ぼっち
まず、わたしには友達がいない。
厳密に言えば友達という存在はいるが、上っ面のうすーいペラペラな繋がりがあるだけで心を許しあうような心の友はいない。
家族の仲も冷え切っており、仮面家族とでもいうのだろうか。
多少小金持ちの家である共働きの父母は別の家を持ち、わたしは母の家でのすれ違い生活でほぼ一人で暮らしていたし、愛情や人との関わりの大切さなんて必要の仕方すら分からなかった。
ずっと、ずっと、そうだった。
だから心から友達が欲しいなどと思ったこともないし、人生こんなものだと考えて暮らしてきた。
わたしはどこにでもあるような女子6人グループ、通称ピンキーズ(入学式のとき同中の二人と四人が出会い、その時みんなピンクの携帯を持っているピンク好きだったことから、というつまらない理由だ)に所属しており、誰かがあるキャラクターにハマっているといえば仲間内でお揃いのキーホルダーを買ってカバンにつけたし、授業の合間どんなに眠くて微睡みたい気持ちでいたとしても友達のトイレにつていきリップや髪型を直した。
友達の何人かが彼氏を作れば自分も言い寄ってきた男の一人と付き合って恋バナをしたりもしたし、休みの日は友達とカラオケして、彼氏とデートして、高2からは友達と同じファストフード店でアルバイトを始めて、ぎっしりのスケジュールの中。
突然ハブられた。
彼女達曰くどうやらわたしには人の心が感じられないようで、一緒にいてもつまらないのだという。
彼氏もその中の一人に寝取られ振られてしまい、わたしはついに本当のひとりぼっちになってしまった。
落ち込むというより、これから生きづらくなるなーと夜道をぼんやりアメリカンドッグを食べながらダラダラ歩く。
元々何も持っていなかったくせに。
掌にずっと持っていたずしりとしたものを失ったような、心許なさを感じていると知らない公園に着いていた。
低くて膝が90°以下になってしまうブランコに座ってゆらゆらしていると、人の声が近づいてくる。
「もうナオちゃんたら、またこんな時間にこんなもの買って!」
ガサガサ
「るせーな。夜中の唐揚げってなんか食いたくなんだよ。ステフこそ外に出るときくらいその壊れたつっかけ履くなってば。」
「あ」
どさっ
目の前に現れた大きな影の一つがわたしの右斜め前から実態をあらわした。
「ほれ、いったろ。」
きー
ブランコの軋んだ音で膝をついた人物はばっとこちらを見る。
「やだ」
一言言って立ち上がった赤面するのは、180センチはあろうかという膝丈スカートのおじさんだった。
『あ…』
わたしの中に大丈夫か聞くべきかという常識的私と、変態なのではないかと焦るこれまた常識的私が戦っており、一文字しか口にすることはできなかった。
すると
「…やだー!!!恥ずかしい!
ごめんなさいねー見苦しいところお見せしちゃって。きゃっ。」
キャピキャピしたおじさんがくねくねしている。
それでもぽかーんと口を開けていると、横にいたこれまた長身の男が笑っている。
「ほらステファニーのキャラの強さに口開いちゃってんじゃん。」
「あっあのね、なんともないから!変質者でもないし、だっ大丈夫よ!」
わたわたするところと自ら〝変質者〟という言葉を出すところがまた怪しさを際立たせる。
「わたしね、ステファニー。
履いてたつっかけのデザインが気に入ってたんだけど、ちょっと壊れちゃって転んじゃったみたい。
お嬢さんはチョコレート、お好き?」
そう言ってつけているエプロンのポケットから何とも可愛らしいハートのチョコレートを差し出す。
『あ、はい…』
差し出されたチョコレートを受け取ると、生暖かい。
少し柔らかくなったそれをギュッと握ると、ステファニーと名乗る青髭の残る男はニコッと微笑んだ。