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傭兵譚  作者: Lance
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謀反

 ベルファウスト戦線の初戦は負けたのは負けたが、正確には痛み分けという結果だと戦経験豊富な者なら気付いていた。なので、リョウカク自ら酒場を訪ね、赤鬼傭兵団は予期せぬ北へと進軍することになった。

 北には何があるか。ロイトガルの首都である城と城下があるだけだ。

 北へ向かう。赤鬼が言い、準備を命じる。

 聖銀騎士団とクロノス傭兵団、正規兵一千にクワンガー城塞の守りを任せ、リョウカクは正規兵一千、赤鬼傭兵団、聖雪騎士団を率いることになった。

 聖雪騎士団はミティスティが回復していないので、副団長のジョバンニという中年の騎士が指揮を取る。痩せぎすだが、重たい甲冑を何とも思っていない様子はさすがだった。

 この動きをベルファウスト側は斥候を使って察知するだろう。今まで聖銀騎士団が守り通してきた都市だ。今度もどうにかなるだろう。

 騎兵隊が先を歩み、歩兵隊が攻城兵器を引いて後に続く。ローランドはまたもリョウカクの御指名が入り、傭兵団を離れ、雇い主の隣で共に馬を歩ませていた。

「叔父が謀反を起こした」

 リョウカクはそう告げた。

「太守殿、いや、陛下とお呼びすべきでしょうね」

「そうだな。いつまでも隠し通すことはできぬ。私が王だと知ればフレデリカ殿は余所余所しくなるだろうか」

 少々弱気な顔を見せる雇い主にローランドは小さく笑って応じた。

「それは面喰らいますよ。でも、あなたは彼女の弟子であることに変わりはない。フレデリカは変わらず鍛えてくれます。あなたが望むならば」

「うむ」

 ブリック王は表情を少々明るくして応じた。



 2



 ロイトガルの城壁前には小規模の軍勢が多数展開していた。

 リョウカクはローランドとジョバンニに守られ、単身前進して射程外で馬を止めた。

「ブリック・ギゼ・ロイトガルの名に置いて問う! 汝らがしていることは王命に反していることである! 即刻軍を引き上げれば、仕置きはせぬ!」

 ブリック王が堂々と名乗ると、後方、赤鬼傭兵団がざわついた。それはそうだ、今まで王都から派遣された青年太守殿としか思っていなかったからである。

「黙せ! 王は相手の答えを待っている!」

 赤鬼が怒号し一同を黙らせた。

 その時、右翼側が駆け出した。数三百ほどだろう。駆けながら白旗を上げている。

「あれはムッツイン伯爵の軍勢でございますな」

 ジョバンニが言った。

「陛下! 陛下! 御帰還をお待ち申しておりましたぞ!」

 豪著な鎧兜に身を包んだ壮年の男が一騎だけ馳せ参じ、下馬して礼を取った。

「ムッツイン伯爵。詳しく事情を聴かせよ」

 ブリック王が言うと伯爵は頷いた。

「陛下の叔父君、ブラーケン公爵が、突如檄文を発し、諸侯を集めました。陛下は父を蔑ろにした悪逆非道な者でこれを討つべしと」

「弱いな」

 ブリック王が言った。

「それだけの動機で諸侯は集ったのか? 国を乗っ取るために」

「は、はぁ、ですから私はこうして陛下のもとへお味方として参った次第でございます」

 ムッツイン伯爵が恐縮しながら言った。

「ムッツイン伯、大義。それで反逆者の主はどこにいる?」

「それ、正面の門扉の前に陣取っております」

 ここからでは点のようにしか見えないが正規兵らにがっちり守りを固められた馬上の主の影が見える。

「臆病な。これでは呼びかけにも応じまい」

 ブリック王が呆れたように吐き捨てた。

「規模は敵の方が僅かに上でありましょうな」

 ジョバンニが言った。

「それでも、いつまでも睨みあっているわけにもいくまい。ベルファウストが待っている。それに北西の猫どもも。聖氷騎士団もいつまでも踏ん張ってはいられまい。こんな馬鹿らしい戦、とっとと終わらせる! 赤鬼に伝えよ! 右翼を任せると!」

 伝令が走る。正規兵の騎馬隊が合流する。

 程なくしてブリック王が号令を出した。

「全軍突撃! 戦で磨かれた精鋭の力を示す時ぞ!」

 言うや、自ら突出して駆けた。ランスを手に。ローランドも続いた。ジョバンニは左翼で騎士団を率いている。ムッツイン伯爵は動かなかった。

「あの貴族、何故動かない?」

 その時、後方から馬蹄が木霊した。ムッツイン伯爵が動いたのだ。兵はチャージランスをしている。

「これは!?」

 異変に気付いたローランドは泡を食って声を上げた。

「行けー! 悪逆非道のブリックの首を取れ!」

 ムッツイン伯爵が後方で指揮を取りながら私兵隊を鼓舞する。

「ムッツインめ! しおらしい態度で来たと思ったらこれか!」

 だが、前方の敵騎兵隊も迫っている。今更馬を返せなかった。

 前方の騎兵隊とぶつかった。

 ローランドのランスは敵の胴を打ち、相手を落馬させていた。

 ブリック王も敵を斃し進んでいる。

 小規模の貴族が連合し、見たところ十五段構え程に陣を敷いた。

 矢が次々飛んでくる。ムッツイン伯爵の方は矢の被害を免れるためか後方で馬を止めて退路を固めていた。

「陛下、御下がりください。我らがお守りいたします」

 隣に並んで正規兵の一人が言った。

「私は臆病な叔父ブラーケンとは違う! 突撃!」

 長弓から矢が次々飛んでくる。

 その一本がローランドの隣でブリック王の肩に突き立った。

「陛下! 私があなたの代理を務めます! 後ろへ! 自分一人の身体では無いのですから! あなたは強いが、御自覚を! こんなつまらないところで傷つく必要はない!」

 ローランドが言うとブリック王は頷き正規兵の後ろへ回った。

 矢が止み騎兵が突撃して来る。

「ブリック王、代理、傭兵ローランドが罷り通る! 無礼者どもめ、我が槍に貫かれろ!」

 ローランドは咆哮を上げ、ランスで次々敵を落としていった。

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