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佐山すずとサバイブ速報

 今日は放課後に集会がある。葵も連れてスーシャの動向を話し合いたいと考えていた。しかし、すぐに始まるわけじゃない。


「ヨークが言ってたよね。まだ使えないって」

「美佳はどうしたんだろ」

「美佳さんは彼氏といるんだって」


 どうやら裏で伝え事をしたらしい。


「ちょっと時間潰そうか」


 四人で下校できない。麻衣は部活のために美術室へ顔を出している。二人で三十分の時間つぶしを見つけたい。


「麻衣のところに顔を出そうか」

「麻衣さんってなんの部活だったっけ」

「美術部」

「ああ。看板を描いたことがきっかけに……、だっけ」

「そうそう」


 美術室は新校舎の3階で非常階段横に設置されている。選択科目の音楽と美術を選び、美術を選んだものや美術部だけが訪れる。なので片付けは疎らで部の特性が出ていた。麻衣曰く、部員はマンガ好きが多くて本格的な人はいない。ただ漫画やアニメの話で盛り上がっていると自慢してきた。


「麻衣さんみたいに、部活へ入ればよかったな」

「今からでも入ればいいじゃん」


 美術室に到着し、扉を2回だけノックする。中から声がして横に動かした。


「麻衣いるー?」

「はいはい。ここにいる」


 机の上で寝転がり、漫画を三冊積んでいた。大股で脱力するからスカートの中が丸見えだ。


「呼び出しがあるまで待ってていい?」

「何時まで?」

「あと20分」

「おっけー」

「ねぇねぇ、沙織」


 背中に指が当てられる。葵は借りてきた猫のように萎縮していた。


「選択科目が音楽なの?」


 来たことがないようだ。私は部活の雰囲気をそれとなく伝えた。


「まあ気楽にやってけや」

「麻衣はぐうたらしてるの?」

「まあ課題終わったしねー」


 顎で指した方を向く。目を細めたら絵が描かれていた。その先にあるりんごを鉛筆で現実的に記してある。


「すごい!」

「お、もっと褒めてよ」


 起き上がり、マンガを閉じた。机から転がり、床に着地する。葵の肩を抱いて先導した。


「~で、〜」

「へー。麻衣さんすごい」


 胸のあたりに焼け付くような痛みがでてくる。服の上から触っても変化なしだ。2人の絡みがハマらないパズルのようで目が泳ぐ。


「これは麻衣さんの努力の結晶だね。私じゃできないよ」

「やらなきゃ分からないって。とりあえずやってみな?」


 葵がペンを受け取らなければいいのに、声が喉までせり上がる。


「こう、するの?」


 麻衣は彼女へ好きに描かせるよう指示している。ペン先に窓越しの風景でも良くて、心に浮かんだ情景を色にしてもいい。自由にさせていた。

 葵は戸惑いながらペンを動かしている。後ろから覗こうと近づいた。


「見ないで」

「えーっ」

「恥ずかしいから」


 ペンを動かす速度が変わってきた。何を描くのか全体的に捉え、本腰に入っていく。邪魔しちゃ悪いかと下がった。


「沙織。お前も暇なら絵でも描けば」

「だるいからやだ」

「じゃあ、漫画読もうぜ」


 鞄からマンガが出てきた。教科書よりも数が多いかもしれない。また、机の定位置に体を戻している。後輩は咎める様子もなく仲間達と親しげだった。


「ねえ、ちょっといいかな」

「はい?」

「麻衣っていつもあんな感じなの?」

「はい。先輩は漫画持ってきたり、ふらっと絵を描いたりしてます」


 また絵は上手いらしく、コンクールにも出たようだ。確かに看板の造形はクラス随一のものだった。


「できた!」


 頑なに葵は絵を見せようとしてくれない。先ずは麻衣に評価をつけてもらった。


「変かな?」

「へー、上手いじゃん。あとはこうをこうして」

「あ、葵」


 後輩達から離れ、携帯画面をサバイブ速報に変えた。


「そろそろ時間だって」

「うん」


 そうして美術室から離れた。絵は麻衣が保管してくれるようだ。空き教室まで階段を下る。



 空き教室に全員集まった。今回は葵も隣で座っている。乗り気ではなかったけど参加させた。


「待ってたよ二人とも」

「これはグループで話したことなんですが」


 スーシャの記事を見つけたことを報告した。そこには指輪のことが書かれているということだ。前のショッピングモールみたいな事件とは別だ。


「サバイブ速報が、悪いんですか」


 佐山は口を挟む。それにヨークは否定した。


「サバイブ速報自体は利益を重視しているサイトだが、指輪のことは分からない。あの記事はスーシャ自体が変異したものだろう」

「あの幽霊が記事を書いたのか?」

「スーシャが記事になった」

「スーシャって何でもありですね」

「要は君たちを混乱させたってことだね」


 その次は桂木が手を挙げ、その腕を佐山に落とす。


「佐山。ここで言うんだ」

「う、うん」


 佐山は携帯を両手で掴み、顔は緊張で強張る。


「ごめんなさい。私がスーシャを配置してました」

「配置?」

「私にメールでスーシャが送られてきます。それをマップ上に配置するのが仕事でした」


 頭が真っ白になった。佐山が黒幕で、私たちは怖い思いをしてきたことになる。ショッピングモールも帰り道でさえ捕獲させられた。なら、何で佐山を早く突き出さない。

 佐山の罠に引っかかってきた。


「佐山さん。どういうことかな」

「五十嵐は怖い顔になっている。深呼吸しろよ」

「佐山さんに聞いてるんだけど?」


 葵が呼ぶ。心が昂って荒れている。


「沙織。話を聞こう」


 ヨークが腕を組み、翔も飛びかかりそうだった。私は怒りで狂いそうになって、自己を追い込むことにする。

 葵の指輪は私が潰した。活用方法が浮かばなかったが言い訳にならない。あの時は最善の行動が取れなかった。佐山が悪いにせよ、私が関わっている。


「ごめん。でも、なんで協力したの」

「私のメールに『サバイブ速報の管理人』なる人からコンタクトが来ました。彼が仕事を手伝って欲しいというから、それで手配しました。それが間違ってるなんてわからなかった。サバイブ速報の記事は何度も救われたから……」


 サバイブ速報に特別な思い入れがある。だからといって危険にさらされたことに変わらない。


「まあ聞け。その佐山がスーシャを配置しないと宣言してくれた。これで邪魔者はいなくなる」

「虫が良すぎるだろうが。俺はそう思うぜ」

「佐山には世話になっている。この桂木唯が監視しておく」

「う、うん」

「そっか」


 翔から話はない。願いのゲージは翔がトップの90ぐらいで、次点で佐山が85だった。私は60まで溜まっている。特別な何かになりたいという具体性にかける願いは継続していた。

 それで集会は終わる。


「葵。佐山が用事あるって」

「私はおっけー」

「五十嵐もついてきてほしい」


 行きたくないけど、断ったら文句言われそうだ。

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