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傭兵譚  作者: Lance
24/161

奇特な者達

 戦勝の勝鬨の声が上がる。

 サーディスもローランドも吠え猛らなかった。二人とも押し黙り、目を爛々と輝かせていた。

 今回の戦は敵の防衛線だった村の奪取だ。略奪という名の御褒美が待っている。民の家々を襲い、奪う。奪われるのは何も物だけだとは限らない。子供、若い女は奴隷としてよく売られる。

 傭兵らもまた表情に凶悪な笑顔を見せて正規軍の指揮官の声を、今か今かと待っていた。

「傭兵らに半時の略奪を許す」

 指揮官が言うと、統制の取れていない臨時に集った傭兵らは我先にと開かれた入口へと飛び込んで行った。

「クズどもが」

 指揮官がつぶやいた。

 全く、おっしゃるとおりで。

 ローランドの方が目配せし、サーディスも傭兵らの後を追った。



 2



 夫は兵に取られたのだろう。若くきれいな女が乳飲み子を抱え、後ろに二人の幼子を庇い、斧を手にして傭兵らを待ち受けていた。

「お宝の発見だ。女の方は楽しめそうだな」

 三人の傭兵が意気揚々と楽しむように剣を提げて母子へ向かう。

「アンタら傭兵なんか、盗賊と同じだよ!」

 女が声を上げた。

「そうだな」

 サーディスはそう答えた。

 三人の傭兵が振り返る。

「おい、ここは俺達の物だぞ。他行け、他!」

 刹那、サーディスの剣が鞘走り、三人の首を刎ねた。三つの首が転がり、血を噴き上げる胴体が倒れた。

「弱肉強食とはいうが、手を貸してやるよ。俺達に捕まったふりをしてついて来い」

 サーディスが言うが女は頑なに動かない。

「騙したりなんかしない」

 そこへローランドが女子供、老人を十人ほど連れて合流した。

「どうしたんだ、仕事が遅いな」

「俺の言うことが信じられないんだとさ」

「そりゃ、お前が怖い兜を着けているからだよ」

 ローランドはそう言うと母子に歩み寄った。

「俺達を信じてついて来ないか?」

 ローランドが温和に微笑むと、母は斧を提げた。

「裏切ったら祟ってやるからね」

「分かったよ。大丈夫、俺達に捕まったふりをして」

 ローランドの言葉が止んだ。サーディスも背後に殺気がいくつもあるのを感じた。静かでまるで今まで気配を感じさせなかった。

「女性達を渡してもらおう」

 男はサーディスやローランドより年上だった。黒髪で髭は無かった。腕は逞しかったが、こんな男が本当に強いのかと思わせる程、誠実そうな顔立ちをしている。

 相手は一人で血の滴る長剣を引っ提げていた。

「獲物を横取りする気か?」

 ローランドが問うと相手は言った。

「その通りだ。大人しく引き渡すならよし、さもなければ剣で勝負と行こう」

 サーディスは不審に思った。こんな堂々とした奴が略奪を楽しむ柄に見えるか?

「なぁ、アンタ、俺達はこいつらを逃がすつもりで従えているだけだ。アンタ、もしやとは思うが、俺達と同じ考えをしてたりするのか?」

 すると男は瞠目し、頷いた。

「君達もそうか。傭兵もまだまだ捨てたものでは無いな。俺はバトーダ」

 相手が名乗った。

「ローランド」

「サーディスだ」

「ローランド、サーディス、まだまだ窮地の人々は大勢いる。何とか助けに行こう」

 バトーダが言った。

「行ってきな、俺はここでこちらの方々の警護をしているから」

 ローランドが言った。

「分かった、行こう、サーディス」

 バトーダと共にサーディスは村の中を駆けた。

 我慢できずに女を脱がそうとする傭兵の背中から刃を繰り出し、首を刎ねる。老人を守る少女を安心させ、後に従わせる。徴発された男達は既に死んでいるか捕虜になっているだろう。二度とここへは戻って来ない。

 バトーダの剣の冴えにはサーディスは一目置いた。世の中は広いものだと痛感した。サーディスとバトーダの後ろには非戦闘員の列がズラリと続いた。他の傭兵らが少し寄越せと迫るが、サーディスが殺して返事とした。

 ローランドと合流し、正門から出る。

 正規兵達が目を丸くしていた。たった三人でこれだけの品々を搔っ攫うとは思えなかったのだろう。戦えぬし商品にもならない老人まで居る。

「半時立った。それ、村を制圧しろ!」

 正規兵らが規則正しく入り口を潜って行った。

 サーディスらはその足でとっとと安全な場所目指して、バトーダの先導の下、歩んで行った。

 しばらく進むと街道脇から一人の男が飛び出してきた。

「バトーダ、大所帯だな」

 男が言った。

「紹介しよう、彼はダグラス。馬車を用意してもらっていたんだ」

 ダグラスは荷馬車を五台ほど隠していた。

 老人と子供を乗せ一行の歩みは進んだ。

 そうしてとある町へ辿り着くとバトーダとダグラスは有りっ丈の金銭を女達に渡した。

「これは俺達も真似するしかなさそうだね」

 ローランドが言い、彼とサーディスも金を渡した。

「何から何まですまないね」

 女達が目に涙を浮かべながら言った。

「辛いだろうが、新しい生活が上手くいくことを願っている。希望を捨ててはいけない」

 バトーダが言った。

 女に子供に老人、彼らは見送る四人の傭兵を見て名残惜しそうに町の中へと消えて行った。

「しかし、私達以外にも同じ志を持つ者がいるとは思わなかった」

 ダグラスがサーディスとローランドを見て言った。まだ若いがこの中では一番年上に見える。

「それはこっちのセリフだぜ。アンタらと出会えて良かった」

 サーディスが手を差し出すとバトーダが握り返してきた。ローランドとダグラスも同様だった。

「大陸は荒れる一方だろう。多くの力無い者達が犠牲となる。それを助けるために我々は再び散った方が良さそうだな」

 バトーダが言った。

「そうだな。俺達ぐらいの腕前なら一人で数百は斬れるさ」

 ローランドが応じる。

「また会えたら良いな。今日の出会いに感謝だ」

 ダグラスが言い全員が頷いた。

「同志がいるってのはなかなか面白いな」

 バトーダとダグラスと別れた後、サーディスは思わず言った。胸がスカッとしていた。報酬は貰い損ね、金も無い。だが、最高の気分だった。弱者はなぶるより助ける方が良いものだ。

「俺達も別れようか。腐れ縁だからまたどこかで会えるとは思うけど」

 ローランドが言った。

「ああ。あばよ」

「じゃあな、サーディス」

 こうしてサーディスとローランドも互いに背を向け別れたのであった。

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