昔々の某バイク乗りの体験談だぜ
注)スマホも携帯も無かった時代のお話。
夏の暑さが『全開真っ盛り』のド昼間だった。
焼けたアスファルトの上で、行き成りバイクのエンジンが止まった。
俺は慌てて路肩へと惰性で走り寄せてブレーキを掛けた。
何度かセルモーターを動かしてみる、スンともカンとも爆発の手ごたえが無い。
無い。
イヤな予感の元、格闘が始まった。
バイクに跨ったまま車体を揺すって確認、タンク内の手?ごたえ、貧乏お財布だがガソリンはタップリ入れて有る。
バイクから降り、メインスタンドを立て、ザッと外観から確認、見た目の異常は無い。
さて、と為ると……。
キャブのドレンボルトを開け――、イヤ、2気筒が同時ストップならキャブぢゃ無い。
エンジンの力が無いとかの不調ではなく、ピッタリ・パッタリ・完ストップだ。
空冷エンジンでオーバーヒートなんぞ、さっきまでの走りの状況下では有り得ない。
エンジン・オイルは日頃の点検、レベルきっちり有る。
となると~~~~~~。
電気系かっ???
俺は車載工具を使ってプラグをエンジンから外し、プラグキャップに再セット、その状態でセルを回した。
火花が出ない。
出やがらにゃい。
出なかった。
出てくれない。
出ないぞこんちくしょう~~~~~~っ。
出て下さいお願いします。
ヘルメットを取り、ライディング・ジャケットも脱ぎ、Tシャツ一枚の汗滲み。
ギラギラの太陽の下、ガックリとうな垂れる俺だった。
自分のボロアパートは既に遠ひ。
馴染みのバイク屋は、遠いと言えば遠い。
電話の有る所――。
スタンド、公衆電話、電話を借りれそうな店舗、モロモロ、遠い。
街中バスレとは言え、実に絶妙な場所の位置で動かなく為ったバイク。
押すしかなかった。
世慣れた人間なら、その辺の民家・業務な建物へと事情を話し、電話を借りてバイク屋へ連絡、てのが出来るんだろう。
だが俺には出来なかった。
シャイでウブだから~。
…………。
「そーゆー事がぁ、ふつーにぃ出来る人間ならぁ、バイクなんぞに乗ってねぇっ」
バイクを押しながら、誰に言うでも無くつぶやく俺だった。
バイクを押し始めて即、汗が噴出す。
バイクを押し続けて絶え間なく、汗が流れ続ける。
ギンギラギンの頭上太陽な炎天下。
ヤバイほどの気温で風無し無風。
頭の中が思考停止で修行僧じみていた。
「自販機も無いか……」
安全・名だたる日本、どこにでも有るはずの自動販売機が無い。
改めて見渡し見通す路上、見当たらない。
顔の流れる汗がしょっぱかった。
「中古か、掘り出し物モデルに飛び付いたのがヤバかったか?」
自覚、考えられなくなった頭で、自分の中、つぶやく。
「安かったんだよなあぁ……」
普通なら有り得ない売り出し価格だった。
ナニか有ると思うべきだったかも、と、後悔。
そんな、こんな、俺はバイクを汗だくで押し続けた。
ナニが何だか、訳分からなく為ってしまっていた、そんな時間の頃だった――。
自分の右側にナニか、何かが立ち止まるようにスローで歩みを合わせて、並走した。
汗だくオボロでソレに気がついた俺。
顔を右へと向けた。
動かした顔に、流れ伝う汗が唇に塩っぱかった。
俺の汗だらけなチラリと横目と、スルスルと下げられる四輪のサイド・ウィンドゥ。
助手席に乗っている女の子の向こうからの、俺の方へと顔を向けた運転ドライバーからだった。
「お前、何してんだ~!」
笑い半分で、それもアザケが入った、獲物へと投げ付けられるような声かけ。
――だが、俺には何一つ引っ掛からなかった。
無視していたんじゃ無い、雑踏の無意味なモロモロの音と同じ、意味が無かったからだ。
俺は今までと同じに、ただひたすらバイクを延々と押し続けていた。
そんな俺へと――。
「おい、そこのバイク~」
「どこまで~」
「~~~」
横から何やら妙にネチッこく、絡み付くような感、無意味な羅列が続き、雑音でも流石に煩かった。
イラ付いた俺は、そっちへと顔を向ける。
「誰だ、お前」
本心からの、誤魔化し無しな、本当にお前誰?って言って居た。
鳩が豆鉄砲を食らったような顔が、助手席の女の子の向こうに有った。
その顔が徐々に血を昇らせて、みるみると赤く為って行くのが見事だった。
「hcf@t<uyq@<ahd)4」
真っ赤に為ったヤツの口から、言葉にならない言葉が、怒り切れ切れにコボレ出る。
助手席の女の子が、ヤツの方を見て、俺の方を見て、ヤツの方を見る。
俺もコイツ、ナニなんだと呆れ顔で見る。
やっと幾ばくか血の気が下がった顔が、ハンドルを両手で強く握っている。
「お前は何時もそうだったよな、俺の事、無視ばかりしやがって――」
俺はそう言われてもなあぁ、と思いつつ。
「だから誰だよ、お前」
心底、呆れたように言う俺。
「ーーー、---、---」
絶句しているヤツ。
半泣きのように為って居る女の子。
でもってだ――。
助手席の半泣きの女の子のように、運転手なヤツも何処か半泣き顔で、走り去っていた。
俺はそんな四輪の遠ざかる光景を、ただただ見詰めていた。
「訳、分かんねぇ……」
つぶやくだけだった。
再び汗まみれに為ってバイクを押す俺。
そんな俺の脳裏に唐突に『あ゛』。
「ああ、あ――、あぁぁぁ、アレか」
やっと、やっとの、やっと、分かった。
高校時代の同級生。
クラスメートでは有るが、とてもぢゃないが、友人なんて完全否定だ。
俺の方では何も思っていないのに、ヤツは絶妙なタイミングで俺に言葉を一言、投げ付けて来る。
ソレが妙にカンに触る。
お前、ケンカ売っているのか?、そう思われても仕方無い物言い。
だけれども、学校で学生でコノ社会、おまけにヤツは成績優秀、先こぅドモの受けもイイ。
コチラからは何もドンっと出来ないって分かっている、本当にイヤなヤツだった。
卒業して心底セイセイした顔だった。
俺の中では消滅した存在だった。
ソイツだったのかあぁ~~~、だった。
ヤツは、俺にとって、本当に訳分からないモノだった。
ソレが俺の偽ざる本音だ。
俺は他人へと、自分から何かしょうとする人間じゃなかった。
俺へと、無用な干渉をしないで貰うのが、一番な人間だった。
他人ってヤツがとにかく、面倒臭くて煩わしかった。
――自分の中に他人が入って来て、ズルズルと居座る、ソレに耐え切れない、そう言う感覚を持っていた。
そぅ、俺は弱い、俺は自分は弱い人間だと知っていた。
だから、一人が良くて、一人で居たくて、一人は居心地が良かった。
たとえ、どれだけ寂しくてもだ。
そんな俺にでも、何だか信じられない関係な、友人未満・知人以上てな、時にとても有り難い人達がポツポツ居た。
学校に数少なく、バイク屋にニヤリと挨拶する人が、楽器屋の顔馴染みさん、バイト先の仕事仲間。
それだけで十分な俺だった。
それだけで満たされていた俺だった。
ああ、そうか、アイツ――。
もう一人の、別の、間逆な、遣り方の、俺なのか?
ああ、そうだな、『もし』な俺なのかもしれない。
良く分からないが、けれども確信的に、唐突に閃いた。
無言でバイクを押しながら、俺の口から無意識に言葉が出ていた。
「つまんねぇ人生だな……」
誰に言うでも無いつぶやき。
ヤツのような、他人や周りへと芝居をしているような、無難なほど良い人生。
俺のように、ナニが何だか分からない、気が付けば出会いがしら、頭をあちこちゴツゴツ・ゴチンゴチンぶつけまくる、しょもない人生。
どっちが、どうだ、優劣なんて無いと思う。
ただ、そんな遣り方しか出来ないのが、それぞれの個別な人間だ。
だけれども――。
ヤツは、何故か俺に絡み続け。
俺は、俺の出来るコトを遣るだけと、他を見もしなかった、見る必要なんぞ無いと思っていた。
カンベンしてくれ。
メンドウくさい。
俺はどうでもイイと、ポイした。
助手席の女の子だけは、羨ましいとは思ったけど。
助手席に女の子を乗せていれば、どんなボロ車でも、ソレだけで勝者だろ。
汗まみれの苦笑ひとつ。
何時からか曖昧に為った時間に、フト思えばどれだけ経ったんだろう。
遠く後ろから響き、徐々に近付くパラフォーのエキゾーストノイズ。
イイ音のシフトダウン、俺の近くでスピードを落とす。
そして掛けられる声。
「あーーー、うん。布団が吹っ飛んだ」
なんちゅう……。
声の主へと顔を向けると、ヘルメット、上へあげたバイザー、笑っている目が有った。
「公衆電話、バイク屋へ電話番号は~」
「飲み物、ふた缶、いや3つ頼む」
革のライダースーツ、ボン・キュッ・ボン、エロい身体の女性ライダーへと素直に頼んだ俺だった。
「んぐぅ、んぐぅ、んぐぅ、んぐ、プハーーーっ」
身体全身、喉へと染み渡る水分と、清涼飲料の甘味。
生き返った、助かった、マジで。
「ありがとうございます」
当たり前に深々と頭を下げた俺だった。
バイク屋へと連絡が行ったなら、もう押す必要も無く、バイクを止めて歩道アスファルトに座り込む俺。
で、なぜか、エロいライダー女性が立ち去りもせず、タバコに火を付け、同じ様に座り込んでいた。
俺は飲み物のラス3缶目をチビチビ飲みながら、何時の間にか、ナゼか、ライダー女性へと、アイツと俺、さっきの出来事、ポツリポツリ話していた。
ライダー女性が顔を上向けて、タバコの煙をポワっと浮かべた。
「それってさ、きっとその人、君のコトが羨ましかったんじゃないかな?、物凄く」
想定外の、予想外な、考えもしなかった指摘の言葉だった。
「ウソ」
信じられないって俺。
「ん――、当事者てのは、そんなモノかもね」
苦笑いを浮かべているライダー女性。
「こんな俺、俺のどこが羨ましいんだ……」
自分は、バカだと自覚が有る。
自分は、途轍もなく不器用だと自覚が有る。
自分は、どうしょうも無いヤツだと知っている。
人に自慢出来るコトなんぞ、何ひとつ無い。
あえてなら、他人様へと迷惑を余りかけて無いくらいだ。
俺、自分でも不思議なほど、うろたえの俺。
そんな俺を見て、女性ライダーが俯いてクツクツと押し殺した笑いを続けていた。
で、だ、そんな彼女を見て、俺はこの人、胸がデカイっと思った。
しょもない俺だった。
馴染みの世話に為って居るバイク屋の軽トラがやっと来て、エンジンの掛からないバイクを何とかカンとか荷台へと押し上げ載せた。
「有難う御座いました」
俺は女性ライダーへと深々と頭を下げた。
本当に心底、助かった。
命の恩人と言ってもいいほどの人だ。
「いいよ、別に気にしないで、ライダーなら当たり前の事だから」
彼女は片手を左右に振った。
そんな俺は軽トラの助手席から手を振って分かれたのだった。
何だか妙に名残惜しく、これで分かれて終わってしまうのが物哀しかった。
「惚れたか?」
運転席のバイク屋のおっちゃんが、咥えタバコでニヤリと言った。
「オッパイ、デカかった。スタイル最高」
本当に、本当に、しょも無い俺。
隣でクツクツ笑うおっちゃん。
俺はクシャクシャに抱えていたライディング・ジャケットのポケットから、ゴソゴソとタバコを探し出し、着火の悪いジッポで火を点けた。
いっぱに吸いこんだタバコの煙が何時もと違う味がした。
今日は妙な一日だったとボヤリ思う俺だった。
「でね、原因はプラグに変なモノを付けていたからだと思うの」
あの女性ライダーがバイク雑誌のページを開き、その中の商品CMをコレ、コレよってな感じで見せながら言う。
俺の馴染みのバイク屋でタバコをふかしながら、デカイ胸を見せ付けてフフンってな感じで言って居た。
「あ、あ――、コレかあぁ」
俺は言われて見ればってな感じで、感心の声を上げて居た。
『点火プラグの上からセットして、スパークを増強してパワーアップ』
てな売り文句で売っていた商品。
「ソレ着けたエンジンは、俺の所でもだいたい点火コイルをやっちまてるな。多分、電流が逆流してコイルに負荷が掛かって往っちまうんだろう」
バイク屋のおやっさんが、ああ、なるほどと言う。
そう言や、俺のこのバイクは中古だったか、以前の乗り手が付けて走ってたんだろうと思った俺だった。
ソレはソレとして、しかしだ。
ナンでアンタ、女性ライダーの巨乳エロ乳がココに居るんだ?。
俺の、言葉無し、そんなスケベ視線。
彼女のコブシ、ゆっくりスローモーなパンチを頬に避けずに受ける俺。
いいパンチラ、ぢゃね、パンチぢゃねぇか。
「借りを返してもらってないゾ」
指二本に挟んだタバコで俺を指差す女。
「借りなのか、アレ、借りなのかっ?!」
ライダー同士の助け合いぢゃなかったのか?!、と俺。
「命の恩人だろう、ドデカイ借りだなあぁ」
バイク屋のニヤニヤおっちゃん。
居合わせた店の常連、暇しているバイク乗り、しょもない連中もニヤニヤしている。
『バイク乗りには悪いヤツは居ないが、ロクなヤツも居ない』
そんな真理の格言を思い出す。
そぅかあぁ、女のバイク乗りってのも、男と同じ、ロクでもない代物だったか――。
しみじみ思う俺だった。
そんなこんなで、俺のしょうもない日々は、ちょっとした変化が起きて続いたのだった。
そぅ、オッパイはデカイが、ちょっとした程度の変化だ。
ちょっとした――。
…………
俺をガッチリ敷いた尻も、可愛くデカかった。
しかし、お守りだとパンティを持たすのだけは止めてほしい。
効き目が有るんかコレ?!。




