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傭兵譚  作者: Lance
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蒼き鳥

 解放軍を再びロウ傭兵団とクラウザーが呼んだ。

 兵を五百人集められればそれだけでボルスガルドの再興は果たされる。

 馬上、重臣らは眉をひそめていた。テトラにもクラウザーの胸の内が分からない。どんな策略を考えているのだろうか。

「良いか、良く聴け」

 西南に原野を向かいながらクラウザーがようやく口を開いた。

「これより、敵の砦に向かう」

 その言葉に重臣一同は驚き、テトラもまた同様だった。

「若、無茶です、人数が少な過ぎます」

 心配症のハミルトンが声を上げる。強面のギュイも同意した。しかし、血気盛んなのか若手のデイッツだけは違った。

「おっさん達、俺らは今までそうやって功を上げて来たんだろう」

「それはそうだが、しかし、若、戦いを挑んでどうするのです? それでどうやって兵が集まるのですか?」

 ハミルトンが問うとクラウザーは馬を止めた。前方に砦が見えた。

 ここに砦があることを知っていたのか。

 テトラは軽く驚いた。

「ブリック殿からの情報だが、当たっていたな」

 クラウザーはそう言い全軍を停止させた。古参は大分討ち死にしたが敵から寝返った新参が二百ほどいる。

「蒼き鳥を使う」

 クラウザーは静かにそう言った。

 テトラには意味が分からなかったが、臣下一同驚愕に目を見開いた。

「何なのだ、その蒼き鳥とは? 化け物鳥でも呼び寄せるのか?」

 テトラが問うとハミルトンが答えた。

「蒼き鳥とはボルスガルドの旌旗です」

「若、もしや、再び内応をお考えですか?」

 ギュイが問う。強面だが、器用で偽の書類を使ったりもする。ただし、武芸全般は苦手な男だ。

 クラウザーは頷いた。

「我らはロウ傭兵団として増援として砦に入る。ボルスガルド出身の者を見つけ出し、こう言うのだ」

 クラウザーは一呼吸置くと決然とした顔で言った。

「蒼き鳥は再び羽ばたく。東の原野にて待つ。ハミルトン、お前はここへ残れ。道標となるのだ」

「若、それは無いでしょう! 若が危険な目に遭うというのに臣下の中で私だけ残れと言うのは、あまりにも無念すぎます」

 クラウザーは程よく肥えた中年の臣下を振り返った。

「お前は我が軍の副将だ。頼む、私亡き後、皆を導くのがお前の役目だ」

「そんな縁起でもない!」

 ハミルトンが顔を真っ青にして応じるとクラウザーは答えた。

「兵を百名残す故、頼んだぞ」

 不服なハミルトンを見てギュイが言った。

「心配するな、肉団子、若は俺が死なせんよ」

「何だと、お前は強面だけが武器の男では無いか、到底若を守り切れぬ!」

 テトラは溜息を吐いた。一同の目が集まった。

「クラウザー殿や兵の命は私が預かる。ハミルトン殿、ギュイ殿、各々臣下としての任を全うすべし」

「そういうことだ」

 テトラに続いてデイッツが言うと、ハミルトンは目を真剣なものに変えた。もはや迷いの無い目だとテトラは思った。

「皆、若を頼む。私はここで待つ」

 ハミルトンが承知した。

「任せて置け」

 ギュイが熱い眼差しを向けて僚友に頷く。

「では、残り百は私に着いて参れ」

 クラウザーは先頭で馬を駆けさせた。



 2



「ロウ傭兵団? そんな者達が派遣されてくる予定など無いが」

 大きな砦に着くと慌てて砦の守備兵らが飛び出してきた。

「この通り、皇帝陛下からの書面もある」

 ギュイが自ら偽造した書類を見せると守備兵は頷いた。

「先の戦で大敗したからな、正直今は一兵でも欲しいところだった。歓迎する」

 こうしてロウ傭兵団は砦の中に招き入れられた。

「テトラ殿は若を。皆、くれぐれも気取られぬよう、ボルスガルド出身者を探すのだ」

 ギュイが言い、デイッツも含め、兵らは散らばって姿を消した。

「我々も行こう」

 クラウザーが言った。

 彼は手近の兵に問いかけた。

「蒼き鳥は再び羽ばたく」

「何言ってるんだ?」

「いや、何でもない」

 外れだった。テトラは緊張を覚えていた。この手で行くとするのなら勘の鋭い敵は気付くかもしれない。その際は我が槍で。

「蒼き鳥は再び羽ばたく」

 五人目の兵に言うと、相手は驚愕に目を見開いた。

「あなた方は一体?」

「東の原野にて待つ」

 兵が密集しており名乗ることはできなかった。

「必ずや。ついでに同胞にも知らせましょう」

 兵は声を潜めて去って行った。

 本当にこの綱渡りのような手段で大丈夫なのだろうか。

「蒼き鳥だと!? それはボルスガルドの国旗では無いか! 内部に間者がいるぞ!」

 声が上がった。

「甘かったか」

「大甘ですよ。しかし、これしか手段は無かった。後は戦って奪うのみ!」

 テトラは勇躍し、クラウザーと共に駆けた。

「蒼き鳥は再び羽ばたく! 東の原野にて待つ! ボルスガルドは再興するぞ!」

 もはや隠し立てもできずテトラは大音声で言った。

 この声を聴き、彼は敵だと注目を浴びた。

「クラウザー殿、お先に! あなたが死んではボルスガルドを引き受ける者はおりません!」

「分かったテトラ殿」

 クラウザーが去るとテトラは勇躍し馬を走らせ、四方八方を囲む帝国兵を切り裂いて回った。

「蒼き鳥は再び羽ばたく! 東の原野にて待つ!」

 テトラが咆哮を上げると数人が気付いたように頷き合いそそくさと出て行った。

 眼前には二百は下らぬ兵達が刃を剥き出し睨みつけている。

「ボルスガルドの生き残りはいないか!? いないのなら、我が刃、存分に振るわせて貰う!」

 テトラは馬から下り、槍を引っ提げて敵の群れへ突進した。

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