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バイク夜想  作者: ケイオス
7/21

7話 二輪駆動・2WD『ドサンコ』 2話

「うわあぁ」

 二人乗りから降りて、メットを取った女が周りを見渡し、感嘆の声を上げて居た。


 郊外の里山的なこの山だが、周りの山並みも似たようなモノで、本当に高い山は彼方に有る。

 それでも見渡せば十分に視界は広く、景色も中々なモノだ。


 視界の片側には、山間に地方都市の風景が広がっている。

 背後の側は、山並みが深く続く。

 片側は谷間的な農耕地と、そこをウネリ続く川とアスファルトの生活道路が見える。

 もう片側は普通に山並みだ。


 この里山程度の山の頂上でも、見渡す空は高く続き、平地での空とは別物の風景が有る。

 そして、この頂上のちょっとした広場の真ん中に生えている、大樹が一本。

 TVのCMじゃ無いが、広々と枝葉を広げて葉音をさせている。

 ここが俺の秘密の場所だ。




 俺はうわうわ言っている女を放置して、メットを外しながら大樹の方へと歩いて行った。

 ド太い根元からの幹の大樹、その傍らにちっちゃな(ほこら)が有る。

 人が両腕で抱え込める程度の大きさだが、作りはシッカリしていて、この木の下に有るからなのか風雨からも護られて、痛んでもいず綺麗な姿をしている。


 その祠の前で、頭を下げて両手を合わせる。

 今日のお供えは予定外だったので、ポケットの中の飴ちゃんだけだ。

 レモン味を三つほど置いて、もう一度、両手を合わせて頭を下げた。


 と、斜め後ろに気配がして女が居た。

 振り向いた俺は、女が俺と同じ様に両手を合わせて頭を下げている姿を見た。

 ちょっと予想外、驚く俺だった。


 俺よりも高い背丈で目を閉じて居る女。

 美人だ。

 白い肌にクッキリと黒く、形のイイ眉と長いまつ毛。

 スッと綺麗な可愛い鼻、赤い唇がふっくらとしている。

 思わず見惚れちまった俺だった。


 その静かに佇んでいた美人の両目が開き、瞳が動き、俺と目が合った。

 あ゛っ、ヤバイ。

 俺の頭の中で警報が鳴り響き、ウロタエ気味に逃げ腰になった。


 だが、そんな俺へと。

「ありがとう、かな?」

 美人が何だか怒った様にテレて、頬を薄っすらと紅くしながら、俺へと言った。

「お、おう、あ―― 飴食うか?」

 祠へとお供えした飴を拝借、二人で舐める俺達だった。




 女はスマホで連絡を取り終わり、胸の谷間、モトイ、ジャケットの内ポケットへと仕舞った。

「迎えに来てくれるけど、場所が分からないから、道路の方に出て居てくれって言われたわ」

 溜め息混じりに女が言った。

 すれ違い防止、こちらの移動時間も考えて、二時間後くらいに来るそうだ。

 俺は腕時計で時間を確かめ考えた。

 女のバイクを入り口まで移動させるか、迎えの車を入り口から入れるかだな……


「連絡取ったバイク屋の軽トラは四駆か?」

 俺は確認の為に聞いた。

 ただの後輪駆動だとあの入り口はツライし、軽トラの後輪駆動ってのは走破力は無いに等しい。

「えっと、たぶん」

 たぶんか……

「まずは降りるか、とにかくアンタのバイクの所まで戻ろう」

 クラッチレバーが折れていても、手が無い訳じゃない。

 公道走行は無理でも、入り口までなら何とかなるだろう。



 俺がそう言って行動を始めようとしたのだが――

「オシッコ」

 女が一言。

 時間と世界が止まった。


 見つめ合う俺達。

 耳まで赤くなって俯き、上目視線でモジモジしている女。

 俺は思考停止で固まって居た。


「だってっ、近寄るなって言って離れても、分かっちゃうでしょっ」

 ピッチリ革ズボンの女が怒った様に言う。

 足が長くてスタイルええな、そう想ったバカな俺。

「あ、ああ、ああ、うん、我慢は身体にイク無いな。女は身体を冷さない方がイイ」

 そのバカな俺は、バカを重ねて言っていた。


「しゃがむ場所の草を踏み固める事、肌に草をくっ付けない事」

「???」

「草にダニが居て食われるぞ、俺はソレで腹に食い込まれた」

「!!!」

「帰ったら、服と身体、一通りチェックした方がいい。食い込まれても痛く無いから気がつかないんだ」

「ひぃーーーーーーっっっ」


 てなアウトドアのノウハウの後、どうしたか?

 ブオオオオオォォォォォーーーーーーーーーォォォォォ

 俺の愛車の排気音が威勢良く、盛大に、山のテッペンで鳴り響いていた。

 女が離れた茂みへと、その方向へと背を向けて、俺は愛車のアクセルを大開度で固定していた。


 見てはならぬ。

 見たら死ぬ、イヤ、殺される。

 俺は殺されてもイイが、巨乳美人を殺人者にしてはダメだ。

 人類の損失になる。

 人類の損失を作ったら、一生言われる。

 オシッコ覗いて殺された男。

 ソレはイヤだ。

 だいたい、これだけ離れていたら見えないだろうぅ。

 ナニが?

 まぁナニだ。

 ナニナニのナニだ。

 ナニがあぁ♪ ナニしてえぇ♪ なんとやらあぁぁぁ♪

 ああ、空が蒼く高いぜ……


 ブオオオオオォォォォォーーーーーーーーーォォォォォ

 バイクの排気音が天高く昇ってるうぅ。

 イイ天気だ。


 後ろを向いて居た俺の、ライディング・ジャケットがツンツンと引張られて我に返った。

 振り向いた俺に、女が物凄く恥ずかしそうにしながら、終わったと頷いていた。

 最中に、覗き振り向かなかった、俺、偉いっ。

 バイクのアクセルを戻し、アイドルにして俺は自分を褒めた。




「こっちじゃ無いの?」

 俺の身体にくっ付いて居る女が、片腕を伸ばして、登って来た方を差してメット越しに大声で言った。

「そっちは登り用だ、別口の降りる用が有るっ」

 俺もメット越しに大声で答え言った。

 トロトロと走り始めの、メット越しの会話だった。


「舌、噛むなよっ」

 年季の入った石段の階段、ゴツイ作りの石階段、傾斜のキツイ、延々と続く細い下り道だった。

 ダン、ダン、ダン、ダン

 二人乗りのバイクのRタイヤが一段毎に、落ちて跳ねる。

「お尻、痛いーーーっ」

 女が金属製の荷台キャリアで叫んでいる。


 結構、真ん丸なイイ尻をしていても、やっぱり痛いか。

 となると――

「しがみ付いて動きに合わせろっ」

 ハンドルの両腕を曲げ伸ばし、シートから腰を浮かせて中腰になった俺は、後ろの女へと大声で言った。

 その俺の指示に、女が両腕で身体を俺にピッタリと着けてしがみ付いた。

 オフロード・バイクに乗って居るだけ有って、この辺のセオリーを心得ているのは有り難い。

 二人揃って、両足を緩衝動作にして降り続けた。


 しかし、巨乳オッパイはやあらかい。

 しがみ付く女体はクルっ。

 精神統一、集中だっ。

 そして、俺の一生のメモリーに刻もう。

 でっ集中だっ、これでコケたら、見っとも無さ過ぎるうぅぅぅぅ。


 俺は修行の如く、愛車を操り降り続けたのだった。

 こんな経験をする日が来るとは……

 人生も捨てたモノぢゃない。




 何だかんだと二人乗りを楽しんで、女のバイクの所へと辿り着き、エンジンを止めた。

 エンジンを止める時、ちょっと、かなり、残念だったが、これ以上はヤバイ気がしてホッとしたのも、男の秘密で事実だった。


 女が肩を落として自分のバイクの前に立って居る。

「オフロード・バイクの宿命だ。仕方ないさ」

 俺もバイクに乗り始めた頃、オフロードでコケて、コケ捲くり、コケた回数は数知れない。

「うん」

 女は頷いて、自分のバイクのタンクを触っていた。


「ああ、でもな、ああ言う走りをするなら、一人で来てはダメだと思うぞ」

 一人で来て派手にコケて怪我をした時、動けなくなる事だって考えられる。

 いくらスマホとかが有っても、林道は繋がらない場所も有る。

 第一、コケた時にスマホをぶっ壊す事だって有り得るんだ。

「うん、初めてのコースを知らない道を甘く見てたわ」

 つまり知ってる道なら大丈夫だと思ってるって事か……

 こう言う時、どう言えばいいのか?

 事故やコケるってのは、どんなに気を付けていても向こうからやって来る。

 一人で走り回る俺が言っても説得力は無いか――



「入り口まで結構有るわね」

 女がそう言ってバイクを自分で押そうとした。

「ああ、ちょい待ち。エンジンを掛けて走れるのを、たぶん出来ると思う」

 俺は折れ残ったクラッチ・レバーへと小細工を始めた。


 バイクの車載工具を出して、折れ残ったレバーとクラッチケーブルをホルダーから外す。

 外したレバー基部に再びクラッチケーブルをセットして、外れない様にビニールテープでグルグル巻きにした。

 さらにクラッチ・ケーブルがブラブラしない様に、ハンドルへとテープで巻き付け固定する。

 そして俺は片手でハンドルのケーブル側を握り締め押さえ、もう片手で折れたレバーを馬鹿力で引張って、女へと見せた。


「そんな方法が有ったんだ……」

 女が感心した顔で俺を見る。

「これで一応クラッチは切れるからニュートラからローに入れても大丈夫だ。

 走り出す時はタイミングを合わせて俺が操作する。

 ただしコレで公道をギア・チェンジは、乗りながらじゃまず無理だ」

 だがバイクの常時噛み合い式のミッションなら、シフトアップはクラッチ無しでも出来るはずだ。

「シフト・アップは何とかなるわね」

 そう、バイクの場合、アクセルをひと吹かしした後に、即戻し、そのタイミングで変速、クラッチ無しでも上のギヤには入れられる。


「基本、二速くらいでゆっくり走ればいい。止まる時はキル・スイッチでエンジンを切る」

「うん」

 俺の言葉に、女が素直に頷く。

 美人で巨乳、走りも凄そうで理解も早い、イイ女だ。

 メットを被り直し、彼女がバイクに跨った。

 よし、なら始めるか。




 サイドスタンドを立てたバイクの上で、彼女がハンドルに両手、キックペダルへと片足を掛けた。

 女にしては高い身長、ふわっとしたライダース・ジャケットを内側から盛り上げている胸、ピタッとした黒の革パンツ、長い手足。

 カッコイイなあぁ、イイ女ってのは本当に存在するモノなんだなあぁ、世界は広かったか。

 そんな風にそっと見惚れる俺の目の前で、彼女が全身でキックペダルを踏み抜いた。

 パンッ、パッパッパッ、パアァァァ。

 一発で掛けやがった、さすがだ。


 ハイパワーの2スト・オフロード・エンジンってヤツは、馴れていない人間だと結構手こずる。

 掛からないからと言って、何度もキックを繰り返すとプラグがガソリンでベシャベシャに濡れて、返って掛かりにくくなる。

 そう言う時は、アクセルを全開位置で掛けるとアッサリと掛かける事が出来るんだが、そのアドバイスの出番はなかったな。



 彼女がサイドスタンドを跳ね上げて、シフトペダルへと片足を掛けて俺の方を見た。

 俺は折れたレバーを引張ってクラッチを切って保持する。

 彼女がペダルを踏み込みカコンとギアをローへ入れた。


「3・2・1、ゴーーーッ」

 大声を上げた俺は、打ち合わせ通りに引張っていたレバーをゆっくり戻し、クラッチを繋ぐ。

 彼女は上半身を前へと倒し気味にして、やや開け気味のアクセルから、そこからタイミングを合わせて更に開けた。

 バイクが問題なく走り出し、俺は素早く両手を離した。

 一速で走る彼女の背中が、2ストのエンジン音と共に遠ざかって行った。


 よしっ。

 俺は自分のバイクへと跨り、セルスイッチを押す。

 そう俺のこのバイクはセル始動だったりする。

 メーカーによると、キック始動だとエンジンに剛性とかが必要&キック起動のパーツを考えると、実はセルの方が軽く作れるのだそうだ。

 始動儀式としてのキックはカッコイイが、セルの方が楽なのは楽だ。

 経験者なら分かるだろうが、コケて、足場の悪いところでキックしろってのはシンドイ部分が有る。

 特に、俺みたいな足の短い人間には……



 走り出した俺は、追い付こうと無理をしないで、何時も通りの走りだ。

 この林道への入り口方向へと向かい、幾つかのカーブを抜けて行った。

 そしてカーブをさらにひとつ、曲がった向こうに、トロトロと走って俺を待っている彼女の姿が見えた。


 バイクのシートの上の、黒の革パンツの尻がイイ感じで、視線を引き寄せられてしまった俺だった。

 この場合、スターリング・エンジンで、どれだけ発電出来るかは不明^^;

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