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傭兵譚  作者: Lance
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挟撃

 赤鬼傭兵団は聖銀騎士団と共にバッファリオ城とバッフェル城との間に陣を構えた。赤鬼傭兵団七百、聖銀騎士団五百。決して大きな数でも無いが、両軍の特に大将同士が燃えているため士気は盛んだった。

 この戦いは足止めが目的だ。バッフェル城から出て来る援兵を叩くのだ。今頃はバッファリオ城はどの程度まで追い詰められているであろうか。

 カティアは少し離れた位置にいるフレデリカを見た。

 緊張した面持ちをしている。これから彼女の生まれ故郷の同胞を、家族を斬らねばならない。サーディスを斬った彼女にならその辛さは充分に分かるだろう。ルクレツィアが傍にいる。

「敵勢出現!」

 斥候が戻って来ると同時に地鳴りを上げて騎兵隊が姿を見せた。

「左右に展開!」

 聖銀騎士団のギルバートの声が轟く。

「弓用意! 構え!」

 カティアも背中の長弓を手に取る。

 大地が鳴動している。敵はすぐそこだ。

「放て!」

 聖銀騎士団長ギルバートの号令の後に空を矢の嵐が染めた。

「放て! 使い切るまで放て!」

 カティアや騎士、傭兵らはその声の下、次々矢を放った。敵の出鼻を挫き、騎兵による突撃を防ぐと言うのがギルバートの考えだろう。

 馬上の敵は次々落ちて行った。

 カティアは肩の矢筒に手を伸ばす。だが、矢は無かった。

「よし、ここで敵を待ち受ける」

 敵は歩兵隊が駆けて来た。

「前衛、長槍用意!」

 最前線の傭兵と騎士が言われた通り長槍を持つ。

 だが、一騎だけ騎兵が残っていた。

「悪逆非道のロイトガル! 貴様らの紛い物の正義など、我が気高き正義が屈してくれるわ!」

「テトラだ!」

 傭兵の誰かが叫んだ。

「あいつの相手は、俺ですね」

 カイが赤鬼に言った。

「うむ、頼むぞ」

「かしこまり!」

 カイが馬腹を蹴った。

「そらそら、どちらが本物の正義か今日こそはっきりさせようじゃねぇか!」

「貴様かあっ!」

 騎兵同士がぶつかり合う。槍と剣がぶつかる音が聴こえたような気がした。

 敵の歩兵隊が彼らを飲み込みつつ迫って来る。

 敵の顔が鮮明になった瞬間、ギルバートが声を上げた。

「突け!」

 こうして本格的な戦いが始まった。

 長槍の槍衾が敵の歩兵を寄せ付けない。

 すると敵勢から矢が飛んできた。

「怯むな!」

 だが、敵は前衛を残し遠巻きに矢を射ってくるだけだった。矢の雨が降り注ぐ中、悲鳴が聴こえた。

「ギルバート、突撃だ!」

 赤鬼が提案する。

「フフッ、お主となら歓迎だ。全軍、突撃! 敵勢を押し崩せ!」

 鬨の声を上げてカティアらは駆けた。

 カティアの四つ隣にフレデリカとルクレツィアがいた。

 フレデリカは斬った。かつての己が兵を。吹っ切れたのだろう。こうなると恐れるのはフレデリカにとって顔見知りが現れることぐらいだ。雑兵を斃すぐらいなら心配はいらない。

 カティアは見た。最近、ローランドと一緒にいるキンブルと言う元月影の同僚が、トマホークを投げ付けたのだ。斧は回転し、一人目の顔を割り、二人目を貫き、三人目の顔面を突き破って止まった。

 月影にも実力者はいたか。キンブルは次々トマホークを放っている。

 カティアも剣を走らせ、敵を斬り、悲鳴の中、絶命させた。

 ソードブレイカーで一つの刃を受け、サーベルでもう一人の相手をする。男のくせに、力が無い。ソードブレイカーは刃を圧し折り、サーベルは敵の腕を斬り落としていた。一気に薙いで二人を片付ける。だが、新手が襲って来る。

 規模はどれぐらいなのだろうか。バッフェル城もさすがに城を空にして全兵力を挙げて襲って来るとは思えない。

 まだ戦は始まったばかりだ。それにどちらかと言えば距離的に敵の方が遠征の軍と言える。行軍の疲労はあるはずだ。

 無駄なことを考えるのを止め、剣を次々振るった。血煙が立て続けに上がる。鉄の鎧が返り血に塗れ、二つの剣からは赤い雫が滴り落ちていた。


 

 2



 斬っても斬っても敵は減らない。

 カティアは嫌な予感が過ぎった。バッフェル城がもしも総出で援軍に出たとすれば、それは城の安全が確約されたからである。どう、確約されたか。それは別軍が上手く攻められていないこと、いや、明らかに劣勢になり、打ち破る自信が、いや、何らかの策があるのかもしれない。

「なんて数だ、手が疲れてきたぜ」

 傭兵らが声を漏らす。歴戦の強者達をここまで言わせるのだ。敵の数は多い。やはり別軍で何かあったのかもしれない。

 ローランド。

 その時、背後で地鳴りが鳴り響いた。

「騎兵だ! 騎兵が来るぞ!」

「敵か!? 味方か!?」

 その声にカティアの本能が告げた。

「敵よ!」

 自軍は大混乱だった。

 そこを敵の騎兵隊が迫る。小脇に抱えているランスの切っ先が煌めく。

「来る!」

 前方の敵が道を開いた。

 後方の増援がチャージランスをし、突撃してきた。

 地鳴りと馬蹄の中、傭兵も騎士も吹き飛ばされ、あるいは貫かれた。

 そして敵の後続の騎兵が後ろにしっかり栓をする。

「ロイトガルを潰せ!」

 敵の指揮官の声が轟いた。

「バッフェル卿の言う通り、敵を挟んで潰せ!」

 バッフェル卿?

 辛うじてチャージランスを免れたカティアは立つ者がまばらな中、敵の指揮官を見極めようとした。だが、後方にいるらしく姿は見えなかった。

 そうだ、フレデリカは!?

 立っていた。ルクレツィアを抱えている。

「密集陣形だ! 固まれ!」

 赤鬼の声が轟いた。

「密集しろ! 堅陣を組め!」

 ロッシ中隊長が叫んだ。

 聖銀騎士団も赤鬼の言うことを聴き、集まって来た。無事だった者が次々立ち上がり集ってくる。

「皆聴け! この戦、負けだ! 血路を開いて脱出する。しんがりは、ワシと赤鬼が務める!」

 ギルバートが声を上げた。

「団長、我々は最後まで戦います!」

「赤鬼、俺達も!」

 聖銀騎士団も赤鬼傭兵団も次々志願者が名乗り出るが、赤鬼は声を上げた。

「その気持ちだけ充分じゃ! 良いか、お前達、我らジジイコンビの働きを無駄にするなよ! ロッシ! 指揮を任せる!」

「行こうぞ、赤鬼!」

「おう、ギルバート!」

 両団長は単身バッフェル城側の敵へ突っ込んで行った。カティアに見えたのはそこまでだった。フレデリカとルクレツィアが背後を襲って来た敵の前へ出ている。キンブルもトマホークを投げ終え、槍を手に味方兵の中を走って行く。カティアもサーベルを握り、咆哮を上げて敵へと突っ込んで行く。

 ロッシ中隊長からは具体的な指示は出ない。叱咤激励を繰り返している。指示を出せる状況では無いのだ。それにこの厚い層を破り血路を開いて脱出することぐらい誰にだって分かる。この戦で全滅を免れたくなければそうするしかない。魂の吠え声を上げながらカティアは覚悟を決めた。

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