやはり足りない。ロイトガルのため、いや、仲間やマディアのためにももっともっと派手なことをしなければならない。

 外に出て来た騎兵隊が呼び止める。

「止まれ、貴様、何者だ!?」

「東方連合軍閥が一人、テトラだ! 残虐非道のプリシスを討滅しに参った!」

 言うや、一人を槍で斬り下げ、もう一人の首を薙ぎ払って落とした。

 敵兵が次々出て来る。だが、暗いためにテトラの存在には気付いていない。

 背後から馬蹄が聴こえた。

 振り返ると、太刀を手にしたクラウザーが通り過ぎて行った。兵らも後に続き、鬨の声を上げた。

「我らボルスガルド解放軍なり! プリシスの兵らよ、我らが見た悪夢を見よ!」

 解放軍は次々敵兵とぶつかり交戦状態に入った。

 さすがに火矢一発では退けぬか。

 テトラは馬腹を蹴り、後に続いた。

 混乱するプリシス兵を切り裂き、脳天を穿つ。

「デイッツ、兵糧庫を!」

 ハミルトンが鉄球を縦横に振り回し声を上げる。

「はいよ、行ってくるよ!」

 デイッツが一隊を連れて砦の中へと侵入した。

 テトラは気勢を上げて、兵どもを裂いて回った。クラウザーも太刀を巧みに操り敵の鎧ごと胴を真っ二つにしていた。

 程なくして砦内部から火の手が上がる。

 デイッツ隊が引き返してきた。

「若、完了です!」

「よし、引き上げる! 皆、退却だ!」

 クラウザーが声を上げると兵らの声が合わさり、まるで鬨の声の如く唱和された。

 テトラはしんがりを引き受けた。

 万一、所在地がバレると厄介だ。だが、敵は消火に忙しく追って来る者はいなかった。

 こうして解放軍の初戦は夜襲と言う形で無事に成功を収めたのだった。

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