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傭兵譚  作者: Lance
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豪傑カール

 プリシスの軍勢は再びこの地に姿を現した。また屍を埋めようと言うのだろうか。だが、それはこちらになるかもしれない。もっとも、プリシスが敵軍の戦死者を埋葬する殊勝な国であるかどうかまでは分からない。

 プリシスの前列は大騎士団によって固められていた。どこを見ても重装の馬と騎手、ロイトガルは再び悪夢をみるかもしれない。プリシスほどの立派な軍馬がロイトガルにも送られてきてはいない。ボルスガルドにもいない。旧東方連合の馬がそれに拮抗するかもしれいないが、もともと小さな国故、配備されている軍馬も指揮官だけに行き渡る程度だった。

 陽光が大騎士団を神々しく、いや、禍々しく照らし出す。ランスでは無く多用途武器ポールアクスの刃が不気味に煌めいている。

 ロイトガルも軍勢を展開させたが、兵力では不利であった。

 だが、ローランドは見抜いていた。大騎士団の背後には殆ど無力な徴兵された民衆が兵として従軍しているだけだ。数だけでも優ろうとプリシスも苦肉の策を出してきた。

「ひとまずは、大騎士団をどうにかせねばならないか」

 ウイが言った。聖星騎士団は味方陣営左翼にいた。数は八百。普段聖氷騎士団の主人の世話をしている従騎士達によって構成されている。武器を握るのも初めてではない者達ばかりで、この味方陣営で歩兵大隊に近いずば抜けた数だけは心強かった。

 すると、敵陣から一騎駆け出してきた。

「我が名は第五皇子クリーマクス! 我が武に優る者がロイトガルにはいるか!?」

 自信満々に挑発してくる騎士を見て、飛び出したのはカールだった。

「カール!?」

 ウイが驚きの声を上げる。

「お嬢様と結婚するためにオラ、やるだ!」

 ハルバートを手にカールが敵将へ疾駆する。

「どこの馬の骨だ!?」

「オラは聖星騎士団カールなり! 勝負、勝負だ!」

「下賤な田舎武者め、斧の錆びにしてくれるわ!」

 カールとクリーマクスが打ち合った。

 二合、三合、鉄の音が響き渡る。ローランドは平気だったが、ウイの方は気が気で無いようだ。それはそうだ、未来の伴侶が腕自慢相手に戦いを挑んでいるのだから。

 カールの戦斧は留まることを知らず、クリーマクスを追い詰めている。

 そして武器を圧し折り、鎧ごと敵将を斬り下げたのだった。

 クリーマクスが呻き、馬上から落ちた。

 味方陣営から拍手と歓声が上がる。あれはどこの騎士だ? 俄かに騎士団、兵士隊が騒がしくなる。

「どうしただ!? 相手に不足だべ!」

 カールが言うと、プリシスから再び一騎飛び出してきた。

「クリーマクスの仇! うおおおっ!」

 雄叫びを上げて迫って来る。カールも馬腹を蹴った。

 両者が交錯した。

 倒れたのは敵将だった。

「カール! もう良いから戻ってらっしゃい!」

 ウイが張り切るカールを危うく思い声を出すが、カールは戻らなかった。

「国王陛下様! 見てくれただか!? オラはウイ様の部下、聖星騎士団のカールだべ!」

 カールの大音声に味方陣営は更に拍手を浴びせた。こうして少しでもボルスガルドの援兵が来る時間を稼げている。それも重要だった。

「誰か、クリーマクスとトロソーンの仇を討つ者はいないのか?」

 敵の総大将の声が聴こえる。負けっぱなしでは腹が治まらないのだろう。

 だが、プリシス大騎士団の誰も出る気配が無かった。

「もう終わりだか!?」

 カールが大音声する。

「全軍突撃! プリシス大騎士団の恐ろしさを再び刻みつけよ!」

 敵勢が突進し始めた。

「突撃せよ!」

 命令がそう伝わって来た。真ん中の歩兵大隊は弓矢と槍衾の形を見せ、騎士団だけが突撃した。

「皆、突撃よ!」

 ウイが言った。

 ローランドも傍らでランスを構えながら馬腹を蹴った。

 ウイの首にはペケが巻き付いている。

 ローランドは先鋒で疾駆した。

 敵の生え揃った牙のような凶器が見える。馬鎧は太陽を反射していた。

 敵部隊の鉄仮面がよく見た。途端にローランドは一気にランスを突き出す。

 一人を貫きランスは持って行かれた。すぐさま両手持ちの剣を抜いて二人、三人と、剣を交えるが刃が立たない。両軍の突撃はぶつかってそこで止まった。大騎士団の助走距離があまりに無かったのが救いだった。

 後は乱戦、ウイを死なせないように戦うだけである。

 剣をぶつけるが、重装の大騎士団の鎧に亀裂さえ入れることができなかった。

 ふと、目を向ける。仲間達が斃れる影でウイが懸命に生き残っていた。そこに一騎が横合いから飛び出し、大騎士団の鎧ごと胸部を真っ二つにした。

「お嬢様! いえ、団長様!」

「カール! 無事!? ケガはない!? ありがとう!」

「お嬢様を傷つける奴はオラが許さねぇだ!」

 カールがハルバートを振り回し、次々大騎士団を屠っている。

 血煙と断末魔が聴こえ始める。

 ここに来てロイトガルは良い拾い物をしたな。ローランドはニヤリと笑い、己の戦いに臨んだ。

 迫る切っ先、振り下ろされる刃。それを弾いては掻い潜り、首にどうにか一撃を入れようとするが、鎧が邪魔だ。ローランドはふと、一人の大騎士の背後へ回った。敵は追いつくのが遅かった。武装のせいでやはり動きは鈍い。

「全員聴け、勝つつもりなら正面から挑むな、敵の背後を狙え!」

 副団長のローランドの声が轟くと聖星騎士団は器用に馬を操り敵の背に回り、斬りつけた。

「貴様ら、騎士道精神は無いのか!?」

 プリシス大騎士団が抗議する。

「甘いね、生き残れば勝ちだ。それが戦場ってもんさ」

 ローランドは背後に回り頸部に一突き入れた。血が噴き出し、敵は最期の声を残して馬から落ちた。

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