物語の始まり
「おかえりー」
ヨークは私の帰宅を祝した。片手にはコーラの瓶が握られている。
「幻想使いはどうだった?」
「はしゃいだ」
「格好つけてたよね」
「あーうるさいうるさい」
私は大学二年生になった。あれから勉強し、一人暮らしを続けている。卒業して、美佳と遊ばなくなった。と言っても、SNSでは元気に活動している。
麻衣は絵師として活躍していた。今度は個展を開催するらしい。
「ヨーク。わがままを聞いてくれてありがとう」
「君たちが満たされるならいいよ」
さて、と彼は膝を伸ばした。机から立ち上がり、荷物を手に抱える。
「もう行くの?」
「リッジに襲われそうな子供がいるからね」
彼は扉を開けた。あとを追うため、閉じそうな扉を抱える。外廊下に出たけど、姿がなかった。
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「ねえ、沙織。これ見たことある?」
大学の友達が動物の動画を教えてくれた。白い犬がエスカレーターを十秒だけ登る内容だ。キュッと癒されて、頬が緩む。
「可愛いー!」
「センスあるね」
「まあね」
友人の目が誰かを捉えた。その先をおうと、茶髪の女性が座っている。
「沙織。あの茶髪の子知ってる?」
「うん」
「何か震災の孤児らしいよ。結局は両親や身元が不明で、どこから来たのかわからないんだって」
私は席を立ち上がった。と同時に、茶髪の女性も食堂を立ち去ろうとする。
「ち、ちょっと沙織!」
座っていた箇所に定期が落ちていた。名前はタカハシミクと記入されている。
急いで、その背中に追いついた。
「あの、これ落としましたよ」
長い髪に細い眉毛。まるで世界で一人ぼっちだと言いたげな瞳。
「あ、ありがとうございます」
彼女は定期を受け取ろうとした。
「あ、あれ?」
ミクは肌に触れ、膠着した。その目は真っ直ぐに私を捉え、口を半開きにした。
「沙織?」
「うん」
丸い瞳から大粒の涙が落ちる。化粧が崩れて、黒色になっていた。続けて私も泣いてしまった。
次第に鳴き声が大きくなった。周りは見てるけど、気にしない。
だって、世界はふたりの為にある。