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傭兵譚  作者: Lance
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ローランドの決意

 ローランドは宣戦布告後、活発に敵とぶつかった。そうすれば、手伝い戦だと思い手を抜くジェイソンら、大勢の騎士達も動くしか無かった。ジェイソンはどうしてもローランドに先んじて名声を勝ち取りたい。そういう思いを抱いているのだろう。

 騎士団の積極的な様子は総大将のクラウザーから称賛された。聖氷騎士団の名を上げる機会は幾度も訪れ、挑発するようにローランドは少数の自分を支持してくれる者達と共に戦場を勇躍し、ジェイソンを揺さぶった。

 斥候を任じられ、ローランドは自分の騎士団を率いて駆け出した。

「聖氷騎士団! 斥候に出向くぞ!」

 やはりジェイソンが対抗してくる。斥候にさほど人数はいらないというのに、騎士団全てが出払ったことになった。

 ローランド隊はゆるゆる駆けていたが、隣をジェイソン隊が懸命に追い抜いて行った。

 あのジェイソンが斥候を引き受けるとはな。

 ローランドはジェイソンが自分の手の内で踊っているような気がした。

 良いぞ、聖氷騎士団、もっと強くなりつつ色々経験しろ。

「我らも急ぐぞ」

 ローランドが振り返り声を上げると、副団長のウイ達が返事をした。自分はこのボルスガルドの戦いが終わったら騎士を辞すつもりだ。少なくとも皆をまとめ、周りを見渡す力を持ってはいない。そんな傭兵団長の下で不幸にも死んできた者達を何人も見て来た。

 陛下は何とおっしゃるかな。

 ジェイソン隊が見晴らしの良い丘の上で立ち止まっているのを見た。

 一騎がこちらへ駆けて来たが、ローランドに一瞥も向けなかった。

「何て、無礼な。でも、どうやら敵を発見したみたいですね」

 ウイが言った。

「そのようだな。ジェイソンに合流しよう」

 ローランド隊が動いた時だった。

 突如ジェイソン隊が丘を下って行った。

「え?」

 ウイらが声を上げる。

 ローランドには分かった。ジェイソンは手柄を上げて正規の騎士団長になりたいと思い、無理やり敵に挑んだのだ。

 丘へ上がってびっくりした。

 敵勢はざっと千五百。鶴翼に展開し、ジェイソン隊はその真ん中へ飛び込んでいたのだ。

「団長!?」

 ウイが驚き声を上げた。

「お前達はここにいろ。ジェイソンを見捨てるわけにはいかないが、無謀な戦で貴重な騎士を失うわけにもいかない」

 ローランドはそう言うと単騎で駆けた。だが、背後から馬蹄が続いた。

 ウイを先頭にローランド隊が追って来る。

「承服しかねます!」

 ウイが後ろから声を上げた。

 騎士に犠牲者を出すわけにはいかない。手伝い戦に本腰を入れてきたが、手伝い戦は手伝い戦でしかない。ロイトガル側から犠牲者を出すわけにはいかない。

 だが、敵はジェイソン隊を包み込もうとしていた。

「誰か、急ぎ援軍を求めに走れ!」

 先ほどの伝令は敵を発見したと告げたに行ったに過ぎない。まさか、戦になっているとはクラウザーも思ってはいないだろう。

 しかし、後方から入れ違いに二騎駆けて来た。

「ローランド団長、前々から思っていたが、あんたの騎士団は一体どうなっているんだ? 二つに分かれてまるで喧嘩ばかりだ!」

 若い士官、デイッツが眦を怒らせて追いついてきた。

「そんな事をしている暇はない。騎士から犠牲者を出せば、ボルスガルドの名誉の戦いに傷がつくぞ!」

 テトラが戟を翳して疾駆して行った。

 そのまま閉ざされた肉壁へ猛進する。テトラが背後から戟を振り数人の首を一気に刎ねた。

 プリシス兵が異変に気付き、迎撃に現れた。

 デイッツの剣が敵を討ち、ローランドの剣が刺し貫く、ウイが指示を出し、副団長以下ローランド隊は弓矢に武器を切り替え、馬上、近距離で射撃していた。

「押し込まれるな!」

 ジェイソンの声が轟く。怪我の功名とでも言うべきか、プリシス兵は前に後ろにかく乱される形となった。後方では見事な羽織を纏ったテトラが次々敵を葬っている。ウイらの長弓部隊も良い腕をしていた。敵のバイザーごと顔を突き破り絶命させている。

 ローランドも振り返る兵らと打ち合った。かつてのプリシス大騎士団ほどではないが、プリシスの兵は精強だった。

「騎士団に犠牲を出すな! 助け出せ!」

 デイッツが声を上げる。応じる部下達はまだ参戦していない。どこまで来ているのかも分からない。後ろを振り向く余裕は無かった。

 この失態は俺の責任だ。ジェイソンを焚きつけ過ぎた。俺の手で踊るほど簡単な器の持ち主ではない。反骨に反骨を重ね、俺を毛嫌い、いや、激しく憎悪している。

 傭兵上がりに指揮権を奪われるのがそんなに恥に思うのか、ジェイソンよ!

「ラアアアアッ!」

 ローランドは剣を振り回し、次々、敵の手を首を斬り飛ばした。血が顔に掛かる。

「ジェイソン、騎士団、生きてるか!?」

 ローランドは声を上げて我武者羅に剣をぶつけるのみだった。

 道を開いたのはやはりテトラだった。

 敵が左右に後方に引いた。

 騎士団は円の陣形を組み、肩で息をしていた。突撃も防がれ、馬上で身動きが取れなかったのだろう。それでもどうにか生きていた。

 背中から地を揺るがす足の音が聴こえた。

「わああああっ!」

 徒歩のボルスガルド兵がようやく増援に追いついてくれた。

 敵勢は逃げ出した。

「追え!」

「追うな!」

 ジェイソンの声を打ち消したのはデイッツだった。

「ロイトガルの騎士さん達よ。仲間割れしてる場合じゃないぞ。あんたらが死んで、戦が無事に終わっても、ブリック王は諸手を挙げて喜びはしないだろう。ローランド殿、ジェイソン殿、少し、いや充分に頭を冷やせ」

 その言葉を聴いてローランドは自分がいかに短慮だったのか思い知った。宣戦布告などすべきではなかったのだ。騎士団が不安材料になればボルスガルドにも迷惑が掛かる。どちらかが折れなければならないのだ。

 ローランドは心を決めた。馬を下りるとジェイソンの元へ向かった。

「団長、いけません! ローランド団長!」

 ウイの声が呼び止めようとするが、もはや覚悟を決めていた。

「ジェイソン」

 ローランドは馬上から見下ろされる形となって名を呼んだ。

「何か?」

「俺は傭兵で平民。お前達より器用に生きられるし、生きて来た」

「何がおっしゃりたい?」

 沈黙の中、テトラやデイッツ、ウイにローランド隊の視線が向けられるのを背中に感じた。

「頭を下げるのは得意だということだ。ジェイソン、今日からお前が騎士団長だ。俺はお前の手足として戦う」

「そんな!」

 ウイが声を上げた。

「ただ、俺について来てくれた者達を平等に扱ってくれ」

「よろしい。では今日から私が騎士団長だ」

 ジェイソンが静かに言うと、ジェイソン派だった騎士達が歓声を上げた。

「聖氷騎士団長、ジェイソン・ゴンザレスに祝福あれ!」

 そんな声を聴きながらローランドは王に申し訳ない気持ちだった。王が何を思ってローランドを騎士団長にしたのかは分からない。だが、その信任を裏切ったのは事実だ。そしてウイらの気持ちも。

 誰かが背中に跳び付いてきた。

「どうして、あなたこそ、理想の団長だったのに、信じていたのに、どうして」

 ウイが泣いていた。

 ボルスガルド解放軍が静かに合流した。

「若、ロイトガル勢のゴタゴタはとりあえず片付きました。若も威勢ばかり褒めてちゃいけませんぜ。これは俺達の戦です。それをお忘れなく」

 ディッツがクラウザーにそう告げた。

「胸に刻んだ」

 クラウザーは短くそう応じたのだった。

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