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傭兵譚  作者: Lance
159/161

勝利

 ボルスガルドの騎兵隊が大地を揺るがし敵兵を撥ね飛ばす。

 兵らは逃れようと進むが、前にはロイトガルの刃が風を孕んで同胞を切り裂いている。プリシスのそれも徴兵されただけの民達にとっては悪夢そのものだろう。だが、ロイトガルは勝たねばならない。敵は無駄に死に逝くだけであった。

 馬と凶刃どちらを選ぶか。兵らは恐慌し、混乱し滅茶苦茶に駆け回った。結果側面から脱出しようとするが、声が轟いた。

「貴様ら! 戦わんか! 故郷の家族がどうなっても良いのか!?」

「あれだな!」

 フレデリカは命令を出している声を聴き取り、一人馬上の重騎士を見た。

「行け、フレデリカ! 戦争を終わらせて来い!」

 隣にカサンドラが並んで言った。目は虚ろだが、動きはしっかりしている。

「ああ、サーディス!」

 フレデリカは時々、哀れにも脅され掛かって来る敵兵を斬りつつ、馬上の主へ一撃浴びせた。

 刀身がポールアクスと激突する。

「その紅い鎧、イギスか? 裏切り者め!」

 フレデリカは兜を放り捨てた。

「イギスじゃない!?」

「我が名は赤鬼傭兵団のフレデリカ! サーディス流の伝道者なり! 貴様の首を取りに来た!」

「傭兵が! この第七皇子イレイサーをやれると思うなよ!」

 多用途武器の槍先がフレデリカの顔面を狙った。

 フレデリカは小さく避けた。

「馬から下りたらどうだ、突撃も出来ず、戦い難いだろう?」

「下郎にしては良い心掛けだ。馬から下りて私と一騎討ちできる権利を与えよう」

 イレイサーは馬から跳び下りるとポールアクスを右手で回転させ、フレデリカを睨んだ。アクスの動きが止まった瞬間、イレイサーは踏み出していた。頭上から荒々しい風を起こして刃が迫る。

 フレデリカは避け、力任せに大地を穿った刃を無視し一気に詰め寄った。

「うおおおっ!?」

 敵が度肝を抜かれた声を上げる。

 フレデリカの渾身の突きは敵の分厚い甲冑の中心に大きな亀裂を刻んだ。

「おのれ!」

 長柄では不利と悟ったのか、武器から手を放し、腰の片手剣を抜き、敵は薙いだ。

 フレデリカ避けた。

「坊やの剣だな。可愛がって欲しいか?」

 フレデリカは思わずそう口走った。

「舐めるな、年増の行き遅れが! 貴様は伴侶を持たぬままあの世へ行くのだ!」

 敵の言葉にフレデリカは若干同意した。愛する人は空の上だ。

 剣を操り、打ち込んで来るが、これではカサンドラの方がマシというもの。力だけの剣だ。

 フレデリカが避ける度に、敵は体勢を崩す。元々剣は得意では無いのだろう。ポールアクスをくれてやっても良いが、今も無駄な血が流れていることを思えば!

 フレデリカ突っ込んだ。

 刃は甲冑を破り。胸を貫いた。

 引き抜くと敵は倒れる。

「痛い……死にたくない……助けてくれ」

 イレイサーはそういうと事切れた。

「全軍に通達! 敵将イレイサーを討ち取った!」

 フレデリカが声を上げると近くにいた赤鬼の同僚が伝言のように次々声を上げた。

「敵将はフレデリカが討ち取った!」

「さぁ、大人しく降伏しろ!」

 各所で降伏への説得が行われていた。血走った眦を向けていた敵兵は疲れ果てたようにガクリと膝をついたのであった。

「勝鬨を上げよ!」

 ギルバートの声が轟いた。

「えいえい、おー!」

 朝の光りが包む中、こうして原野での戦は終わったのであった。



 2



 テトラは一人斬り、二人斬り、黄金馬を飛ばして、ぐんぐん戦場へ戻る大騎士団を討っていた。

 彼の戟は鎧を割って肉を裂き、兜を割って脳から真っ二つに斬り下げた。

 だが、たかが一人の追撃と侮り、大騎士団は馬を止めようとはしない。

 テトラは馬を速めた。

 大騎士団の隣を行き、驚く彼らを追い抜いて、ついに先頭に来ると、道を塞いで睨み付けた。

「我が名は東方連合のテトラ! ここから先は死者の道なり! 通るか否や!?」

「若造が、邪魔だ死ね!」

 槍が向けられるが避け、血錆びに汚れた刃をテトラは戟で打ち砕いた。

 敵勢はたまらず馬を止めた。

「こいつを殺せ、大騎士団!」

 槍を破壊された将が叫ぶと次々騎士達が馬を走らせテトラに打ちかかって来た。

 辻風が吹き、敵は甲冑の下から血を噴き上げ、次々斃れた。

 愕然とする大騎士団。ボルスガルドを良い様に蹂躙してきた自信と経験は何処へやら飛んで行ってしまったらしい。

「ひ、引き返せ!」

 残り四千の重装騎士団がたった一人の若武者に恐れを成して逃げ出した。

 テトラはニヤリと笑い、後をゆるゆると追う。

 その時、前方から矢の嵐が飛び、大騎士団は次々馬から落ちた。テトラにも流れ矢が来たが、彼は戟でベシッと叩いて落とした。大騎士団は混乱していた。

「かかれー!」

 ギュイの声が轟く。

 地面が揺れ、折り重なった勇猛な一つの声が響き渡った。

 大騎士団は抵抗したが、壊乱し、続々と歩兵に生け捕られた。

 見苦しい敵の声が聴こえる。

 二千を率いて来たギュイの隣には置いて来たロイトガルの女騎士と二人の戦士の姿があった。

「ギュイ殿、御苦労。やればできるではないか」

 テトラが言うとギュイは笑った。

「見直していただいて何より。さて、出陣した殿達への手土産はできましたな」

「我らをどうするつもりだ!?」

 一人の騎士が縄に縛られつつ叫んだ。

「処刑に決まっているだろう!? 貴様らが我がボルスガルドへした非道を代表して償うのだ!」

 ギュイが怒号し、大騎士団は顔を見合わせ、命乞いを始めた。

「見苦しい! 引っ立てろ!」

 ギュイが言うとボルスガルドの兵らは暴れもがいて抵抗する大騎士団を蹴り、鈍器で打ちのめし、失神するまで各所でそれが繰り広げられた。

「後顧の憂いは断った」

 テトラが言うと、彼と並んで武を振るった純朴そうな大男が言った。

「あんた、カッコいいな」

 その言葉にテトラは軽く笑ったのであった。

 さぁ、帰ろう、マディアのもとへ。

「ではな。お主らと共闘できたこと良い思い出になった」

 テトラが言うと見覚えのある赤鬼傭兵団だった男が頷いた。

「こっちもだ。主に代わって礼を言う」

 ロイトガルの王が頭を下げたというのか。確かにそれだけのことをテトラはしたのだ。だが、ケジメだけは忘れない。今は置いては置くが。

 テトラは三人に背を向けギュイと並んで今の故郷へと歩んで行ったのであった。

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