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傭兵譚  作者: Lance
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ハイバリー攻略戦2

 実際、ハイバリーが故郷なのには変わりはない。ローランドの剣はかつての同胞を、恩人達を斬ったかもしれない。だが、相手が本気で殺しに来る以上、情けに左右されてこちらが討たれるわけにはいかなかった。

 長らく人数に物を言わせて挑発行為を繰り返してきたハイバリーだが、もはやそれにすら陰りが見えていた。最近のハイバリーはガサツな偵察団を出す以外、目立った動きはしなかった。

 これがロイトガルとハイバリーの最後の戦となるだろう。

 馬上でクレイモアーを振るいながら、次々ローランドは血煙を鎧兜に浴びた。

 それにしてもと、ローランドはある一か所を見て苦笑する。

 凄まじい地鳴り、吹き飛ぶ人影。赤鬼だ。あんなじいさんが本当に存在するとはな。だが、屋台骨がしっかりしてくれるなら俺達だって全力で挑める。

 ローランドは一人目の首を刎ね、二人目の胸部を貫き、三人目の兜ごと頭蓋を拉げさせた。

 正規兵もその肩書だけの働きをしている。守りの戦に徹せねばならなかったその鬱憤を晴らしているかのようだった。

 聖雪騎士団はその向こうにいる。各軍、ほぼ一直線に並び、戦線は前進して行く。

 僅かな隙に赤鬼団長が開けてくれた中央でカイとテトラが馬を返して打ち合っているのが見えた。勝負は互角。カイは腕を上げた。

 矢がまばらに兜に当たるようになってきた。威力はない。まだまだ射程外だが、どの道、城壁には取り付くのだ。たらふく矢を浴びることになるだろう。

「あんなひょろひょろの矢は射程外も同然だ! 臆せず進めえ!」

 剣戟と断末魔の合間にロッシ中隊長の声が響き、ローランドは呼応するように吼えた。気合いの一撃が立ち塞がる騎兵の剣を圧し折る。兜の下で最期を確信した敵兵の思う通り肩から斜めに胴体を両断され、敵兵は己の臓物と血の中で呻いていた。

 とどめをくれてやりたいが。

「前列交代!」

 ロッシ中隊長の声が轟いた。後続が飛び出し、もう死ぬしかない敵兵を故意か偶然か馬で頭を踏み潰していた。



 2



 カティアは両手の剣を振るい、阿修羅の如く戦った。その迫力に怖じ気付く敵兵は攻撃を止め、こちらを凝視していた。

「私が怖いなら逃げれば良い!」

「ひいっ!」

 カティアの言葉に敵兵が背を向けた時だった。その首が落ちた。馬上で血煙を上げる死体の向こうから現れたのは噛みつきゴッセルだった。

「敵前逃亡は死罪だ。ひひひ、今度こそあんたの血を喰らってみせるぜ」

「変態が!」

 ゴッセルは義手を向けた。

 風の音色を発し、刃が飛ぶ。肉薄した瞬間、カティアは目を見開きサーベルで弾き返した。

「前に出て来い! 正々堂々戦ってやる!」

 カティアが言うとゴッセルは邪魔な馬上の亡骸を蹴り捨て、進み出て来た。カティアと同じ、馬の鞍を両腿でしっかりと挟み、両手で武器を振るえる格好になった。ゴッセルは新しい刃を義手に取り付けた。

 ゴッセルは長剣を振るってきた。

 唸りを上げる重々しい一撃をカティアはソードブレイカーで受け止める。

 武器越しにゴッセルの怪しく嘲笑う笑顔が見える。そのまま競り合い、カティアはソードブレイカーで相手の剣を挟んだ。

 このまま折り曲げれば。

 だが、油断だった。ゴッセルは義手を向けた。

 ソードブレイカーで敵の剣を折ることに集中していたカティアにとって仇となった。気付いたときには義手の刃が発射された。

 刃はカティアの革鎧の腹部に突き立った。

 ゴッセルは笑った。

「ひひひ、あんたは終わりだ」

「カティア姐さん!」

 ロッシ中隊長の泡を食った声が聴こえた。

 だが、総合的に見れば刃は浅く突き刺さっただけだった。

「どういうことだ!?」

 異変に気付いたゴッセルが声を上げる。

「教えてあげるわ。下にね、鉄の鎧と鎖帷子を着ているのよ。この暑いのに。胸が潰れちゃうわ」

 カティアは敵の剣をソードブレイカーで一気に折り曲げると、サーベルを振り下ろした。噛みつきゴッセルは首を討たれ、驚愕に目を見開き口元はそれでも笑うような歪みを残して死体となって地面に落ちた。

 これで動いたら亡者よね。カティアは噛みつきゴッセルのこちらを見上げる顔を注視した後、新たな戦いに臨もうとした。

「ひ、ひひひ、欲しかったなアンタの血……」

 噛みつきゴッセルの首がそう喋り、カティアは瞠目した。だが、ゴッセルはそれ以上言葉を告げなかった。カティアを見上げ、不気味な笑みを貼り付けたまま死んだ。

「心臓に悪いわね」

「カティア姐さん!」

 ロッシ中隊長の心配する声が聴こえた。

「心配いらないわ、中隊長!」

 カティアはそう答えると刃を引き抜いて見せる。そして向き直り敵陣に斬りかかって行った。



 3



 刃が走り、幾重にも兵を肉塊へと変えた。フレデリカの剣は冴え渡っていたが、隣の新人ルクレツィアもまた勇猛に大剣を振るい、突き刺し、敵を仕留めている。剣の筋は良い。少々我流が入っているようだが、直せば無敵の戦士になれる器だ。

「オラオラオラッ! どんどんかかって来い!」

 ルクレツィアが肩で息をしながら吼える。

 そこへロッシ中隊長の前列交代の指示が届いた。

「さがるぞ、ルクレツィア」

「うるさい! 私はまだまだ戦える!」

 まるで復讐に燃えているような目をしている。フレデリカはそう思った。ルクレツィアの手を引っ張り、後続と入れ替わる。

 最後尾へ行くと、ルクレツィアは激しく呼吸を繰り返した。

「よく耐えた」

 フレデリカが言うとルクレツィアは睨み付けて来た。

「あのぐらい何とも無いわ! 私が斬ったのは二十六人、五十人ならやってやれないことも無かった!」

 若い女戦士は呼吸を大きく繰り返しそう答えた。

 フレデリカは感心した。ただ戦いに呑まれて我武者羅に戦っているだけかと思ったが、斬った数を覚える余裕もあった。

「ハイバリーが弱いから、更に弱い私達は苦しんだ。父と兄は徴兵されて帰ってこなかった。父と兄の死を悟った母は弱りきって死んでいった」

 フレデリカは馬を近付けルクレツィアを抱き締めた。

「だからと言って、お前が死に逸ることはない。お前は生きて生きてこの大陸の平穏を見る義務がある。亡くした家族に代わって。戦に翻弄され無念だったろうな」

「戦なんて無ければ良いのよ! だからあたしは戦う!」

 フレデリカの胸の中でルクレツィアは声を上げて泣いたのだった。

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