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傭兵譚  作者: Lance
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遭遇戦

 町の人々の手厚い歓迎を受けた一行は、次第に緊張の面持ちで行軍を続けていた。

 町の人間が言うにはこの先に砦が設けられているということだった。

 徒歩のボルスガルド解放軍では斥候は務まらない。そういう理由でローランドは率先して斥候の任務を引き受けた。

「そろそろだな」

 ローランドはそう呟き、列の開いている聖氷騎士団に呼び掛けた。

「騎士団、斥候に出るぞ!」

 そう言ってローランドは馬腹を蹴り走り出す。ローランドは後ろは振り向かなかった。ジェイソンに義理堅く味方する者はそれで良い。だが、少しだけ期待もしていた。昨日の手合わせで俺の実力に感化された者が付いて来てくれるかもしれない。希望は常に抱くものだ。絶望を覆してきたサーディスと共にいてそう痛感した。

 馬蹄が街道に木霊する。

 ローランドの耳に予想よりも多い馬の足音が聴こえた。

 来てくれたか。

 まずは安堵する。こうやってジェイソンを孤立させるつもりは無いが、ある程度の手勢は必要だ。

「我々を含めて四十八騎です」

 並走しながらウイが嬉しそうに言い、ローランドも思わずニコリとした。自分に興味を持ってくれた者がいる。後は心を掴むだけだ。

 ふと、その時、前方に影が見えた。色の違う馬蹄が轟く。

「団長!」

「敵も斥候を出してきたか。ボルスガルド解放軍の存在を嗅ぎ付けたということだ。これからは平和には行かないだろうな」

 ローランドは旌旗を掲げている者を呼び出した。二騎いる。ロイトガルの国旗とボルスガルドの蒼い鳥の旗だ。

 敵にボルスガルドの者がいるのなら斬りたくはない。

 だが、音と影からすれば敵は百騎近くいる様だ。

「副団長ここで待て」

 ローランドはそう言うとボルスガルドの旌旗を手にして駆けた。

 蒼い鳥の旗を左右に大きく振るう。風が孕んで旗は膨らみ、その存在を誇示した。

 その行動に敵勢は馬の速度を緩めた。

 たった一人の男が大きな旗を振っているのだ。不思議がるのも無理はない。

 今だ。

「我々はボルスガルド解放軍! ボルスガルドを再興するために兵を挙げた! 元ボルスガルドの男達がいるならば、手を借りたい!」

 ローランドが大音声で言うと、敵勢から声が上がった。

「ボルスガルドの亡霊めが、今度こそ成仏させてくれるわ! かかれー!」

 敵の指揮官が声を上げる。

 ローランドは剣を抜き、襲い来る騎兵を一人突き、二人裂いた。その頃には敵の後方で争いが起きていた。ボルスガルドの者が居たのだ。

「団長!」

 次々迫り来る騎兵に向かって一本の矢が放たれた。矢は敵のバイザーの隙間を貫き馬上から敵を射落とした。

「聖氷騎士団、かかれー!」

 ローランドが声を上げると、部下達が馬を飛ばしてプリシスの兵とぶつかり、斬り合った。

 練度を見る。沈黙国家とも言われたプリシス兵は聖氷騎士団と互角に戦っている。圧倒しているのはローランドの剣だけだった。

 彼は次々敵陣深く斬り込み、幾つもの首級を挙げた。

 苦戦する部下を救い、敵を斬り下げた。分断された身体から血が噴き上がり、ローランドの鎧を次々朱に染める。

 やがて、敵を殲滅することができた。

「ボルスガルドが再興するとは本当か?」

 三十名近くの元敵兵が馬から下りて尋ねた。

「本当だ。実質、ボルスガルドは再興している。今は居座る逆賊達を討滅するために兵を挙げている」

「俺達も仲間に加えて下さい」

 ローランドは頷いた。

「砦の状況を教えてくれ」

「はい、砦には千名程の兵士が詰めております。門扉は鉄製で厚く、破るのには困難でしょう。深い外堀があって長梯子で侵入するのもまず不可能です」

 その言葉にローランドは一計を案じた。簡単なことだった。

「あなた方は敗走して来たと伝えて一度砦へ戻ってくれ。そして我々が兵を向けたら内応する」

 ボルスガルド兵らは頷き、去って行った。

「さて、皆、ケガは無いか?」

 ローランドが一同を見回す。ジェイソン派だった者達の顔があった。彼らが頷いた。

「団長、あんたは凄い。傭兵の剣がこれほどまで力強く研ぎ澄まされているとは思わなかった。誇りある剣だ」

 一人が感嘆するように言った。

「ありがとう。さぁ、戻ろう」

 ローランドらはクラウザーに報告と提案をすべく戻った。


 

 2

 


 クラウザーはローランドの提案を妙策だと言った。

 そうして行軍の途中に戦があった場所に差し掛かると立ち止まりテトラが言った。

「あの程度の人数で勝つとはやるな。貴公も以前、俺に殺されようとした時とは違い、腕を上げたようだな」

「ありがとう。天下無双のあんたに褒められるとこそばゆい。まぁ、俺も戦うのが仕事だからな」

 ローランドはそう応じた。ジェイソンらは沈黙を守っている。最後尾で固まり、冷ややかな視線を向けていた。俺はジェイソンを含めて四百弱の騎士の心を掴まねばならないな。立ち止まっている暇はない。

 解放軍と騎士団は歩みを進めた。

 遠くに話に聞いたとおり、広大な砦が待ち構えていた。

「この辺り一帯を治める代官でも籠っているのだろう。内応と同時に、攻め込むぞ。我々を待つ者を一人たりとも死なせはせん。狼煙と共に足の速い聖氷騎士団に先行して、中の者と合流して貰いたい」

 クラウザーが言った。

「分かりました」

 ローランドは頷いた。

 若い士官、デイッツが狼煙を上げた。

 その時、飛び出して行く者があった。

「聖氷騎士団、我に続け!」

 ジェイソンだった。

「応ッ!」

 約四百の騎士団が馬蹄と地鳴りを響かせ後に続く。

「ジェイソン!」

 ジェイソンも焦っているのか。同じ目的を持つ者同士、どうして俺達は仲良くできないのだろうな。

「続くぞ!」

「応ッ!」

 ローランドが声を上げ、ウイらローランドを慕う者達がジェイソンらに負けじと大音声で答えた。

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