表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
傭兵譚  作者: Lance
84/161

バッファリオ城攻防戦1

 聖雪聖銀、そしてブリック王率いる精鋭による騎兵の突撃で戦は幕を開けた。

 バッファリオ城側も果敢に突撃し、両軍は馬を返してぶつかりあった。

 ブリック王は騎士としての王としての名誉を懸けてこのぶつかり合いには勝利したかった。

 互いに一人減り、二人減り、馬が同じタイミングで疲弊したため、決着はつかずに終わった。

 すぐさま歩兵隊が前に出る。バッファリオ城は遠くに見える。ブリック王はすぐさま歩兵隊を指揮した。突撃の号令を掛ける。一千の歩兵隊を崩さぬために、聖雪聖銀両騎士団が左右からそれぞれ、長弓を放つ。

 敵勢からも矢が降り注いできた。

「陛下、盾を!」

 そう言ったのは歩兵指揮官、大隊長のドムルであった。彼は己の実力でこの短期間に目を見張る功績とカリスマ性を見せた。さすがは元傭兵団長だけあってあっという間に自分が収まる位置へと這い上がって来たのだ。兵士らの信頼も厚く勝ち取った。

「盾など要らぬ」

 ブリック王は矢を剣で弾き返した。彼もまた鋭く磨かれた心眼の持ち主であった。フレデリカから教わったサーディスの言葉を聴きどれほど見事な出来でも盾への興味は失せた。その盾を敵は良く使う。

「大隊長! 敵が盾を壁のように築いています! 矢がその後ろから襲ってきています!」

「急に守りの姿勢に入りましたな。奇策でも弄しているのでしょうか」

 ドムルが言った。

「槍が通らぬ以上、無駄な戦いだ。騎士団をしんがりに兵を引かせよ」

 ブリック王が命じると使い番は飛んで行った。槍を持った背の低いドムルに守られながらブリック王は一足先に引いた。

 その日はこれ以上、戦いが起こることは無かった。

 陣幕にはブリック王、聖雪騎士団長ミティスティ、聖銀騎士団長ギルバート、歩兵大隊長のドムルがいて、机に広げられた地図をただ眺めやるだけだった。

「このまま攻め落とさねばバッフェル城側の傭兵隊も戦線を維持できまい」

 口火を切ったのはギルバートだった。

「しかし、突然の守勢。敵に何事かあったのでしょうか?」

 ミティスティが問う。

「本国で何かあったか、それともバッフェル城側で何かがあったのか」

 ドムルが喉を唸らせて言った。

 その答えが出るまでは少しだけかかった。

 翌日、再び攻めようとすると、やはり敵の歩兵隊は盾を並べ重ねしっかり封をして、攻めると盾の壁の向こう側から矢で応戦してくるだけであった。

「時間稼ぎをしているな」

 ブリック王はそう判断し、一旦兵を引かせた。

 その夜、ドムルに夜襲に注意するように申しつけ、ブリック王は両騎士団長と共に頭を悩ませていた。

 その時、背後から地鳴りが響いてくるのを聴きとった。

「敵の襲撃か!?」

 ギルバートが折り畳み式のイスから立ち上がる。

「陛下、危険です、こちらへ!」

 促されながらブリック王は背後の幕へ向き直り、剣を抜いていた。

「ミティスティ殿! すぐに騎士団を!」

 ギルバートが叫び、ミティスティが陣幕を出て声を上げる。

「陛下、下がりましょう」

「いいや。バッフェル城の傭兵隊がやられたということだ。挟み撃ちにされては逃げ場はもはや残されてはおるまい。ならば、堂々と剣で戦って死ぬのみ」

 ギルバートは瞠目し頷いた。

「最後までお供いたしますぞ!」

 ミティスティが顔を見せた。その顔は明るかった。

「陛下、お喜びください。クロノス傭兵団でした。向こう側では既に城主ダイン・バッフェルを討ち、城に留まる敵兵を赤鬼傭兵団が見張っているとのことです」

 するとバトーダが入って来た。

「急ぎ駆け付けて参りましたが、戦況は如何ほどで?」

「散々驚かせておいてそう言うのか」

 ギルバートが悪態を吐いた。

「驚いてはおらぬ。覚悟はしたがな」

 ブリック王はそう口にした。

「ひとまず、敵が守勢に入った件は、おそらくバッフェル城が虫の息と言う情報が入ったからでしょう。今頃、本国から更なる兵力が送り込まれているはず」

 ギルバートが言った。

「何故、攻められぬのです? 兵達が欠伸をしておりましたぞ」

 バトーダが言った。

「盾だ。盾と弓と言う消極戦法に苦戦しておる」

 ブリック王は苦々しく思いながら言うとバトーダが口を開いた。

「盾は木製ですかな?」

 ブリック王はミティスティとギルバートを見たが二人ともかぶりを振った。

「ドムルを呼べ!」

 ブリック王はそう声を上げた。

 程なくしてドムルが駆け付けて来た。

「先ほどの騒ぎ、クロノス傭兵団の援軍だそうですが?」

「クロノスのバトーダと申す」

 バトーダが名乗った。ドムルは頷き、ブリック王を見た。

「陛下、お召しの件をお聞かせ下さい」

「ドムル、敵の盾は木だったか? 鉄だったか?」

 ブリック王は一計を案じ、祈るようにドムルを見詰めた。

「木でございました」

「よし」

 ブリック王は声を上げた。バトーダも頷いたが、ミティスティとギルバート、ドムルは困惑した顔を浮かべるばかりであった。

「バトーダ、火だな?」

「左様です」

 その言葉にようやく他の三人も合点がいったように瞠目した。

「火矢で目障りな盾を駆逐する。盾が崩れた後、背後に控える弓兵を歩兵隊で蹴散らす」

 ブリック王が言うと控える四人は頷き、返事をしたのだった。

 本国から増援が来る前にバッファリオ城の力を削ぎ落せるところまで削ぎ落さねば。

 王は満天の星空を見上げ、夜空に瞬く戦士達に攻略の成功を祈ったのであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ