童話 働きアリと働かないアリ
あるところに、たくさんの働きアリと、1ぴきの働かないアリがおりました。
働かないアリは、あっちへふらふら、こっちへふらふら。エサも運ばず、ほっつき歩いてます。
「おい、アイツがまた、どこかに行ってるぞ」
「アイツの分まで、オレたちがメンドウ見るのはイヤだ」
「他の巣のアリは、みんなマジメに働いてて、うらやましいなあ」
働きアリは、今日もせっせとエサを巣穴に運びます。
だけど、ある日、困ったことが起きました。
「たいへんだ! エサの山がなくなっちゃったよ!」
働きアリがみんなで運んでいたエサ。その山を、すっかり取りつくしてしまったのです。
「困った。エサがないと冬がこせないよ」
そこに、働かないアリが戻ってきます。
「やあ、みんな。どうしたんだい?」
「こんなときに戻ってきて。エサの山がなくなっちゃったんだぞ?」
「えっ」
「もう、キミの分のエサはないよ」
みんなは怒りましたが、働かないアリは言います。
「大丈夫。エサなら向こうで見つけたよ」
働きアリたちがついて行くと、たしかに新しいエサの山がありました。
「キミは、これを探しに行ってたのか」
「おかげで助かった。ありがとう」
でも、中には、不満そうな働きアリもいます。
「キミが見つけられたのは、たまたまだろう?」
「うん」
「サボってたのは変わらないよね?」
「だけど、エサがずーっとあるわけじゃないでしょ? もちろん、ボクが探すことに集中できたのは、みんながガンバっていたからだよ。おかげで、エサを見つけられたんだ」
「うーん」
「それでいいんじゃないかな」
働かないアリがいなかった他の巣では、エサを探す時間が足りず、冬がこせませんでした。
春になり、働きアリたちは外に出てきました。
そのとき、少しだけみんな、「働かないアリ」になりました。
みんなが少しずつ、より道をするようになったのです。
「こっちに、エサがあったよ」
「オレも、あっちで見つけた。これなら、次の冬も大丈夫そうだな」
少しのゆとりが、また少しゆとりを増やします。
「向こうのお花、キレイだったよ」
「ほんとう? じゃあ、明日行ってみるよ」
働きアリは、しばらく「働かないアリ」になって、のびのび楽しんだあと、また、働きアリに戻るのでした。
そうそう、最初の働かないアリはどうしたのかというと。
「今度は、キノコを育てるのとか、面白そうだなあ」
いろいろと、楽しいことを考えていたみたいです。
~おわり~