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バイク夜想  作者: ケイオス
13/21

13話 サイドカー『雪風』 5話

「重し、はい、重しね、重くなくても重しよね」

 ブツブツと言いながら車から出て来た彼女に、テントの中へ入ってもらった。

 状況の寒さとは違った寒さが、僕の中で生まれていた。


 と、とにかくだ――

 彼女にテントの中へ入る時にお尻からテントに入って貰って、宙の両足からいったん靴を脱いでもらう。

 僕は彼女の靴に着いていた雪を、丁寧に叩き取ってからテントの中の彼女に渡した。


「足が寒いわ、中で靴を履いてちゃダメ?」

「ちょっと待ってて、寒さ対策とまだ道具が有るから」

 僕は彼女の声に返事を返し、側車へとまだ残る道具類の荷物を取りに行った。


 まずテントの中用の防寒ソックス・シューズ。

 テントの床いっぱいに敷くアルミの中綿・断熱マット。

 薄手のウレタンマット(一人用)。

 4シーズンの封筒型、2人用シュラフ一個。

 LEDランタン。

 手回し充電式のラジオ(スマホにも充電可能)。

 カロリー補充用のチョコとフルツーバーの袋。

 ゴミ袋とテッシュ一箱。

 タオル一枚。

 使い捨てカイロ一束。

(コンドームは置いてきた)

 そして彼女が抱えて来た、オムスビ&保温ポット&毛布三枚。


「…………」

 それらテントの中を見渡して彼女が無言になって居た。

「あーまーその、サイドカーでトランク4個だから、色々と積めるモノで……」

 僕は言い訳の様に、アハハハハハと笑う。


 彼女が呆れた様な顔を僕へと向ける。

「何時でも夜逃げ出来るわね」

「せめて駆け落ちとか言って欲しい」

 ロマンは大切。

 ロマンチストでも無ければ、サイドカーなんて代物には乗っていない。

 でも自分で思って、自分で恥ずかしくなった僕だった。


「で、このシュラフなんだけれど――……」

 彼女が毛布ダルマさんで、顔を幾ばくか赤らめて上目使いで僕を睨み見て言う。

「普通のシュラフって身動き出来ないから、どうも肩が凝って……」

 事実なのに言い訳している僕が居た。



 彼女がジト眼で僕を見る理由。

 イヤ、確かに、ジト眼で見られても仕方ないかも知れない。

 それは封筒型の、布団の様な二人用シュラフ。

 恋人が二人で、夫婦が二人で、一緒に入れるシュラフだった。

 さらには枕が二つ付きなのだった。

 見ようによっては、艶めかしい代物なのだった。


「確かに、貴方が来てくれなかったら、私、危なかったけれど――

 お礼を身体で払えなんて、イヤだからね」

 彼女がそう言うのだけれど、ど、ど。

 シュラフに既に入って居て、毛布を上下にぬくぬく状態で言われても……


「一人より、二人の方が暖かいだろうから、特別に入れて上げるわ」

 そう言って封筒型のシュラフの中で、片側へと寄った彼女だった。

 ゴツイ防寒着を脱いで、有り難くも彼女の隣へと潜り込んだ僕だった。




 LEDランタンの灯りがテントの中で点る。

 大暴風雪の風音が鳴り続ける。

 夜の中で二人だけ、世界の中で二人だけ。

 僕達、二人だけの、誰も居ない世界だった。


「私、死に掛けたのか――」

 隣で唐突に彼女が言った。

 うむぅ、あの時点で何とかしようと思ったら――

 車のマフラー、排気口を掘り出してエンジンを掛けて高回転を維持。

 車の暖房をガンガン効かす事くらいだけれど……

 この天候では即、雪に埋もれてしまうだろう。


「携帯やスマホの普及で、人は危機感を持たなくなって安直になったからなぁ」

 バイク乗りの僕は、普段から思っている事を言葉にしてしまった。

 その僕の言葉に彼女が顔を僕の方へと向けたのが、身動きの気配で分かった。



 身体ひとつでバイクに乗って居ると、命はリアルで、死とまでは言わないが本物のヤバさが隣に居る。

 それは自分で全部、何とかしなければ為らないのがバイクだと僕は思っている。


 走り出す、前。

 準備は大切だ、日頃のメンテナンスをしっかりして置かないと、自分からトラブルを招くことになる。

 体調も大切だ。

『明日は休日、走るぞ!』と思っても、当日の体調しだいで中止する勇気は絶対必要だと思う。


 走っている、最中。

 誰も頼りにならない、全部が自分に掛かっているのがバイクを走らせるって事だ。

 スマホとかが幾ら有っても、ソレは事後だ。

 事が為された、起こった後だ。

 起きてしまった、自分の甘い考えで招いてしまってからのスマホなんだ。

 なので幾ら連絡が着いても、即、助けが来るとは限らないし、何よりも助けを呼ばなくちゃダメな状況が覆る訳でも無い。

 連絡が付かないと、助けを呼べないと、自分1人で全部対処しなくちゃならない、そう最初から考えていたなら、人はまったく別の行動を取ると思う。


 走り終えて、それから今夜と明日。

 まず寝床の確保。

 それとバイクから降りた後、ホッとした時間に必ず訪れる走りの回想。

 バイクでの走りって誤魔化しが利かないから、全部、分かる。

 自分が今日、どんな走りをしたのか。

 ヤバイかったってのは特にだ。


 ヤバイ、事故、その類の代物は確かに避け様の無いモノも有る。

 行き成り、こっち目掛けて突っ込んで来る、どうしょうも無いのも有るかもしれないが、大半は何となく予測出来ると僕は思う。


 バイクで走っていると、車を見て、その走り方を捕らえ、運転しているドライバーがどんな人か何とか無く分かる。

 危険察知、この車とは距離を取った方がイイ、ってのは本当に分かる。

 実際、道端へとバイクを止めて、その車が見えなくなるまで止まっていた事も有る。

 世の中って本当に色々な人が居る。

 人の力を超えた動力で動く、鉄の乗り物。

 それを個人一人だけで動かす、混在交通の中で走らせる。

 実感として分かっている人は、どれくらい居るんだろう。



 ――話しがソレた。

 何度も繰り返しになるけれど、今の時代はやっぱり携帯&スマホが、その存在が、人を危機感無しにしていると思う。

 イザと為れば助けを呼べばイイ。

 安直な考えが、安直な行動に為って、最悪な結果に為る。

 その行動の尻拭いに巻き込まれた人は、仕事とは言え大変だ。



 バイクって代物に乗って、走っていると。

 世界と、自分1人だけ。

 それだけだ。


 一人だけで向き合って、今だけの走りの連続。

 それだけだ。


 物凄くシンプル、だから誤魔化し無し。

 この世の中で、これほどリアルなモノは無い。

 この世界で、こんな世界が有ったのかって、それがバイクで走るって事だ。



 僕は、ポツポツとそんな事を話していた。

 普段なら、絶対に人には言わない事。

 こんな状況だからか――

 誰に言うとも無く、心の何所かで思って居た事を、彼女へと言葉にしていた。


 二人、テント、シュラフの中――

 気が付いたら、彼女が僕にくっ付いていた。

 彼女の息の暖かさを感じる。

 僕は彼女の身体の暖かさを抱き締めて居た。


 言葉は無く、何時の間にか、まあ、その。

 あの毛布ダルマさんの中身、凄かった。




 寝不足気味の僕達二人は、重い轟き、重低音のエンジン音の唸りで眼を覚まされた。

「おい、生きてるかーーーっ?!」

 テントの外からの大声。

 テントの布地越しの、陽の光が有った。


「生きてるーーーっ、服、着るから時間、待ってくれっ!」

 目覚めのボケた頭で言ってしまっている僕。

「あっ、もぅ」

 ひとつのシュラフで二人、彼女が引張り寄せた毛布で胸元を隠しながら、しょうが無いって顔をしていた。

「おおう、無事ならイイ。道は開けたから走れるぞっ!」

 重低音は除雪車のエンジン音で、外で怒鳴っているのは除雪車の男の人だった。


 その後――

 彼女の軽自動車を、除雪車の牽引で雪山から引っ張り出し。

 僕はキャンピング一式を仕舞い、収納した。


 彼女の乗る軽自動車と、僕のサイドカーが、お爺さんとお婆さんのお店へと走って行った。

 一夜明けての、自然の猛威の去った、ピーーーカンの空が高い晴天だった。

 昨夜までの、あの天候が信じられないほどの、穏やかな風景世界が有った。




 で――

 僕がソノ後、ナニをしているかと言うと。

「お兄さん、ラーメン屋、やってみないかい」

 お爺さんと、お婆さんの、ニコニコ微笑みの押しに、白旗を上げた僕だった。

 ナゼかバレていた。

 イヤ、その、まぁ、なんです。

 僕も男、逃げません。

 ラーメン大好きだし。



 色々と暖め合った、僕達二人。

「タロちゃん、醤油大盛と味噌大盛ぃーーーっ」

 エプロン彼女が、膨らみが目立ち始めたお腹で、厨房の僕へと言う。

「ほい、醤油大盛、味噌大盛っ。サクラさん無理しないでね」

 手を止めずにオーダーを繰り返し確認。

 今は僕の奥さんに為った、サクラさんへと返事をする。


 お爺さんと、お婆さんには、まだまだサポートとして引退なんてさせないっ。

「ひ孫の顔が見れますねぇ、お爺さん」

「おおうぅ、めでたいなぁ、婆さん」

 ニコニコと、まったりしている二人。

「お爺ちゃんっ、お婆ちゃんっ、手が足りないの、手伝ってーーーっ」

 奥さんのサクラさんが二人へと言っていた。

 僕はとにかくオーダーのラーメンを作るのみっ。



 人生って、何がどうなるのか想定も出来ない。

 僕があの日、ここに居なかったなら――

 彼女、サクラさんの命も危うかったはず。

 さらには、サクラさんのお腹の中の命。

 人生って、不可思議。


「タロちゃん、買出しのリストだよ」

 彼女が渡して来たリスト・メモ、分量が半端ない書き込み指示が有った。

「さすがにコレ、車でないと無理か」

 買出しにサイドカーで行けると、ヘルメットを抱えた僕はつぶやいていた。


 サイドカーの『雪風』、家族が三人を越えたらどうしょう。

「左右に側車を付けたら?」

「さすがにソレ、もぅサイドカーぢゃないよ……」

 彼女がニシシシと笑い言う、その何ともな『雪風』の姿を想像してしまった僕だった。

 あ゛っ、でも、あの変態メーカーなら似たような代物を作るかも――……


 僕がそんな風に思っていると――

「タロちゃん、早く帰って来てね」

 片腕を取られて押し当てられ柔らかい、そう言われた。

 僕は彼女が、二人、一緒に居られるのが幸せと、そう言ったのを思い出した。


 男と女は理屈なんてモノじゃない。

 何だか色々と相性がイイ、そんな僕達だった。

 でも――

 完全把握されて、実は彼女に操られている。

 そんな僕だった。



『雪風』、たまには二人で走ろうか。

 な。




 ◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇


 サイドカー『雪風』


 エンジン

 軽自動車の流用、ターボサイズ&EFIのセッティングは変更。

 トルクの出方が自動車的

 660CC 水冷 並列三気筒 

 DOHC4バルブ(吸気側のみ可変バルブタイミング)

 インタークーラー・ターボ

 *真冬に走ろうと思ったら、たぶんラジエターにフルカバードが必用?


 ミッション&駆動系

 6速+バックギア&センターデフにLSD

 フロント センターハブに電気モーター

 リア   ドライブシャフト

 側車   ミッションのセンターデフ側から駆動取り出し、ドライブシャフト

 *作中には出て来ないが、側車側への駆動カットも可能。

 サイドカー本来の走り方が出来る、出来るが、時、免許が二輪大型となる。


 フロント アルールズフォーク

      フロントも駆動輪となったため、テレスコでは剛性が?

 リヤ   二本サス

      大型バッテリィを積むための空間確保のため

 側車   サス有り

      (車のサスは調べたが、細かい所が分からなかった……)

 車高調節の機能有り。

車体の水平化は始動時にオート。

      最大6センチ。

      ダンパー内へのオイルでは無い(これをするとコイルスプリングが)

      (体的なメカは執筆者の能力を超える(泣))

 アンチ・ロック・ブレーキ

      バイクのリヤタイヤと側車タイヤのみ。

      (リヤタイヤのみの駆動時、側車のブレーキをどうするか……)


 収納

 側車に小型トランク、計二個。

 バイクサイドに大型トランク、計二個。

 側車のシート後部に少々の収納スペース&外部にサブタイヤ。


 その他

 発電機はクランクシャフト軸上、直結タイプでは無い、はず?

 側車側にも夜間安全のため、ヘッドライト並みの照明あり。

 側車に暖房用のヒーター有り(冷却水を回してぇ……)


 タイヤを四輪用のフラットなのにしようか、最後まで迷い、ウヤムヤに……

 何だか、色々と力尽きて終了。


 物は試しで書いてみたサイドカーのお話が、ここまで長くなるとは……

 サイドカー独特の走りを、普通のサイドカーで書くべきだったか?

 色々と反省の多い事に為ったのでした。


 次話、アイディアは有るものの、どう形にしようか悩み中です。

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