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佐山すずの兄は暴力を振るう

 私は伊藤葵が苦手だ。彼女が容姿端麗で文武両道だから。ニュースの情報元を教えたら睨まれてしまった。私の泣き顔が見られてなかったらいいな。


「大体なんで怒られなくちゃいけないの」


 もう願いを叶えることから脱落した人だ。それのに、沙織という女子と付き合っていたりする。そのぐらい伊藤は人としての魅力が詰まっているかもしれない。よけい僻んでしまう。


「あーもう。忘れよう」


 私は電車の中で携帯を開いた。お気に入り登録からサバイブ速報に移動する。新着記事は二本も追加されていた。先生の手伝いが記事を貯める時間を与えてくれている。

 サバイブ速報のジョークに腹筋を痛め、最寄りの駅に電車が来た。

 すばやく直し、改札口を出ていく。


「わぁーっ。もう外が真っ暗だ。本当に家から学校が遠いなあ」


 私の横を一年生の後輩が寒いねなんて呟きながら帰っていた。同じ学校の制服だから惨めになって「もう寒いな」と独りごちる。寂しくないと言ったら終わりだ。

 そうして、住宅街の中を突き進む。


『都市開発反対ー!』


 隣町が市役所の手により再開発されることになった。道路整備や家の取り壊し、土地の浄化を図っている。見え透いた排除に住民は憤りを感じていた。


「……」


 私はあの怒りに応えないといけない。それは彼らが正しいと思えるから。

 居てもたってもいられず、サバイブ速報を都市再開発計画だけに検索した。


「あ、あの」


 幼い少女が誰かを呼んでいる。返事がなくて可哀想だった。言われた人は答えてあげたらいいのに。


「あ、あの……」


 都市開発の最新記事から目を離す。前に少女が私の前にいる。市営住宅に入った道で、通行人は私以外だとホームレスしかいなかった。


「わ、私?」

「おとしたよ」


 その手には私の定期が握られていた。スカートのポケットをなぞる。枝に引っ掛けたのか穴が空いていた。


「あ、ありがとう」


 まるで向日葵みたいに明るかった。彼女も私が落としたのかわからなかったようだ。


「いえいえ!」


 定期を受け取り、鞄の口を開ける。


「保観高校?」

「よく分かったね」

「お姉ちゃんが通ってるから!」


 しかし、この夕方にひとりで何をしているのだろう。ランドセルを背負っているわけでもないし、両手が泥で汚れている。


「手はどうしたの」

「家の鍵を落としちゃったから探してるの」

「こんな夜遅くに……?」

「ここで落としたはずなのに」


 サバイブ速報で少女が多目的室に追いやられて暴行されたという記事を見たばかりだ。この街の事件じゃないが、治安は良くない。


「お姉ちゃんは帰ってこないの」

「妹を幼稚園に迎えてから」


 太陽は山の向こうに隠れていて、不審者も現れるかもしれない。

 私はインターネットで検索して防衛をすぐ閲覧できるようにした。


「私も探してあげる」


 バス停の後ろは公園があり、柵の間を指で触り続ける。空き缶や捨てられた菓子袋が出てきた。


「ほんと! ありがとー!」


 その娘は自分の家族が四人家族だと教えてくれた。姉と弟がいるらしく、弟は幼稚園に通っているらしい。母親はパートをかけ持ちしていて、あまり家にいないようだ。その中で、彼女の姉が家事洗濯を切り盛りしているらしい。


「私も手伝ってあげてるの」

「優しいね」

「でも、よく怒らせちゃうんだ。今日も鍵をなくしちゃった」

「うん」

「怒られるかな?」


 その時、爪に鉄が当たった。つまんで見ると鍵だ。


「これ?」


 動きが止まり、瞬時にはな咲かせた。


「ありがとう!」

「いえいえ」


 その後、私と彼女は一緒に待つことにした。


「それにしても、お姉さんは家事なんて手伝ったことないな」


 あの家に私の居場所はなかった。家族はご飯だけを用意して話なんて聞かれたこともない。友達もいても誰よりも一人な気がしてしまう。その寂しさは周りに伝染し、不幸の演技と勘違いされていた。だから、伊藤に話しかけられたのは嬉しかったはずだ。でも、利用されるだけの人間だった。


「お姉さん?」

「ああ、ごめん。ボーッとしてた」


 ふと聞き忘れたことを思い出す。


「きみのお姉さんはなんて名前?」


 バス停に停車する。降り口から他人が階段を下っていく。目を動かしながら、少女は懸命に答えた。


「かつらぎ、ゆい。知ってる?」


 桂木唯。

 指輪の所有者で沙織に突っかかっていた人間だ。そして、スーシャを押しかけた被害者だった。幻想使いの横で守られているから手出しできずにいる。横の少女は桂木唯と同棲していた。いや、それよりも重要視することがある。

 彼女が私の生活に生息している。


「あれ。あなた確か……」


 リア充に睨まれてしまった。私の学校生活も終了だ。これから逃げ出して、そして忘れてしまおう。


「こ、この娘をあまり怒らないであげてください! 無くしものなら私も探します! 私の定期を拾ってくれた子なんです! それじゃ!」


 叫んで逃げた。

 そのまま私の家に帰っていく。エレベーターに乗り、鍵を回し、中に入っていく。


「うるせえんだよボケ!」


 ひきこもりの兄貴が閉じこもった部屋でドアを蹴る。その音に負けないぐらい扉を強く閉じた。


「もうスーシャを送れない……」


 サバイブ速報を裏切ることになる。そんなことよりも、学校に居場所がなくなってしまった。桂木さんの娘を誘拐したと間違われたはずだ。


「おい、うるせえんだよ」


 兄が扉を開いていた。目は充血し、髪の毛にフケが溜まっている。


「なんで入ってきてるの?」


 怯える私を見透かしたように、頬を殴られる。


「うるさいのが悪い。死ね」


 消えてなくなりたい。

 散々な1日だった。

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