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ナースの私が異世界の病院で働くことになりました

作者: 万里

 私はこれまで、看護師として10年以上仕事一筋で生きてきた。


 嘘だ。

 それなりに真面目に生きてきたつもりだが、仕事に人生を捧げるほど熱心な人間ではない。給料が入れば趣味のゲームを買い、漫画を買い、アニメを観て、ストレスと上手く付き合いながらなんとか生きてきた。そしてそうこうしているうちに月日は経ち35歳の年を迎え、「独身のまま、お婆ちゃんになったら一緒に老人ホームに入ろうね」と誓い合った友人までもが結婚し、私はひとり取り残された。もう友人の結婚式に出るのも疲れたし、母親となった友人たちの会話にもついていけない。ご存じだろうか、両親からかけられる言葉も、ある程度年齢が進むと「早く孫の顔が見たい」から「老後、独りだと辛いわよ……」に変化することを。

 なぜこうなった。それなりに恋愛も経験してきたはずなのに、なぜ私はいまひとりなのか。私はなんのために生まれてきたのだろう。仕事をそれほど好きになれないまま毎日へとへとになるまで働いて、得た給料を趣味につぎ込んでどうにかこうにか気力を回復する。その繰り返しが死ぬまで続くだけなのか。

 私が夜勤明けの朦朧とする頭でそんなことをつらつらと考えながら病院の階段を降りようとした時、鞄に付けていた推しキャラのキーホルダーが外れて落ちてしまった。子どもの頃から好きだったファンタジー作品のエルフの男性キャラだ。

 急いで拾おうと身を屈めた私を強い目眩が襲う。階段から足を踏み外した私は、そのまま転げ落ち、頭を強く打ってあっけなくこの世を去ることとなった。


 そう思った。

 実際、『この世』からは去ったのかもしれない。

 目を覚ました私は、鬱蒼とした森の中にいた。

 身を起こした私に、遠くから声がかかる。

「そこの人! 動けるのであれば手伝ってほしい! けが人が多すぎて、僕一人では手に負えないんだ!」

 その逼迫した様子の男性の声を聞いて初めて、脳が周囲の様子を理解し始める。男性の周囲に、長く伸びた草に埋もれるようにして、見たこともない服を着た人間が数人、倒れているのが見えた。

 状況が理解できないまま、それでも頭の隅で何かが「これは運命なのかもしれない」と叫んでいる。きっと、自分自身が何よりそれを願っている。たとえこれが、死ぬ間際に見ている夢だったとしても。

 私は躊躇わずに駆け出した。


 ちなみに、私を呼んだ男性が尖った耳をもつエルフであったことは、後から気づいたことにしておく。

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