1話 タンデム・ツィン『ダブル・ユニコーン』
妄想モデル第一陣。
陸王のサドルシートのアノ形をご想像下さい。
フルカウルも無く、メーターバイザーも無い、ヘッドライトのみの車体タイプは走行風をモロにライダーへと当てる。
緩い前傾のライディング・ポジションを取った身体、その全てに走行風が当たり、身体と心を風のシャワーで綺麗にしてくれている様だった。
ゆったりとした走りながら俺は思う。
日常の様々なモノが、知らず知らず自分の中へと積み重なり、溜まって行く。
その全部を今、風で洗い流し、自分の中から無くし無くなっていく気がする。
生まれ変わるって言うほどでは無いけれど、蘇る、そんな感覚がバイクを走らせるたびにする。
愛車は400CCの中免排気量。
シリンダーを前後に配置した直立タンデム・ツィンのエンジン。
クランクに刻まれたギアでダイレクトに連結され、ツィンピストンにも関わらず同時点火で単気筒の様に動く。
400CCと言う、ある意味、中途半端な排気量ゆえの誤魔化しにも似た動きだ。
それでも、ド・ド・ド・ドと鼓動を感じさせて動いていた。
単気筒の400CCなら鼓動の体感もハッキリと出来るが、ツィン・エンジともなるとその鼓動感は単気筒とは比べる事もなく劣る。
かと言って400CCの単気筒のエンジンで、スムーズな伸びやパワーを求めるのは限界が有る。
そしてメーカーとしては何よりも、売るための見た目が有ったのだろう。
車格と共に見せる(魅せる)外観を求めた時、単気筒よりもニ気筒にならざる負えなかったのだと思った。
もっとも、そうは言っても、自分自身こそその見た目に惚れて購入したのだが。
コーナーをクリアしてゆっくりとアクセルを開けていく。
このクラスのバイクにしては大質量、マスの大きなクランクがトルクを感じさせながら、ゆったりと回転を上げて行く。
あえてのロングストローク、たかだかワン・シリンダー200CCでもロングストロークなら、日常域の走りでハッキリと走りの違いが体感出来る。
それはOHVのバルブ駆動、一本のカムシャフトが押し上げる4本のプッシュロッドのカムタイミングの設定も有る。
日常域の走行をメインにセッティングされている、エンジン特性ゆえの扱い易さ。
決してエキサイティングなエンジンでは無いが、相棒と呼ぶに相応しい付き合いを続けられるバイクだ。
季節によっては両足の間が結構、熱くなる。
ヘッドへのオイルシャワー、ピストン裏へのオイルジェット、油冷でのエンジン冷却システム。
さすがに今のモデルは水冷になって、メーカーはもう、この排気量でこのタイプの油冷エンジンは作っていない。
作っていないと言うか、バイクへのやたら厳しい排ガス規制で、作れなくなったと言うのが正しいかったりする。
その内、ガソリンで動く車もバイクも無くなってしまうのだろう。
モーターで動くバイクか……
モーターをCPU制御で、トルク特性を操作演出して、一個のモーターで様々なタイプのエンジンの走りを擬似的に感じさせるんだろう、きっと。
音無しのバイクか……
走りながらオナラが出来ないな、ソレ。
ドドドドド、ドドドド
連続音が控え目な震動と共に車体を前へ。
タンデム・ツィンのエンジン形式は、逆回転クランクのため完全バランスし、90゜のVツィンと同等に震動が少ない。
スムーズ過ぎるその辺りが不満と言えば不満だが、長距離を走ると有り難味が染みてくる。
確かに車体を震わせて走るバイクは手応えは有るが、一日をガッチリ走ると、かなり疲れる。
それは走り終えて、二本足で歩き、尻を降ろして、それから時間が経てば経つほどジンワリと身体全身の重さになって感じてくる。
歳を取れば取るほど、感じてくる。
ちょっとした直線でエンジンを回す。
走るスピードよりも、やや高めのギアを選びタイミングを見て上げて行く。
コク、コク、と吸い込まれる様に、気持ちよい感触で左足のギヤのシフトアップを繰り返す。
硬い金属での動きのはずなのに、妙に生き物めいている足応えで、一種、快感だ。
重いクランクマスのせいで回転の上がるスピード自体は決して速くは無い。
車体自体も少し大柄な所が有るし、何よりもクランク一個分のエンジンサイズが前後にデカく重い。
そのせいで開けたアクセルに即付きで、エンジン回転とスピードは付いて来ない。
その代わりに高めのギアでダッダッダッダッと車体を震わせてから、ダダダダダーーーと加速してゆく。
が、ソレも400CCの哀しさ。
あっと言う間に回転が上がり、タンデムツィンのバランス・エンジンのせいでヤタらスムーズに高回転を維持する。
これが――
このモデルの最高峰の1500CCなら、人の乗る代物では無いほど凶悪らしいし。
1000CCならタイヤのひと蹴りが体感出来。
せめて650CCなら、らしい感触が味わえるらしい。
が、コイツはいかんせん400CC、このエンジン形式の場合では、どうにも中途半端だったりする。
か、哀しくなんて無いモン。
古女房なんだモン。
俺の相棒なんだゾ。
中免ってバカにするにゃっ。
そのうち絶対、後ろに巨乳を乗せて見せびらかして、勝ち自慢してやるっ。
いつに為るか分からないけど……
でも希望はいつだって有るんだっ。
夢見る事は自由なんだっ。
うん。
背中の哀愁を風で吹き飛ばして、俺は走る、走り続ける。
ゆったりとしたトラディショナル・ポジションを取る、幅の広いパイプハンドルとステップの車体モデル。
おっさんモデルと言われるが、それがいい。
フロント19、リア16のタイヤ。
アメリカンでは無いが、後輪加重で走るバイクだ。
オフロード・モデルならともかく、オンロード・モデルでは今となっては、こんな基本姿勢で乗るバイクは消滅したと言ってもいい。
初心者が始めて乗る、それなりの重量バイクの入門には悪くは無いと思うのだが。
加重の掛け方とか、走らせ方を知って行くのにも悪くは無いと思うのだが。
見た目、おっさん、売れないわな……
まあコイツは、タンデム・ツィンのエンジンのお陰で、クラッシック・バイク的に見えるのが救いでは有る。
タンデム・ツィンの前後のシリンダー・ヘッドは右側へ30度ほど捻られている。
斜め前方へと排気、エキパイが曲線で存在し、斜め後方にキャブが有る。
OHVだからこそ可能なヒネリ技で、ヘッドのカムシャフトをチェーンやギアで動かしているエンジンでは、まず不可能だろう。
ついでに言うと、二つのシリンダーの間にカムシャフトが一本存在する。
その、それぞれのバイクの特色はエンジンが全てだと俺は思う。
単気筒、二気筒、三気筒、四発。
それぞれに特色の味がまず存在する。
単気筒なら、一発、一発の鼓動と低回転域からでも反応するクイックさ。
けれど高回転は苦手っつーーーか、無理。
250CCならともかく、400CCにもなるとパランサーが有っても震動が結構、凄い。
無理矢理に引張って高回転に持って行くと、気持ちの良いタイプの震動では無く、バラけそうな気がする、無理しているって言う震動だ。
二気筒なら、連続の鼓動と、これもクイックさを持ちつつの回転の伸び。
並列ツィンの場合は、180度クランクと360度クランクで性格が違うらしいが、それも250か350のでの回転を振り絞る場合の話しだ。
500や650の場合は、ワンシリンダーが250、325、これくらいなら高回転域へと引張るのも即だし、高回転を維持するのも不快では無い。
もっとも、ソレをしようと思ったら、二気筒はバランサーが必要だが。
四発ならスムーズさと、高回転域を生息場とするパワー。
何より排気音がイイっ。
マルチ・シリンダーの排気音は独特の音色が有って、それが色気に為って居る。
バイクに乗って、エンジンをブン回し、高回転を維持して、パワーを駆るっ。
その時に、何とも言えない官能ってヤツが欲しいなら、やっぱりマルチシリンダーだ。
ただし、そんな走りをするなら、それなりの腕が必要だが。
三気筒は二気筒と四発の中間くらいなのだそうだ。
良い所取りってヤツは、中途半端と言えば中途半端。
たぶん、コレは俺の独断なのだが、三気筒の一番の狙いってヤツは、大排気量に為った時のエンジン幅なのじゃないか?って思う。
四発よりは確実にエンジン幅は狭い。
二気筒よりも広いが、その代わり三気筒、120度バランス・クランクなので高回転がストレス無く可能。
狙い目はイイのだが、たぶん、乗る人間の嗜好が合わないと、ストレス気味になってしまうかもと思う。
四発の爽快感でも無く、一発一発の鼓動でも無く、どっち付かず、物足りないって感じてしまうと思うんだ。
まぁ、もっとも、タンデム・ツィンの400CCに乗って居るヤツが言える事ぢゃ無いが……
バイクってのは不思議な乗り物だ。
四輪と違って、それぞれのモデルごとに明確に違いが有る。
2ストか4ストか、排気量は? エンジン形式(V4とか並列)か?
で、更に言うなら、同じ排気量、同じエンジン形式でも、セッティングで丸っきり別物の性格に為る。
分かり易い例なら、四発レーサー、四発実用域、とかだろう。
車体でだって性格が変わる。
アメリカンにレーサータイプ。
トラディショナルな殿様乗りから、高速のグランツーリスモ(GT)のロング・クルーズのタイプまで。
エンジンも車体も、足回りの設定も、何から何まで違ってくる。
女性が100人居れば、100人が違う様なモノだ。
巨乳美人でナイス・ボディでも、実際に生活を共にして見ると――
中身が全く自分に合わないっ。
日々、日常、感性が違い過ぎる。
夫婦ってのソノ違う所が、当たり前で面白いとか言う人が居るけれど、そりゃ相性と許容範囲での話しで、思いやりや気遣い、労わりと助け合い、コレがまったく出来ないのぢゃ、共同生活は無理で不可能だ。
バイクも、それぞれのモデルに乗ってみると、確かに面白い所は有る。
けれど、そう言っても、つーーーても、その面白さは自分が求めているモノと違うなら、ずっと乗り続けられるか?ってのを考えると――
やっぱり、相性は有る。
たぶん、コノ当たりが、初めてバイクに乗って、その後も乗り続けるかどうかの分岐点じゃないかって考えてしまう。
偶然でも幸運でも、ピタッとクル、そんなバイクに出会えたなら、人生最大の幸福だと俺は信じる。
惚れてしまったぜ。
お前となら、俺の全てを捧げるぜ。
あうううぅん、一生バイクうぅんぅ。
魔性の女に出会った男は、たとえ破滅しても幸福なので有ったーーーーーーーーーっっっっ。
うん。
てな事で、腹減った。
ラーメン食いたい。
ラーメンは、味噌か、醤油か、塩味かっ。
ギョーザに半チャーハンも欲しいなっ。
カレーライスは……
イヤ、俺は誘惑には負けない男っ。
ラーメンだっ。
味噌・野菜・チャーシュウのっ、お・お・盛りっ。
例え、絶滅危惧種、自販機のみのバラックを発見して。
面白可笑しい、男心をくすぐる自販機が有るだろうとしてもっ。
ウドンとソバの、アノ、独特の旨み自販機が有るだろうとしてもっ。
ラーメンんんんんううううぅぅぅーーーーーーーーーっっっっっっ。
うは、マジかよ、バラック自販機・小屋が有ったゼ……
ビニ本を、バッグの底深く仕舞いこみ。
俺は、今日は良い日だったと帰路に着くのだった。
ああ、彼女、欲しいなぁ。
巨乳の。
酔っ払いが執筆しております。
なので実際に――
となると、突っ込み所が満載です。
その辺りはご勘弁のほどを。
ちなみに、650CC以上のモデルは、同時点火では有りませぬ。