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握られた手はなかなか離れない



貰ったチョコレートはポケットで、今度はわたしの熱によって溶かされてハートは歪んでしまった。



チョコレートを貰った後、お嬢さんがこんな時間に危ないだなんだと押し切られ、ステファニーというおじさんとナオという男が最寄駅まで送ってくれることになった。

「よければ、なんだけど…名前きいてもいいかしら?

あっわたしはステファニー❤︎

それでこっちはナオちゃん、あなたと同い年くらいじゃないかしら」

そういうとわたしと真反対にいるナオという男に目配せしてニコニコしている。

気まずい空気を吹き飛ばす、隙のない会話にわたしは圧倒されていた。

「あー…俺ナオ。

もうすぐハタチの大学生。

お前は?」

渋々といった感じで自己紹介をしてわたしに話を振ってくる。

ここで安易に個人情報を出すのは今のご時世よくないが、人の良さそうなステファニーに嘘をつくのも無視するのも気が引けてしまう。

「わたしは…オミって呼ばれることが多いかな。

高校生だから、ナオ、さんよりは歳下、ですね。」

「あらそう!!

華のJK!!…って古いかしら」

親しみやすい彼らの雰囲気に敬語ともタメ語とも言い切れない歯切れの悪い返答をしてみると、テヘッという効果音が出そうな顔でちょけた発言がすぐに帰って来た。


「おい、ステフ。

この時代あんま人のプライバシーに踏み込まない方がいいぞ。

オミも困ってっし。」

オミって。

あなたは人のことすぐに呼び捨てにしない方がいいぞ…とは言えないけど。

すぐに呼び捨てにすることに、同じ人種なのかとすら思ってしまうほどの人間性の距離を感じる。


こんな人達と話したいこともないし、本当に信頼できる人達かもわからないし、駅まであと何分くらいかなぁとか土日開けたらどう過ごそうかなぁとか夜空を見上げながらまたボーっと考えていると、

「ねえ、もう眠い?

もうこんな夜中だものね」

淑やかにステファニーさんが問うてくる。

そう言われれば、眠くなってくる。

今日色々あったしな…。

スマホのボタンを押すともうすぐ1時だった。

「あーほんとだ。

眠いかもしれません。」

素直に答える。

「じゃあ手を引いてあげる。

目を瞑っていてもいいわよ」

なんという提案。

初対面の人、しかもこんな素性どころか性別もわかんないような人に任せるなんて…。


しかし、わたしは自然と手を差し出して瞼を閉じていた。


危なくないようにか、わたしの右手にいた二人はわたしを挟む形で手を握りゆっくり歩いてくれる。

なんというか、とても甘やかされているような空気がわたしに染み込んできて、とても心地が良かった。

今の自分に似たもの、甘い卵液がひったひたのフレンチトーストを思い出し、考えが飛ぶ。

今の自分のようだなぁ。確か材料お家に有るから明日作ろうかなぁ。コンビニで帰り食パンを買おう。


「オミちゃん。

もうつくわよ、駅。」

右側から優しい声で知らされたとき、瞼が明るくなっているのを感じた。

ゆっくり目を開けると、各々わたしの手を握ったステファニーさんとナオさんが灯りに照らされ露わになる。



明るいところで見たステファニーさんは勿論驚きのスカート姿で、ガタイが良くて思ったより色白で、問題のつっかけは花が咲いていて片方の側面が半分取れて浮いてしまっていた。

ナオさんはガリヒョロでステファニーさんより少し背が高くて瞳が薄く見えた。


「おい」

薄い瞳のナオさんがぶっきらぼうに声をかけてくる。

「あっありがとうございました!!」

思わず大きい声で答えると

「オミちゃん、ここからお家近い?

明るいところ通って帰れるかしら」

「なーだからプライバシー…」

「だってぇ危ないじゃない」

二人が言い合いを始めそうだったので

「大丈夫です!

おかげさまで道も分かったし、すぐ帰れますから!」

「そーお?

なら大丈夫ねっ」

ニコニコしながら、ステファニーさんは手をまたギュッと握った。

不思議と嫌悪感も不安もなかった。

左手もまだナオさんによって添えるように優しく握られている。


不思議な気持ちでじっと手を見ていると、右手がギュッと両手に挟まれて

「じゃあ、気をつけてね。

オミちゃん!」

名残惜しそうに両手がすっと涼しくなった。

「ありがとうございます!!」

わたしは来た方向とは違う方に歩き出した。


離した手はずっと握られていたからかまだ感触が残っていて少し寂しく、わたしはその両手をギュッと一人握ってコンビニへ歩きだした。

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