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彼女の本音

 揺れる電車から夕日が差し込む。窓際に座った陽縁は疲れからか目蓋を閉じている。

 遊んだ施設は学校から近い。交通手段は変わらず電車とバスで帰っている。高校と同じだから、陽縁は住所が違う。電車は同じでもバスの行先は私の家より近い。

 陽縁は今日のうちに通院代を支払いたいと朝に言っていた。だけど、夕方まで遊ぶと予想してない。楽しかったから、互いに長時間の不満はなかった。


「もう少しでつくよ」

「眠い」


 電車を降りてバスに乗る。今度は目を覚まして、景色を一緒に追う。横目で携帯を操作し、母親に連絡し、裏で根回しする。


「こんな夕方は迷惑でしょ」

「私は大丈夫。帰りが遅くなるのは良いの?」

「怖いけど、私には時間がないからね」

「どっか行くの?」

「もう少しで遠いところに行くよ」


 到着して、質問は止められる。そこから歩いて5分ほど立つ。1階に明かりがついているから、母親が帰ってきていた。灰色の中古車が葉っぱをタイヤに巻き付けている。

 家の鍵を回して、隣から緊張が伝わる。


「怖がってるの?」

「こ、怖がってない」

「なにそれ。……ただいまー」


 陽縁に靴を脱がせ、リビングから台所に歩いた。そこは母親が料理の準備をしている。鍋の具材がまな板の近くに置かれていた。


「あ、久しぶりね」

「あの時は失礼しました」


 肩にかけていた鞄から茶封筒が出てくる。ベンチに並べてあったせいか、横に折れ目ができた。


「あ、あの。折れてますけど。治療費の」

「あらいいのにー」


 料理する母に代わって、封筒を書類の詰まっている棚にしまい込む。


「それでは帰ります」

「待って」


 母親は蛇口から水を出して手を洗った。


「あなた、沙織が言っていた伊藤さんよね?」

「そ、そうですけど」

「一緒に食べていかない?」

「え!」


 彼女に裏の企みがなく、純粋に返金する。私から返せば済む話なのに、妙なところで義理堅い。


「迷惑ですから……」

「あなた一人で住んでるって聞いたけど、ご飯はちゃんと食べてるの?」

「母さん。私が前にご飯作ってあげたのに、全然やらないんだよね」


 陽縁は肌の色が白く、腕が細い。今の外見と倒れた経歴を含め食生活を心配される。


「でも、夜遅くにお邪魔したら母さんに怒られたから」

「今は母さんと住んでないでしょ。食べない?」

「食べないの?」

「た、食べます!」


 陽縁には悪いことをした。これは根回しで、母親に引き止めるよう願っている。彼女は私の家に泊まるだろう。そして、結果そうなった。

 ご飯を食べ、風呂に入る。部屋は私のところに通された。

 今日は父親が出張で帰ってこない。



「本当にいいの?」

「だから、良いってば」


 髪の毛をドライヤーで乾かしている。自室のテレビを見ながら足を脱力させる。


「私の身体って伊藤葵だから警戒しちゃうな」


 学校側が個人情報だと虐めた人間を秘匿した。葵の名前は耳に届いていないし、陽縁は前から話している。仲のいい友達ができたと、取り戻した記憶の中で、私はハツラツに語っていた。


「みんなは別人だって思ってるから」

「それでも、私が巻き込んだことだからなー」


 モヤモヤすると叫んで寝転んだ。濡れた髪が汚れになってしまう。


「おい」

「ごめん」


 起き上がった陽縁は丁寧にタオルで拭き取っている。


「沙織。母さんに何を話したの」

「遊びに行ったこととか、秘密の遊びとか」


 その時は名前を言っていない。なぜか報告するのが恥ずかしかった。でも、言わなかったから葬式で騒がれなかったし、偽物の葵だと分かるまで時間がかかっている。


「はー、私のことを話してたなんてね」

「だって一時期はずっといたじゃん」


 指輪を配られるまでは一緒に遊んでいた。美佳が嫉妬するほど連れ歩くから、クラスメイトにも目撃され、関係性を追求されたこともある。


「そうそう。ゆいゆ……、桂木にも怒られたね」


 彼女の性格なら一対一で話をつけようとする。陽縁は言葉通りに配慮をしてくれた。


「あ」髪の毛が乾いた彼女はコップを手につける。「一緒にバスケしたの覚えてる?」


「楽しかったね」

「おー覚えてるの! 記憶戻ってよかったかも」

「態度変えたりしてないでしょ」


 テーブルに炭酸飲料とコップを二つだけ置いている。母親にバレないよう隠してきたから、飲み物が温くなっていた。中身を陽縁のコップに注いであげる。


「うん。嫌われてると思ってた」


 嫌っていない。あの時は、私と同じ寂しいところに残っていると思ったから、手を伸ばしたくなった。それでも、リア充との緊張は拭えなかったけれど。


「陽縁はどうして私といてくれるの?」

「他の人と違った。空っぽな私を見抜いた目をしてたから」


 彼女は元々から透明じゃないかって間違える。透明だから皆を傷つけてしまうし、自分を見失ってしまう。純粋は大人になるほど必要じゃなくなる。


「嘘も失敗も許されなかった。でも、貴方は失敗したって笑ってた。ほら、炭酸をこぼした時とか『なるべく傷つかない返答』をせずに私へ助けを求めたじゃん」

「そんなこともあったね」

「そんな貴方なら被害者になりたいって思ったんだ」


 そうして、陽縁はぽつりぽつりと話しだす。陽縁が自殺した理由が明かされると、わずかな予想をした。

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