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バイク夜想  作者: ケイオス
18/21

18話 デカイ、重い、トロイ、鉄の塊

 この手のバイク。

 例えるなら――

 四輪2000CCの車体に、1600CCのエンジンを載せている車とでも想像して下さい。

 で、その1600CCのエンジンは2000CCのモノをそのまんま流用していると言う……

 昔々、バイクの色々に関して『ゆる~~~~~~い時代』が有った。


 例えば、空冷2ストの排気煙が道路を真っ白く埋めようとも無問題。

 例えば、震動が物凄く定期的にボルト類を全て締め直しが必要でも、無問題。

 例えば、400CCの車体に250CCの排気量でも、無問題。

 ――とかだったりするうぅ。


「にゃにが無問題だっ」

 伯父さんからタダで入手したバイクに文句を言うのは間違っている、ソレは分かっている。

 けれども実際に乗って走らせて現実に向き合うと、グチのひとつも出てくるのは許して欲しい。


「大体がだ、手抜きだろ手抜き、コレっ」

 バイクの排気量毎のラインナップを販売戦略のために埋めようとする時、一番簡単な方法が有る。

 400CCのバイクの車体にまんまガワだけの400Cのエンジン、ただし中身の排気量は250CCを安直に作ればいい。

 2ストなら走りの関係で見向きもされないだろうが、4ストモデルの場合は取り合えず走ればイイだろうと作ってしまったモデルが有った。

 そう俺の愛車コイツは、ピストン&クランクでボア・ストロークを調節、ガワは400CCのエンジンをそのままに中身を250CCに仕上げた代物だったりする。


 400CCのエンジンを250CCに仕立て上げようとすると――

 クランクシャフト、コンロッド、ピストン、で、バルブ回りとキャブ、後はマフラーの抜けくらいか?

 ああもちろん、シリンダー部分も250CCに合わせた加工が必要となるけれど、イチから250CCのバイクを開発作るよりは遥かに簡単にバイクが作れるって事だ。


 でだ、そんなバイクの作り方をすると、笑ってしまう事実に気が付く事となる。

 400CCのエンジンのピストンよりも250CCのピストンの方が小さい。

 つまりだ、同じガワを持つエンジンだと、それだけ金属部分が250CCの方が多いって事に為る。

 つまりつまりだ、コイツ、このバイク、250CCなのに400CCよりも重いのだ。

 まったく同じバイクのクセに、僅か数キロとは言え重いのだった。


「…………」

 こんなマジかよっ、てな事が事実だったりする。

 更に言わせて貰えば、400CCはアルミキャストのホイール、250CCはスポークホイールを使ったモノも有る。

 何故かって言うと、エントリーモデルとしての250CCの価格を下げるためも有ったんだろうが、俺は違うと見ている。

 それはだ、カタログ上では400と250の重量が同じになったからだ。

 400CCよりも重い250CCと言われたく無かったとおうぅ、俺は見ているっ。


 しかし、バイクを買って乗る側から見ると、メーカーそこまでして出す必要が有ったのかっ???

 たぶん、少々の手間?で作った代物なので、売れたなら売れただけ丸儲けのって事なんだろうなあぁと思う。

 まあ、そんな時代も有ったって代表がコイツ、伯父さんからタダで踏んだくったバイク、今の俺の愛車だ。




 農家の納屋ってのは昔に比べると巨大化してるそうな。

 トラクター、田植機、コンバインを入れるスペース。

 それにドデカイ籾の乾燥機、後は籾摺り機に選別機、フォークリフトも使う。

 そんな、もう納屋なんて呼べない鉄筋と金属パネル外材での大型作業所の片隅に――

 と、言いたいけれど……

 俺とバイクの二人だけの愛の空間は、手作りパイプ・ビニール・ハウスだったりする。


 昔々の野菜ハウスのサビサビ鉄筋パイプを流用。

 古ビニールを二重三重に張り。

 日除けに、コレもまたボロボロのブルーシートを内張りに使った。

 地面は湿気対策に全面に古ビニールを敷いて、くすねたコンパネを一枚、バイク用に置いてある。

 ただしそのままだとバイクの重量で合板を抜いてしまうので、空き缶を踏み潰して平べったいをスタンド用に使っている。


 自腹の金を全く使っていないのはイイんだが、家族からは『何やってんだオメ』て眼で見られているのがチョコっと肩身が狭い。

 ついでに、日々のガソリン代と保険料がサイフに痛いっ。



 バイク用ビニールハウスの中、キャンプ用の白灯油バーナーでお湯を沸かす俺。

 ネリネリ、練り練り、ココアってのは練るほど旨くなるらしい。

「タロ兄ちゃん、サクラお姉ちゃんが心配しているよ」

 当年取って小学6年、来年は中学生かあぁ、妹のカエデがネコの源三郎を抱えて俺に言う。

「カエデ、パンツ見えてるぞ」

 俺のその言葉にカエデが表情を無にして立ち上がり、トコトコと歩いて俺の背後へと回った。

 ゲシガシゲシガシ

 俺の背中に手加減なしな、蹴り連打が入った。

 そして、トテトテと元に位置に戻ったカエデが何事も無かった顔をしていた。

 女、怖えええぇぇぇぇぇ。


「カエデよ」

 俺は背中に連打足跡クッキリで問う様に言う。

「ナニ、お兄ちゃん」

 ネコの源三郎を抱きかかえたままでニッコリ微笑む我が妹。

「「…………」」

 見つめ合うが怖くてナニも言えなかった。

 ネリネリ、練り練り、ココアってのは練れば練るほど旨くなるらしい。


「やっぱ学校、行かんとダメか」

 正直、面倒臭い。

 高校なんぞ出ようが出まいが、家業の農業を継いで米作りのルートは決定済みみたいなモノだ。

 親父がここまで規模拡大をしちまったら、俺が後を継がないとどうしょうも無いだろう。

 田植えと稲刈り、幾らデメンさんを頼んでも機械を扱わせる訳にはいかない。

 見かねた俺が学校を休んで手伝いするくらいだ。

 そんな俺に妹かえでがあぁ――

「サクラお姉ちゃんを、お嫁さんに貰えないよ」

 俺の手がビタッと止まった。

 そして――

「あんな凶暴な女を嫁に貰わないとダメなのか」

 ついつい本音を漏らしてしまった俺だった。


 トテトテ、トコトコ

 ゲシガシ、ケジゲシゲシゲシゲシゲシ

 トテトテ、トコトコ

「お・に・いぃ・ちゃあぁんうぅ」

 女、怖い(涙)

 灯油バーナーで沸いたお湯をカップに注ぎ、練り練り混ぜる。

 そして――

『練り練りの・機嫌うかがい・妹へ

 そっと差し出す・美味しいココア』

 我ながら魂からの名句だ。

「うにゃー」

 ネコの源三郎がしょうもないヤツだと、そんな眼で俺を見ていた。




 パイプハウスからよっこらせと押し出したバイク。

 体重を乗せてメインスタンドを掛け、そのバイクに跨りシートへと尻を預けてから季節ゆえにこの時間でもまだまだ陽が有って青い空へと眼をやる。

 今日は雨は大丈夫だな、雲が少なく空が抜けている。


 羽織っていたジャケットのファスナーを閉め、メットを被りシールドを開け、グローブを両手へ。

 キーを捻ってメーターのニュートラのランプが灯る。

 タンク下へと手をやってチョークレバーを動かしてから、右手でキックペダルを回し出す。


 セルモーターも有るが、俺はその日の一番最初のエンジン始動はキックで掛ける事にしている。

 ワンシリンダー125CC、足応えが有ると言えば有る。

 圧縮の力に加えてクランクの重さとかフリクションとオイルの粘っこさも、キックペダルの足応えに中々だと思う。

 そんなキックペダルをステップへと立って体重を全て掛けて踏み抜く。


 カツン

 圧縮上死点を探しもせずに蹴り込めばこんなモノだ。

 で――

 カツン、カツン

 ボ

 ボ、ボ、ボ

 ド、ド、ド

 ドドドドド

 ドドドーーーッ

 時代が時代なバイクなので消音にたいして気を使っていないのだろう、ワンシリンダー125CCでも結構イイ音がする。

 それに冷え切っていた金属、冷寒時のクリアランスがデカイのかメカノイズがそこそこする。

「一回、タペットとか見ないとダメだな」

 自分へとつぶやきつつ、アクセル開度に気を使いながらチョークレバーを元に戻す。

 ド、ド、ド、ド、ド

 落ち気味になる回転をアクセルで調節。

 ドドドドド

 連続安定しつつの燃え方にホッとする。

 これでエンジンの始動はOKで、回り方や燃え方の様子も何時も通りだ。

 冷えていた金属に火が入り温まって動くのが、一匹の生き物の目覚めの様だった。


 一旦バイクから降り、左右のハンドルへと両手&シートに腰を着けてバイクを前へ。

 カコン

 音と共にドスンてな感じで車体タイヤが地面に落ちてサスペンションが沈む。

 バイクに跨りメットのシールドを閉め、左手クラッチ、左足ギヤをカコンとローへ。

 捻り開けるアクセルにクラッチを繋ぎ走り出す。




 ド田舎のこんな所もアスファルト道路を、何時もの様に走り始めの手応えを『どうだろう?』と確かめる。

 流す走りの速度からアクセルをジンワリ回し開く。

 ドォドォドォォ、ダーッ、ダーーッ、ダーーーッ

 なんつうか、ワンテンポもツーテンポも遅れて回転が上がって来る。

 ギヤをひとつ二つ落としての加速ならもちっと違ってくるのだが、250ならこんなモノだ。

 おまけにコイツはボアストロークで、かなりのショートストロークの設定でトルク感が弱い。

 フライホイール効果の重さでトルク感を誤魔化すにしても、エンジンの基本性格ってのはどうしたって走れば分かる。


 農村の田舎道ゆえ、車なんぞはまったくて言っていいほど走っていない。

 まあ、それはそれで気を抜いていると、田んぼの中の見晴らしのいい交差点で、一旦停止無視の車とドッカンが怖い。

 おっさん&ジジババの軽トラはそうでも無いんだが、若いヤツの四輪でたまにアホみたいにスピードを出すバカが居るからだ。

 

 田んぼの中の交差点を走りながら左右を確認し、こっち優先の左折へと軽いニーグリップ、ガソリンタンクを両太ももで挟みこみ慣性法則の身体をキープ、ブレーキを掛ける。

 リヤはドラムブレーキだがフロントは一応ディスクだ、それなりに効いてくれるのが有り難い。

 ブレーキを掛けながらアクセルをチョイあおり、ウォン・カコ、ウォン・カコとシフトダウン。

 ブレーキをリリース、この位置はどんなバイクでも全て同じだ。

 ブレーキで沈めたフロントが戻る前に、トラディショナル・ポジションでリヤタイヤに体重を預けゆったりバンク。

 そのまんまアクセルを開けて交差点をクルッと回る。

 視線は走り進む道へと遠く置き、バイクはバンク状態から真っ直ぐに立ち上がる。

 後はアクセルを開けスピードを乗せながらシフトアップだ。


 400CCを流用した車体はデカク&重いが安定感が有る。

 250CC以下くらいだと人間の方がバイクをどうこうする感じだが、これくらいのサイズと重量になるとバイクに任せた走りが丁度いい。

 バイクのジオメトリに逆らわず、ハンドルをコジらず、体重を後輪に乗せる感じでゆったり走ると人馬一体って感覚になる。

 ロードバイクっても、これだけ古いバイクだとライディング・ポジションがトラディショナルなお殿様スタイルなので、自然とこーゆー走りに為るのもあるけれど。

 俺はこのセコセコしていない走り方はそぅ嫌いじゃない。


 ああ今日も問題なく走れている。

 エンジンも車体もブレーキも、それに自分も。

 夕暮れの近い空気な大気、たいていの人は仕事一日がもぅ終り近いのに、俺はバイトへと向かい始まる今、しょうもなさが募るが気持ちを少しずつキリッとさせる。

 走りバイクの風に気合を入れられる。


 走りながら、思うでも無く思うのは、バイクのコイツが無けりゃコレは無かっただろうって事。

 ド田舎でもコンビニが有り、ド田舎ほどパートを365日募集しているって事実。

 コンビニのパート募集が有って、バイクが有りバイトに行ける組み合わせ。

 たぶん、コレが無かったら大人しく学校へ行っていたろうなって思う俺。

 ダーーーッと田舎アスファルトを走り続けて、地方の幹線国道沿いにコンビニの看板が見えて来た。




「いらっしゃませーーーぇ」

 店のドアの来客チャイム音に、俺はオートモードで声を上げた。

 で何気なく眼をやると――

 幼馴染のさくらが怒りを秘めた無表情でこちらへと歩いて来ていた。

 瞬間、焦る。

 途轍もなく焦って&恐怖っ。

 しかし逃げ場はなかったーーーーーーっ。


「「…………」」

 レジ・カウンターを挟み見つめ合う俺達二人。

「い、いらっちゃいましぇ」

 噛んだ。

「太郎うううぅぅぅぅぅぅ」

 ひいぃぃぃぃぃぃぃぃ。

 サクラの、とても女の子が出しているとは思えない、地の底から響き渡る地獄へと通じるこの世のモノでは無い声だった。



 気が付くと、お店の従業員詰め所で俺だけ椅子に座り、対面の腰に両手のサクラに説教を受けていた。


「ナニ、学校へ行こうとしたら、天気が良かったからバイクで海に行ったってえぇ。

 でサイフにお金が無くて帰れなくて、海の家で泊り込みのバイトしてたってええぇぇぇ。

 家族へは妹のかえでちゃんには連絡したって、それだけで他に何もしなかったってえええぇぇぇぇ。

 かえでちゃんが言うには、ビキニでオッパイぷるんぷるんってバカ丸出しのメールだけだったそうよおおおうううぅぅぅぅぅぅ。

 太郎に考えるなんて難しい事は期待してないけれど、もっとっ、何かっ、他にっ、キチンとっ、書きようがあるでしょうううぅぅぅ。

 私に来る写メがあぁ。

 焼きソバ旨い、とかっ。

 カレーライス肉少ない、とかっ。

 ラーメンなかなか、とかっ。

 どーーーーーーーーーして、そーーーーーーーゆう……」


 さくらが俯いて両手握りこぶしでプルプル震えていた。

 俺も恐怖でプルプル震えていた。


「イイっ、明日からちゃんと学校へ行くっ、分かったっ!!!???」

 さくらが止めの様に俺へと言い放った。

 しかし俺は、最後の、無駄な、悪あがきの、抵抗を試みた。

「あと一週間で夏休み――……」

 ゴンッ

 ぐーーー、で頭を殴られた。

 痛い(涙)


「さくら」

「ナニよっ」

 俺は心配に為って聞くのだが、怒りのさくらだった。


「手、大丈夫か?」

「へ、平気よっ」

 いやソレ、痛かったんだろう、殴った手を擦ってるぞ。


 で、従業員詰め所のドアが隙間開けられていて、そこから店長がこっちを見ていた。

「太郎君、今日はもぅ上がっていいから、彼女を送って行くとイイよ」

 もう帰れと雇用主のお達しだった。




 コンビニのパーキング・スペースの隅っこ。

 バイクの俺と、バスと歩きでここまで来たさくら。

 そのさくらが――

 カバンからジャージの下を取り出し、スカートのまんま履いている。

 で、ヘルメット、中学時代の自転車通学者が全員装備なチャリンコ・お椀メットを被る。

「お、お前」

「なによ、乗せてくれないの」

 最初から帰りはバイクに乗る気だったのかよ。

 嫌も応も無く、選択権は俺にはにゃかったっ。


 ド、ド、ド、ド、ド、ド

 まだ走り出していないアイドルを打つバイクに二人跨っていた。

「俺にくっ付いてヘタに動くなよ、コーナーで曲がりが変な事になるから」

 俺はバイクに跨って振り返り、後ろのさくらへとタンデムでの基本を念押しした。

 さくらは頷きながらも何だか躊躇っている。

 そして、やっと両腕で俺へと抱き付いて来た。


 むにゅ、ほわ、ぽよん。

 おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお。

 オッパイ。

 俺は今までの人生の中で、最大一番の感動が身体を走るのに固まってしまった。

 そうか、コイツも女だったんだ。

 オッパイが有ったんだな。

 てか、意外と大きくないかオッパイ(比較対象するオッパイ経験ないけれど)

 手で触らせてくれと言ったら――

 殺されるな、絶対……

 俺は動揺を隠し押さえつつバイクを走り出した。



 ドドドドドド

 国道は走らない、裏道ってか田んぼの中のアスファルト町道を行く。

 国道は交通の流れに乗らなきゃならないので、スピードがそれなりな走りが必要だからだ。

 さくらをバイクに乗せて走るのは初めてで、さくらもバイクに乗るのは初めてなので、まったりスピードの走りなら国道へは行けなかった。


 バイクの二人乗りってのは、当たり前だが一人の時とはまったく違う。

 加速、減速、コーナー、それら全てを余裕を持って走らないと、自分から危険リスクを呼び込む事になる。


 加速、さくらが俺に抱き付き、おおおうぅ、オッパイ。

 減速、やーーーらかいモノがムニュリと当たり潰れる感触が背中に。

 いけん、ヤバイ、股間があぁ。

 背中の後ろに、人、一人の重みと暖かさ、それも女の子で幼馴染のさくら。

 走りに人間一人がプラスされている。

 くっ付いている背中から、女の子の柔らかさな存在感。

 そして俺の腰に巻き付き、抱き付いて居る両腕。

 こりゃ絶対安全運転、無理なんぞ無理。


 俺は夕暮れの空、黄昏時を、これは現実なのかと走り続けた。

 ああ、そう言やあぁ、バイクの後ろに女の子を乗せて走るのが、目標そのイチ、バイク乗りの夢だったっけ。



 昔々の古いバイクのイイ所は、4ストなら走りに尖った所が余り無い事だろう。

 それに加えての400CCの車体で250の排気量だ、まったりと走るには丁度いいバイクだと言える。


 後ろに女の子での二人乗りなので、交差点コーナーはパタッと倒さずにゆったりとバンクさせる。

 一旦停止は当たり前だ、確認もシッカリと。

 混在交通の公道の田舎道、ごくたまに出会う四輪は『バイクなら行ける』は無しで待つ。


 こっちが優先とか信号も信用しない、直進バイクに右折四輪ってのが一番事故るパターンだ。

 で、田舎道で実は一番多いバイクの死亡パターンは、前のトラクターとか遅い四輪を追い抜こうとした瞬間にソイツが右折してドッカンだったりする。


 後は、飛び出したキツネとかネコとか動物を避けようとしての事故だ。

 四足のアイツラは実に絶妙なタイミングで飛び出してくる、なので急操作で避けようなんて考えてはいけない。

 覚悟を決めて轢く、これが一番安全だったりする。


 更には、こんな夜中にとか、こんな台風の時にとか、こんな吹雪にとか、信じられない状況でジジババが歩いていたりする、それも状況ピッタリの保護色の衣類で。


 そして何が一番怖いかと言うと、年寄りの自転車だ。

 こっちはスピードダウンして大きく距離を取って抜かそうとすると、自分から轢かれるために?ヨロヨロとこっちへ向かってくるんだ。

 あれほど怖いモノは無いっ。

 年寄りは歩いていても自転車でも、安全確認なんてしないと考えていた方がいい。



 後ろに人を乗せてのそれなりの距離と時間を走った。

 そんな生まれて初めての経験も終り、さくらの家の前、俺の家の近くに止まった。


「太郎、明日は――」

 チャリンコ・お椀ヘルメットに高校の制服の下ジャージ、バイクから降りてカバンを持ったさくらが言いかける。

「分かった、学校へ行く」

 まあ俺も、夏休み前にちょっとは行った方がイイとは思っていた。

 面倒臭いがしかたがない。


「じゃあ明日ね、バイク、乗せてくれてありがとう」

 ホッとした顔で微笑みそう言ったさくら、その微笑へと俺は――

「Eカップとは意外だった……」

 俺はカマ掛けでポツリと言った。

 微笑みから怒りの天使、手加減なしのカバン・ハリセン連打は痛かった。

 ヘルメットが有っても痛かった。




 次の日の朝、俺は家から駅までの通学の足、マイチャリンコでさくらを迎えに行き、二人乗りで駅まで行った。

 さくらのヤツは、やっぱり学校から国道バスでコンビニまで来ていて、駅に自転車を置きっ放しだったのだ。

 同級生のヤツラに冷やかされたが――

「ふっ、君達、彼女が居ないって寂しいね」

 そう言ったら、御ふざけ本気な袋叩きにされた。


 久々?な学校はあぁ、まぁイイ。

 まあイイのだが、夏休みの補習が強制・自動・決定されてしまった。

 おおうぅ、夏休みにゃのにいぃガッコへ来るのかよおおおおおおううううぅぅぅ。

「自業自得だっ」

「バカがバカしたらバカな眼に合うのだ」

「えっ君、誰?」

「生きていたのか……」

 好き勝手言う連中だった。

 そんな中、言わなくていい事をバラすヤツが居た。

「工業高校で幼馴染な彼女が居るなんて、ションベン以外にナニも使うなっ」

「「「「「「「…………」」」」」」」

 御ふざけのかなり本気な、嫉妬袋叩きにあった。




 補習が終わった夏休みの自由解放の時。

「太郎」

「おおうぅ」

 バイク・ビニールハウスでバイクのエンジン、ヘッドカバーを外してタペット・クリアランスを見ている時だった。

 さくらのヤツが涼しそうな格好で、ネコの源三郎を膝に乗せて話し掛けて来て、上の空で返事をする俺だった。


 集中している俺は色即是空、雑念なぞ入る隙も無いっ。

「友達とプールに行こうって話しが有るんだけれど、太郎、一緒に行かない?」

 さくらから爆弾が落ちた。

 固まった俺、固まったのは決して股間ではにゃい。


 そうかあぁ、JKの水着かあぁ。

 海の家でバイトしたとは言え、時期柄、JKは居なかったし、あの時は忙しくて観賞フリーダム・タイムなぞ存在しなかった。

 イヤ、別に俺は水着が見たいと言っているのでは無いっ、決して無い、無いたら無いっ。

 無い?

 あれ?

 海じゃ無くてプール?

 まあプールでも水着だわな???



 わが町にはプールが有る、ナゼか田んぼの真ん中みたいな場所に町立プールが不可思議に有る。

 それも町の駅から遠く、駅からチャリンコで20分以上なんて訳分からない辺鄙な立地にだ。


 その日、さくらの家のオジサンが車を引っ張り出し、さくらと俺の妹のかえでを含む五人の女の子達をプールへと運んだ。

 俺は――

 俺は、バイクで買出し係りになった。

 その買出し資金は全額、俺のオゴリで。

 お菓子に飲み物、アイスにコンビニ弁当、雑誌にスポーツ新聞。

「さくら……」

「文句ある?」

 バイト代が飛んだのだった。


 彼女達はその日はさくらの家に泊まり、夜のオヤツ代も俺持ちだった。

 バイト代が羽を広げ飛んだのだった。

「さくら……」

「文句ある?」


 町立プールは農村地帯の常識、少子化で貸切状態、彼女達に非常に評判が良かったらしい、天気も良かったしな。

 彼女達は夏休み中にまた来るとか。

 貸切状態のプールに飲み食いタダ、そりゃまた来るわな。

 うははははははははははははははは。

 はあぁ。

 まぁ、さくらのビキニ姿を見れただけで良しとするか……

 改めて、濡れた水着って物凄くエロいかもと思った俺だった。


 しかし、ささやかな抵抗で夜の差し入れの中に、コンビニR18雑誌を一冊入れたのはどうだったのだろう?

 後日、顔を合わせた時、無反応で無視されたのが返ってとても怖い俺だった。




 バカな事やどうしょうも無い事。

 後で思い起こせば、それは青春だったとシンミリするんだろうか。

 俺の思い出には必ずバイクが有る。

 デカくて重くてトロイ、鉄の塊な俺のバイクが一緒に居る。


 なんたって、(おとこ)太郎の初オッパイ体験がバイクのお陰なんだから。

 続きオッパイ体験は秘密だ。


それと――

『ビキニ水着でバイクと一緒なさくら』と言う、無理を言いお願いした代物が、俺の画像コレクションに追加された。

 代償に貸し無限大と言われたが……

 このプールは実在していました、さすがに現在は閉鎖されてしまいましたが。

 しかし、本当に何であんな所にプールを作ったのか???


 ちなみに、信じられない状況でのジジババも実在します。

 一瞬、我が眼を疑い、それから車を止めて乗せようかとも思ったのですが――

 怖くなって止めたのだった……

 死亡記事も町内噂も無かったから、生きて何処かへ辿り着きはしたのだろう。


 昔々のバイク雑誌を見ていて思いつき、チョロと書いたお話でした^^;

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