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傭兵譚  作者: Lance
54/161

ハイバリー攻略戦1

 総大将はリョウカク。彼は以前見せた無謀な態度を改めたのか、中軍でどっしりと構えている。

 軍勢は赤鬼傭兵団約五百、聖雪騎士団三百、この日のために各所から搔き集められたと思われる正規兵が二千。これが東方攻略軍の全ての戦力だ。これでハイバリーを落とせなければそれまでだ。

 フレデリカの隣を赤い髪の少女の面影の残る女性が馬上で歩んでいる。名はルクレツィア。勧誘に勤しむ赤鬼傭兵団に声も掛けていないのに首を突っ込んで来た豪胆な女性だ。身体は繊細なのにまるで強気で、言いたいことはずけずけ言う。ロッシ中隊長は頭を抱え、赤鬼団長は笑って入団を認めた。だが、一つはっきりしているのは剣の心得があることだ。ツヴァイハンダーという両手剣を持ち、団員の古強者を次々薙ぎ倒した。カティアやローランド、それにカイなら勝てたかもしれないが、ちょうどフレデリカの順番が回ってきて彼女が散々に打ちのめした。それからは目の仇のように押し掛け弟子のようにフレデリカの傍を離れない。

「師匠もまだ楽はできないみたいだね」

 カイが皮肉った。彼は赤鬼付きの団員として従軍している。

「ああ! もう! まだなの!?」

 ルクレツィアが苛立った声を上げる。

「フレデリカ、あたしらで先駆けしようじゃないの?」

「馬が疲れるばかりか、誰もついて来やせん。大人しく行軍に足並みを揃えるのだな」

 フレデリカが諭すと赤い髪のルクレツィアは頬を膨らませた。

 そうして幾つかの夜を過ごし、国境まで来るが敵はいなかった。

「ハイバリーは今頃大慌てだろうな」

 中隊長のロッシが得意げに言った。

 新しくできた哨戒部隊が隠密戦士どもを次々血祭りに上げ、ハイバリーの諜報活動はことごとく失敗しているのだ。いつもは翻弄される側だったが今回は逆だ。疲れ切ったハイバリーの軍勢を叩き伏せることができる。

 国境を侵し、戦続きで人のいなくなった村を通り過ぎると、前方から土煙を上げてハイバリーの軍勢が現れた。街道いっぱいに三十名ほどずつ段になり、あるいは同胞の頭の脇から長弓を構えた。

「放て!」

 赤鬼が号令する。

 矢が空を黒く染め敵勢の中へ降り注いだ。

 落馬する者、馬の嘶き、様々な音と様子が見られたがそれでもチャージランスをしたまま突っ込んで来る者もいる。

「射ろ! 近づけさせるな!」

 ロッシ中隊長が声を上げる。矢は一直線に敵影に向かい、突き立った。馬上から敵が次々落ちる。

 ロッシ中隊長の号令は止まない。敵もどうにか突っ込んで乱してやろうと躍起になっているようだった。

 だが、敵は退却した。追おうにも街道に広がった乗り手のいない馬で塞がれ、簡単には追撃に移れなかった。

「野戦でケリをつけられれば一番良かったんだがな」

 ローランドが敵の死体から矢を引き抜き矢じりを布で拭い背中の矢筒に入れる。

「城の前で待ち構えているかもしれないぞ」

 カイが言い、年下のルクレツィアを見た。

「に、しても、お前、弓矢下手だね。俺の千里眼だととてつもない方向ばかりに飛んでたけど」

「うるさい! あたしの特技は剣なの! 見たいなら敵を連れて来なさいよ!」

「賑やかだねぇ」

 ローランドがフレデリカに微笑んだ。フレデリカは新しい弟子に言った。

「初めてなんだから仕方が無い。ルクレツィア、これから上手くなればいいんだ」

 そうして彼女の赤くて長いクセ毛を撫でると、ルクレツィアは舌打ちしたが、落ち着いたようだ。

 赤鬼傭兵団を先頭に行軍は続く。

 夜、休息を取っていると、俄かに街道の先から馬蹄が木霊してきた。

 ハイバリーが夜襲を仕掛けてきたのだ。

「こちとらお見通しだ! ハイバリーさんは負けず嫌いだからな。それ、姿を現せ!」

 ロッシ中隊長の声が上がるや、ハイバリーの軍勢の両脇から伏せていた赤鬼傭兵団と正規兵五百が襲い掛かって、散々に敵を打ち負かした。



 2



 斥候が戻って来る。

 ハイバリーの軍勢三千が城外で待機し、城壁上には弓兵がビッシリ並んでいるという。

「赤鬼、ミティスティ、敵を射程外まで引きずり出せ」

 リョウカクが言った。黒衣の外装をしている。立派な剣を佩き、槍を手にして馬上にいる。その目がこちらへ向けられた。フレデリカは目礼したが、リョウカクの目は離れない。

「ほらー! 大将、あたしばっかり見てないで出陣なら出陣させなさいよ!」

 ルクレツィアが吼えた。

「誰もお前など見ておらぬ。思い上がるな、今すぐ、私のために死なせてやる」

 リョウカクは落ち着いた態度でそう言い、向き直った。

「赤鬼傭兵団、行くぞ!」

「聖雪騎士団前進!」

 赤鬼とミティスティの声が轟いた。

 赤鬼傭兵団が先頭に行くと、報告通り、こちらと同規模の軍勢が展開し、分厚く広い城壁上には影がたくさん見えた。

 赤鬼傭兵団と聖雪騎士団がギリギリまで前進すると、敵勢の将が叫び、軍勢が一挙に押し寄せた。

「策など不要だったみたいね」

 カティアがフレデリカの隣で頼りがいのある笑みを浮かべた。

 こうして射程外までわざわざ飛び出してくる敵勢だったが、その中から一騎が際立って疾駆してきた。

 黄金色の馬に跨り、錦の外套を羽織るその姿を見て、赤鬼も騎士団も瞠目した。実力だけはある流浪の将テトラの登場だった。

「正義の戦は我らに勝利をもたらす! お前達の中に我らが正義を打ち破れる自信のある者はいでて参れ! このテトラが相手をしよう!」

 若々しく覇気に満ちた声が轟く。

「上等じゃない、あんなのあたしがぶっころしてやるよ!」

 そう進み出るルクレツィアをフレデリカは肩を掴んで引き止めた。

「赤鬼団長、俺が行く!」

 カイが言った。

「分かった、行くが良い。サーディス流と赤鬼流の魂を見せ付けてやれ!」

 赤鬼が言うとカイは声を上げて駆けて行った。

 中軍の正規兵隊が合流する。攻城兵器は輜重と共にまだ後ろだ。正規兵は千ほど合流した。

「撃滅せよ!」

 リョウカクが声を上げる。

 戦場に鬨の声と馬蹄が木霊した。

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