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傭兵譚  作者: Lance
129/161

ローランド出撃

 城の正面には慌ただしく隊列を整える聖氷騎士団の姿があった。

 もう他人事では無いのだ。今の俺は聖氷騎士団長ローランドだ。彼らの命を握り締めている。

「ローランド団長」

 女性の声がし、ローランドは驚いて隣を見た。

 馬を並べて来たのは甲冑姿の女性で、年の頃は二十ぐらいだろうか。ルクレツィアと同い年ぐらいに思える。カイを思わせる青い髪に薄い青い眉に同じくサファイアのように青い目をしていた。鼻立ちはよく、すっきりした可愛い女性だった。

「君は?」

 ローランドが問うと女性は騎士の礼を取って述べた。

「本日より聖氷騎士団副団長の任に就くウイと申します」

「若いな」

「……父の急死の後を継ぐ形となりましたが、ご安心を、遅れは取りません」

 きっぱり述べてウイは声を上げた。

「全軍、団長に注目!」

「え?」

「初めが肝心です」

 ウイが生真面目な顔で促す。

 聖氷騎士団の面々はバイザーを上げていた。若い者も壮年の者もいる。その視線を受けローランドは声を張った。

「ローランドだ。臨時で団長を務めた時に姿ぐらい見たことはあるだろう。今、王陛下に正式に諸君ら聖氷騎士団の長となった。これから赴くのは勿論戦場、気を引き締めて行こう」

 騎士達は顔を見合わせた。

「返事はどうした!」

 ウイが鋭く指摘すると騎士らは姿勢を正した。

 生まれのせいか。俺は平民で傭兵上がり。ウイは騎士の家系なんだろうな。これなら逆でも良かったんじゃないか。指揮系統の整わぬ軍隊など壊滅しに行くようなものだ。

「団長、どうか、無茶はせずに皆の心を掴んでください」

 ウイが言った。

「分かった。ありがとう」

 ローランドは同じく新米の副団長に礼を述べると騎士団の先に立った。

「まずは赤鬼の野営地に向かう! ボルスガルドの指導者と合流し、今後はボルスガルドの地を取り戻す戦いに身を置くことになる! 手伝い戦だからと言って手を抜く奴は俺が斬る! そのつもりで臨んで欲しい!」

 騎士らから返事は無かったが、十数人が頷いた。

「出発!」

 ローランドは声を上げた。

 角笛の音に祝福されローランドの戦いは始まったのであった。



 2



 赤鬼の野営地に着くと、そこには薄汚れた馴染みの傭兵らが出迎えてくれた。

「何だ、ローランド、お前立派になっちゃって」

 元同僚らが言うと、ローランドは笑って応じた。

「一足先に騎士になったんだ。この戦が終われば皆にも多大な恩賞をと王陛下はおっしゃられた」

 すると傭兵らは士気を上げた。

「ローランド」

 赤鬼とフレデリカ、カイ、カティアが歩んで来た。

「そういうわけです。お世話になりました」

 ローランドは馬から下りて頭を下げた。

「そうか、騎士志望の者はたくさんいたがまずはお前が騎士になりおったか」

 赤鬼が言った。

「騎士になったからって強くなったわけじゃない。色々気を付けなよ、おっさん。もう、俺らは助けてやれないんだ」

 カイが続く。

「ああ」

「お前から貰った剣は大切にする。命を大事に、カイの言う通り、我々はもう助けてやることはできない」

 フレデリカが言った。

「ああ」

「幸運を」

 カティアが微笑んで言い、ローランドは頷いて騎乗した。

「ボルスガルド解放軍はどこに?」

「向こうだ」

 見回すローランドに向かってロッシ中隊長が言った。

「戦士の星々よ! 騎士ローランドに魂の祝福を!」

 赤鬼の声が轟く。傭兵らが唱和する。ローランドは思わず感涙した。その様子をウイが見ていた。

 涙を振り払い、ボルスガルド解放軍の陣営へ赴く。

「我々は聖氷騎士団!」

 ローランドはそう声を上げながら、八百近くいる軍勢に驚いた。もうこんなに兵を集めるとは思わなかった。

 列が割れ、若い指導者が姿を見せた。髪の短い端麗な若者だった。

「解放軍の指導者クラウザーです」

 下馬するのをローランドは止めた。

「王より命令をいただいた。我々は貴君らと共にボルスガルドを再興すべしと」

 その声に解放軍全体がどよめいた。

「我々は大人しくクラウザー殿の指揮下に入りましょう。何なりと申しつけ下さい」

 ローランドが言うと、騎士らが浮かない顔をしているのを見て取った。ウイだけが冷静な目でクラウザーを見ている。

「分かりました。そちらの馬の体力もあります。一晩休み、明朝出立いたしましょう」

 クラウザーが提案した。反対する理由もなくローランドは頷いた。

 その夜、騎士らは天幕を張った。赤鬼傭兵団にボルスガルド解放軍はそのままだ。

 天幕を張りながらぼやいているのをローランドは耳にした。

「平民上がりの傭兵が団長とは」

「陛下は何故我々の中から選出しなかったのだ」

 聡い耳を傾けながら不満を聴き、ローランドは騎士の気位の高さを思い知った。思えば、ミティスティやギルバートが特殊だったのかもしれない。本来、騎士とは誇り高き者。

「それは、あなた方が陛下を裏切り手に掛けようとしたからではありませんか!」

 ウイの声が聴こえた。

 騎士らは未だぶつぶつというと天幕に入って行った。

 これは俺の実力を早いことろ証明する場が必要だな。武でも知でも何でもいい、尊敬を勝ち取らねば死ぬのは俺達だ。

「団長、こんなところで何をしているんです?」

 ウイが松明を手に歩み寄って来た。

「いや、風にあたってたのさ」

「団長、先ほどの騎士達のこと」

「気にしてない。当然のことなんだ。ありがとうな、副団長殿。スカッとしたよ」

 ローランドはそう言い、岩から腰を起こすと、ウイの肩を手で軽く叩いて感謝し、遅い天幕の設営に向かったのであった。

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