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世界の裏側から語りかける者

 四人で出かけることにした。と言っても、翔は女子の輪に入れないと辞退する。彼は節度が残っていたみたいだ。そして、学校帰りにファストフード店に寄った。4人席で隣は葵が来てくれる。正面は桂木で鳥肌が立つ。


「桂木さんと話すの久しぶりだね」

「五十嵐を罵倒して以来だな」

「葵と桂木さんって知り合いなの?」

「昔は話していた。もう最近は沙織といるけど」

「それで話って何?」

「あ、私から……、です」


 佐山が声を上げた。

 スーシャを配置していたと、役割に納得していない。それをしていたのが同じ教室にいて、願いを叶えようとしていたなんて。そして、葵が佐山へ叱らないのに異物感がある。自分の指輪が私と佐山に奪われてしまったのに。


「伊藤さん。あの時は逃げてごめんなさい」

「逃げる?」

「伊藤さんが怖くて逃げてしまったんです」

「いいよいいよ」

「許すの?」

「うん」


 葵は一年間以外の記憶がない。記憶喪失は個人の性格まで変貌させてしまうらしい。以前の葵は自我が強かった。思い通りに動かすため根回しを忘れない。そんな姑息さがあった。


「葵がいいならいいけど」

「謝れてよかった」


 画面の番号がつく。私たちの注文した食品が届いたらしい。


「私が行くから、五十嵐さんついてきて」

「うん」


 葵は奥の席で、私と桂木が会計に近い。合理的に判断し後ろへついて行く。


「五十嵐さんは葵と順調なの」

「最近は私の友達と一緒にいるよ」

「そうか。一人じゃないんだな」


 トレーにポテトとハンバーグが乗っている。大して相手はドリンクのトレーを浮かせた。


「これは嫌味じゃないから聞いてほしいんだけど」

「なに」


 自分たちの席が近づいてきた。二人ともぎこちないが、携帯はいじっていない。


「葵はあなたにとって危険なわけ。今は二人とも順調だけど、いずれ誤解が起きる」

「それは葵と離れた理由?」

「貴方に限った話。本当に気をつけてね。貴方は嫌いだけど、私はもう友達を見殺しにしたくないから」


 私たちのご飯をテーブルに置いた。ポテトを取りやすいように紙の上で散らばらせる。ポテトの入っていた赤い箱を潰し、学校の話をした。期末試験が近づいたとか、将来はデザイナーやりたいなど話題の提供が上手い。その会話にあいずちを打つ。佐山は混じっている自分に浸っていた。どうしても、それっぽいことが私にはできない。その流れは麻衣と美佳と相違がある。彼女らは私に合わせてくれていた。今はグループ上位の風が来ている。


「それで沙織の作ったご飯食べたんだ」

「葵はあの日以来料理してるの?」


葵はこんなに話せるのに友達がいないわけがない。


「してない」

「やっぱり」

「葵は料理が苦手そうだからね」

「また作りに来ればいい」

「行かないよ」


 そして、佐山も主体的に参加してきた。彼女はネットで拾った情報が多い。どれも興味が尽きなかった。


「そうそう。この記事とか面白かって―――」


 携帯をいじる親指が動かなくなった。目は見開いている。


「佐山?」


 気になった彼女も顔を接近させる。画面の文字を追って、つばを飲んだ。


「桂木さんどうしたの?」

「ねえ、これは佐山?」


 今までサバイブ速報の話をしていた。私も気になって携帯を広げる。サバイブ速報は新着記事を更新していた。


「これって」


 内容は動物虐待の動画を貼った男性に中傷が飛んでいるというものだ。名前までが割れていて、今にも脅迫が飛んでいるらしい。

 サバイブ速報から離れ、男性のサイトに飛ぶ。彼の本名が露見していた。


「佐山……」


 二十歳無職の男性だった。彼には妹がいるとのことだ。


「ごめん。私たち先に帰る」

「えっ、大丈夫?」

「佐山は私が返す。トレー片付けて。ごめん」

「いや、いいけど」


 葵もどれほどかと私の携帯を寄せた。


「葵?」


 彼女は冷静じゃなくなった。口に手を抑え、椅子に座り、口を効かなくなっていく。


「顔色青いよ」

「サバイブ速報、かぁ……。まだサイトなんだ。なんで……」

「葵?」


 自分の世界に入り込んで帰ってこない。まるで薄い黒の壁がまとわりついているようだ。どうして手を伸ばしても聞き入ってくれない。


「対面は久しぶりだね。あの時は麻衣くんを虐めてすまない」


 反射でまっすぐ見据える。そこには男性が無断で席についていた。猫の被り物をして黒手袋をしている。ベージュのスーツだけ一般的だ。特殊な姿なのに、通る子供でさえ目もくれない。


「貴方。ダレ?」

「私はスーシャを作れるスーシャ。佐山くんが配布しないらしいから表に出ちゃった」

「な……」


 猫の被り物はポテトを人差し指と親指でつまみ、その猫の口に入れた。細い牙がポテトを二つに切断する。


「彼女も素直に従っていたら良かったのに。そうしなければ『世界を変えなかった』のに」

「世界を、変えた?」

「そう。僕は世界を変えられるからね」


 ニャーンと鳴いて拍手する。


「僕はメタファーだ。君たちの諦めの形が私。要は倒せないってことさ。スーシャと名付けられ、具現化した私は君たちを機械的に排除する」

「なんで私たちをおそう!」

「順序が違う。ま、幻想使いが来たらしんどいから帰るよ」


 猫は挨拶をして椅子から立ち上がる。瞬きしたら男性の姿はなかった。私は急いで具合悪そうな葵を介抱する。

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