表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バイク夜想  作者: ケイオス
8/21

8話 二輪駆動・2WD『ドサンコ』 3話

 このお話の連載終了。

 やっと終わった……

 そう飛ばして走らなくても、動力付きの乗り物は人の能力を超える。

 彼女の走るペースで先行させて、俺が後ろから付いて行く。

 林道の入り口までソコソコの距離は有ったが、バイクで走れば楽にたどり着いた俺達だった。


 林道の入り口の茂みの手前、バイクを止め、メットを被ったままの彼女が、俺へとジト眼で目線を合わせてボソッと言った。

「お尻、ジッと見てたでしょ」

 言われてしまった。

「あ、う、スマン、見てた」

 素直に謝る俺だった。

 どうも男の視線ってヤツは、女に取って物理的に把握出来るモノらしい。

 コレ、後で分かったのだが、バックミラーにメットの中の俺の視線がバッチリ写っていたらしい……


「しかたないか」

 彼女は怒るでも無く、俺へとカラッと微笑んでいた。

「あ、うむぅ、イイ女は大変だな」

 つい言ってしまった俺だった。

 イイ女ほど男の視線に晒されるはずだ、ソレって物凄くウザったいのは男の俺でも想像出来る。

 本人がソノ気が無いのに、男達が群がって来るのは、いちいち処理と対処にウンザリするはずだ。

 第一、最悪、身の危険さえ有り得る。

 女ってのは大変だ。


 俺がそう言った言葉に、彼女が瞬間ポカンとした顔になった。

 そして何だか、見る間に赤く為って怒った様な顔になり、クルリと俺へと背を向けた。


 マズイ事を俺は言っただろうか?

 当たり前に本当の事を言っただけなんだが……

「ずるい」

 小声で聞こえた言葉は、何がズルイかなんて俺には分からない。

 女ってヤツを男が本当に理解出来るはずなんて無い、とにかく触らぬ神にタタリ無しだ。


 俺は黙り込んでしまった彼女をどうしてイイか分からずに、とにかく道路へと出るためゲートへと向かった。




「ココの鍵、持ってるんだ」

 ゲートのゴツイ南京錠を外す俺に、彼女が驚いた様に言う。

「ああ、爺ちゃんのゲートだからな、鍵は貰ってる」

 俺はゲートを開けながら言った。

 俺のソノ言葉に彼女が驚いた顔をした。


「山林原野なんて二束三文だぞ」

「でも木材とか取れるんでしょ?」

「売りモノになるまでの育てる人件費と費用、伐採・運搬・製材、それに伐採後の植樹で、マトモニ計算したら利益なんて無いぞ」

「そうなんだ……」

「特に、この山は畑にして無いからなあぁ」

「???」


 俺はバイクを道路へと押し動かしながら、チコっと説明を始めた。

「森って良く言うけれど、アレってな、山に有る木の畑だ」

 平地だと、木を植えるよりも普通の農業産物の方が利益が大きい。

 なので木は山へと植えて育てる。

 普通の山は、山に有る人工的な木の畑、森と呼ぶ自然の生態系の有る代物じゃない。


 木とは言え、畑なので人の手間が必要になる。

 間伐、枝払い、下草刈り、それらを何十年も延々と続けて、初めて売り物に為る木が出来上がる。

 切り倒した後だって、まだまだ仕事が有る。

 それは植樹だ。

 コイツが意外とバカにならない金が掛かると爺ちゃんが言っていた。

 それにだ、植樹した苗木には天敵が居る。

 現代日本、天敵の居ない鹿だったりする。

 アイツラ、苗木を食うんだっ。

 鹿、鹿肉になれっ。鹿ってのは本当に始末の悪いヤツラだった。


「商業植物の木の畑って、山の生き物に取っては砂漠みたいな場所なのかも知れないな」

 事実、キャンプ場とかで、鳥の鳴き声とかが聞こえないのは、命を支える生態系が無いからなんだ。

「あーー なるほど」

 言われてみればと、彼女が、今までと違ったモノの見え方に驚いていた。


 あの祠の有る山だけは、家の祖先代々、植林をせずに自然に任せている。

 何でも色々とイワクが有るらしく、手を付けてはダメなのだそうだ。

 ただし倒木しそうな木だけは安全のため、切り倒しているらしいけれど。

 そのイワクってのを訊いたのだが、時が来ないとダメだと言われた。

 時ねぇ?




 アスファルト道路から、入り口のゲート前の、僅かな広さに二人のバイクを止めた。

 彼女のバイクを動かせたので、迎えが来る時間まで余裕が有り過ぎだった。

 待つ間、二人して地面へと尻を落し、並んで座っている俺達だった。


「付き合わせてゴメンネ」

 彼女が革パンツの両足を揃えて言う。

「こんな所に、動かないバイクと女一人。放置して何か有ったら酒が不味くなる、酒のためだから気にしなくていいぞ」

 俺はアグラ座りで、気にするなと言った。



 で、…………

 間が持たにゃい。

 美人とこんな風に、二人並んで座ってるなんて、人生で初めてじゃないだろうか?

 俺は確認の為に、たいした事の無い今までの人生を振り返っていた。


 ああ、そう言ゃあ、女の集団に取り囲まれて、殺されると思った事は有ったな。

 悪友に付いて来いと言われて、ナンダ・ナンダと思ったら、女子更衣室を覗く共犯が欲しいいって騙されたヤツだ。

 でもナゼか俺は解放されて、アイツだけが半殺しになってたっけ。

「アンタが自分から、こーゆー事するはず無いモノねぇ、コノ馬鹿に騙されたんでしょ」

 ガキの頃からの知り合いのヤツに言われた。

 他の女達も、うんうん頷いていたっけ、妙な所だけは信頼が有った俺だった。

 日頃の行いだな、うんうん。

 てか、たぶん、俺って人間を完全把握されて居た様な気がする……

 女、恐ろしや。

 美人は怖い。

 まったくモテ無いのは、有る意味、安心だな。

 哀しいけれど……

 でも覗き見た女達は綺麗だったな。

 女ってのは男とは違う生き物で、その生き物としての美が有るよなあぁ。


 ――と、気が付くと、彼女の顔が、腕組み回想している俺の顔を、間近で覗き込んでいた。

「うお」

 びっくりした。


「ナニを考えて居たのか当てましょうか」

 彼女がニヤリと笑い言った。

 ヤバイ、コレはヤバイ、美人がこーゆー笑いをしたらロクな事が起きないっ。


「男の頭の中はベッドの下と同じだ、情けだ、見て見ないフリで詮索しないでくれ」

 俺はプライド(元々無いっ)もナニもかも捨てて、懇願した。

 そんな俺の姿に彼女が、ププッと笑う、笑うと美人から可愛いになるな。


「大抵の男ってイヤラシイ眼で見るのだけれど、貴方の場合はスケベだけれどイヤラシイは無いわね」

 うむむむむ、男って99%はスケベだぞ。

 男がスケベで無いと人類は滅亡するぞ。

 でもって男よりも女の方がスケベって言う……


 バイクで走っていない時のライディング・ファッションは暑い。

 なので彼女もジャケットの前ファスナーを開けていた。

 胸、デカイ。

 中身、バイク用のプロテクターシャツだが、その盛り上がりが凄い。

 思わず視線が行ってしまった俺だった。


 ――で、気が付けば、俺は彼女のオッパイへと拍手を打って、拝んでいた。


「…………」

「あ゛っ」

「私、胸を拝まれたの生まれて初めて……」

「うむむむ、つい――……」


 彼女がジャケットの開いていた前を合わせて赤くなっていた。

 でも、その表情はイヤがっているとか、険悪感は無かった。

 そんな俺達の前に一台の軽トラが止まった。




「お邪魔だったかな」

 バイクショップの名前がペイントされている軽トラから、降りてきたオバサン、うお、女かっ、が言った。

 作業服の上下とワークブーツ、頭のキャップとサングラス。

 決まってるっ、カッコイイ。

 歳は歳だが、美人で胸もデカイ、てか、スタイル良過ぎる。


「遅いーーーっ」

 彼女が立ち上がりながら、軽トラのオバサンへと言った。

「遅くて良かったんじゃないか?」

 遅いって事は無いな、だいたいの時間にはピッタリだと思う。

 彼女がオバサンのその言葉に黙って赤くなっていた。

 女同士の会話は、良く分からない会話だ。

 男が割り込んではダメな会話だ。

 触らぬ神にタタリ無しっ。


 しかし、そのオバサンが彼女と会話しながら、サングラス越しに俺を上から下から、満遍なく見られたのは気のせいだろうか?

 オバサンが満足した様に、ニヤリと笑ったのは幻だったのだろうか?

 俺は、背筋に妙な寒気を感じてしまった。

 季節は寒くないのに……


 俺はオバサンの指示通りに、軽トラに彼女のバイクを押し上げ積んだ。


「じゃ、任せる、頼んだぞ、躊躇(ちゅうちょ)も遠慮もいらないからな、ドンと行けドンと」

 軽トラの運転席でオバサンが俺に、片手握りこぶしの親指一本起てで、ニカッと笑い言った。

「???」

 そして、疑問顔の俺を残し、彼女のバイクを積んだ軽トラが走り去って行った。

 ふぅ、これで終わったか――

 か――

 …………

 て、何でオマエ居るんだっ?!

 軽トラは走り去ったが、彼女が残っていた。

 ウソっ。



「お母さんに置いていかれた、乗せてくれなかった」

 彼女が恨めしそうな顔で言っていた。

 うほーーーーーーっ、母親だったのかいぃーーーーーーっっっっ。

 言われてみれば、確かに似てたっ。


「だから乗せてね」

 合わせた両手の平を頬に当てて、可愛い子ブリっ子した彼女が俺に言っていた。

 俺より背丈の有る女に、ブリッコされても……

 ギラリと彼女の眼が光った。

「お、おうぅ、地の果てまでも走るぜっ」

 拒否なんぞ出来ない俺だった。


 で――

 俺は、またまた、彼女を後ろに乗せて、ピッタリくっ付かれて走る事に為ったのだった。

 まあ、役得と言えば役得か。

 だから、その両手、俺の身体、筋肉をマサグル様に動かすのは止めてくれ、お願い。

 修行の様な走りだった。




 街中へと走り、後ろの彼女の指示で道を行く。

 バイクを止め、やっと辿り着いたのは小奇麗なアパートだった。

 ああ、これで終りか、終りだな、終わったか。

 ホッとするのと同時に、俺は何だか名残惜しかった。


 そんな俺に――

「お茶くらいは出すわよ、休むのに上がっていかない」

 バイクから降りてメットを取った彼女が、何だかモジモジしながら言った。


 お・ん・な、にぃ、誘われた。

 バイクに跨ったまま――

 思考停止した俺。

 固まって居る俺。

「来るわよね」

 そんな俺に、妙な、拒否しがたい静かな迫力で言う彼女。

 気がつくと、彼女に片手をガッチリ取られて、歩いている俺だった。


 バタンと扉の閉まる音がした――……

 カチリとロックの掛かる音がした――……



 その日、俺は外泊をした。

 彼女がダニに食われていないか、色々と確かめてしまった俺だった。


 コレが俺に生涯の女が出来た顛末で、山のあの祠の、時が来た時に教えて貰える由来だった。


 今度、山の祠に、二人でちゃんとしたお供えを持って行こう。

 決心した俺だった。


 ああ、そうだ、また「オシッコ」なんて言わないよな?

 二輪駆動の、このバイク。

 たぶん400CC並みの価格になると思う。


 電動モーターは回転が低くても、最初から最大トルクで動くそうな。

 そこへCPU制御の動き方をするっ。


 色々と課題がクリアされれば、二駆のバイクって、二輪の走りの世界を変えるな、きっと。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ