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傭兵譚  作者: Lance
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テトラと亡国の主従1

 逃れるように北へ駆けた。テトラの胸中は無念さでいっぱいだった。生まれ故郷はロイトガルの手に落ち、味方したハイバリーでは縄目の恥辱を受けたの後に放逐という情けを掛けられ、次は拾ってくれたダイン・バッフェルを守れなかった。

 俺は、俺は何て情けないのだろうか。これでは到底漢とは言えないのではないか。

 全てはロイトガルが悪い。奴らが侵略戦争など起こさなければ、アナグマはアナグマのままで良かったのだ。

 愛馬ストームを駆り、テトラは北へ向かった。北にはプリシス帝国がある。現在ロイトガルとここも戦をしていた。プリシスに味方し、ロイトガルを滅する。テトラはそう決意を固めた。

 五日ほど放浪し、街道へ辿り着いた。

 戦争中のためか、まるで人気の無い街道だったが、彼の聡い耳は馬車の車輪の音と馬蹄を聞きつけた。

 旅商人だろうか。彼はそう思ったが現れた先頭の一騎の騎馬を見て違うと悟った。

 皮の鎧に身を包んだ者はテトラの前に来ると言った。

「退け!」

 余りの剣幕にテトラは尋ねた。

「プリシスの軍の方か?」

 騎馬に跨った若者は笑って名乗った。

「違う、我らこそ、四悪党よ!」

「悪党だと?」

「その通り」

 テトラの正義の血がざわつく。

「馬車の荷は?」

「そこら中の村の女達さ。ギュイ様への献上品だ」

「人攫いということか」

「だったらなんだ? 良いからそこを退け! 四悪党に楯突いたら最後、貴様の首は胴から離れるぞ」

 多弁な若い悪党を凝視しテトラは短剣を抜いた。槍も剣も折られ、これしか残っていなかった。

「おま、お前! 逆らうのか!? 我ら四悪党に! だが、そんなチンケな剣で何ができる! このジャックの槍を」

 ジャックは最後まで言葉を発することができなかった。テトラが馬をぶつけ、落馬させたのだ。そしてテトラはストームの背から跳び下りると、若い悪党が起き上がる前に手慣れたように短剣を首に縫い付けた。

「ぐふうっ!?」

 若い悪党はそう言い残すと自らの血の中で息絶えた。

「ジャック!?」

 御者の賊が驚きの声を上げる。

 テトラは短剣の血糊をジャックの鎧で拭い、落ちていた槍を拾い上げ、ブンブン振り回し、切っ先を御者に向けた。

「帰って四悪党に伝えよ! このテトラが近いうちに首を奪いに行くとな」

「ひええっ!?」

 御者は台から下り、テトラの前を駆け去って行った。

「さて」

 テトラは幌付きの荷馬車の背後に回った。

 拳が飛び、テトラの顔面を殴りつけた。

「安心しなさい。君達は故郷へ戻れる」

 テトラは鼻血を流しながらそう言い微笑んだ。

 荷馬車の中には若い女が満載されていた。中には少女の姿まであった。

「故郷へ戻ったところでまた同じことの繰り返しだよ」

 茶色の髪の毛をした若い女性が言った。この中で唯一闘志の死んでいない女性のようだった。

「四悪党に連れ戻されて、私らはギュイの餌食さ」

「そんなことは無い、このテトラが君達と故郷を守ろう」

「あんた、体格は良いけど、相手は百人はいるよ」

 テトラは槍を旋回させた。柄は木製で軽い槍でまるで頼りが無い。それでも無いよりはマシだ。

「百人斬りなら既に経験済みだ。安心しなさい。君、馬を操れるかい? 御者を頼むよ」

 茶色の髪の女性に言うと彼女は頷いた。

「どうせもう斬っちまったもんね。後には引けないだろう。任せな」

 女性は御者台に座った。

 そしてテトラと馬を並べて街道を引き返した。

 彼女はマディアといった。テトラはマディアから色々な情報を聴いた。

 戦争が始まってから国の治安は乱れ、正すことなく、それでも税だけは絞り取られることを。そんな中、あぶれ者の四悪党がギュイを筆頭に離れた山に住むようになり、数と暴力に物を言わせて侘しい食料をかっぱらっていくことを。好色なギュイはついに女を要求するようになったと。

 クラウザー、ディッツ、ハミルトンという剛勇の者を従え、ギュイを筆頭に四悪党と自ら名乗っている。

「あんた、名前は?」

「テトラだ」

 村に着くとテトラは目を疑った。村人が緊張した面持ちで手に手に生活用具の武器を持ち怖い顔をして待ち構えていたからだ。

「あたしだよ!」

 マディアが名乗り出ると、村人らに安堵と驚きの声が上がった。荷台から次々女達が下りてくる。

「これは一体」

 一人が尋ねるとマディアが言った。

「こちらのお武家様に助けていただいたのさ。そんなことより、みんな、どうしたの物々しい」

「食料はやれても、やはり女だけはやれん。という結論になった。みんなでお前達を取り戻すためにダメもとで四悪党のところに乗り込もうとしていたところだ」

 この言葉にテトラは感動した。力を持たぬ者達が自らの危険を顧みず、戦おうと立ち上がったのだ。

「話は分かった。だが、あなた方の出番は無い」

 テトラが言うと再会を祝っていた村人達がその存在を忘れていたかのように胡散臭げな顔をする。

「私が四悪党を成敗しよう。今すぐにでも行きたいところだが、しばし時間をくれ。槍の刃を研ぎたいのだ。こんな鈍らな輝きでは刺せるものも刺せん」

「え? あなたが一人で向かうのですか?」

 村人達が驚いた声を上げる。

「その通り、私に任せて置きなさい」

 テトラはそう言うとストームの背で槍の鈍い刃に砥石を走らせたのだった。

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