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どじっ娘JKは宇宙人でこの世界を征服するそうです。  作者: 春槻航真
第12章、家田杏里とメイド喫茶
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92.5枚目

 今日は中々に大変だった。いつもは11時から仕事始めなのに今日は10時から出勤していたし、4時を過ぎてもまだ休憩出来そうになかった。労働基準法に抵触するのではないかと思いつつジュースを運び続けること4時間、流石にへとへとになっていた。

「らいちゃーん休みなよ」

 そう言ってくれたのは少し先輩のユロさんだった。ちんまりしていて少しのっぺりした顔をしているから一部の客からものすごく人気を得ている人だった。

「いいんですかユロ先輩?」

「いいわよいいわよ。むしろ一番の新人なのにいっぱい働かせちゃって大変だったでしょ?」

 ユロさんはそう言って控室に行くことを提案してくれた。正直とってもありがたかったが、できれば家田先輩の所へ行きたかった。でもさっき話している時も少しお客さんからの視線が痛かったからなあ。こういう時にその視線を気持ち悪いとともに心地よいと感じてしまう自分が嫌いだった。本当に自分は屑だなと自己嫌悪しながらエプロンを脱いで控室に入った。

「お疲れ様ですー」

 ガチャっとドアを開けると、そこに居たのは先ほどステージで踊っていた声優さんがいた。

「あ、お疲れ様」

 名前は確か、滝本静禰だっただろうか。衣装を脱いだばかりの彼女は、ステージで多少なりとも感じたスター性が色あせているような気がして仕方なかった。それでもまあ、私にとってはよく知らない先輩でも、去年度から働いている人たちからしたら素晴らしい先輩らしいのだ。

「し、静禰さん!!お疲れ様です」

「そんなそんな、仰々しくしなくてもいいよ」

 一重になった静禰さんはそう軽く手を振っていたが、私としては仰々しくしないと後でメイド喫茶の誰に何言われるかわからないからやってるんだよと突っ込みたくなった。私は水がなくなりかけている静禰さんのコップに気付いて、すっと手を伸ばした。

「水入れますね」

「あー気い使わせてごめん」

 そう言うくせに全くこちらを見ずに携帯ばかり見ていた。うん、あんまり感じの良い先輩じゃないな。メイドの人らみんなが素晴らしい先輩だと言ってきていたが、そんな姿とは正反対に思えた。あまりステージが上手くいかなかったのだろうか。傍目にはそうは思えなかったが。

 とぼとぼと水をついでいく。こういう所作に関しては練度が上がったというか、こなれてきた気がする。これがバイトによる効果か。違うか。違うのだろうか。

「あんた、名前なんだっけ?」

 静禰は気だるげに聞いてきた。

「来夏、遠垣来夏ですよ。お店ではリモって言われてますけど」

 そう言いながらコップを机に置いた。軽く言われたどもってセリフがイラッとして仕方なかった。でもまあ、女社会というのは男社会以上に上下関係とかそういうのが面倒だったりするので、顔には出さずにニコッとしたままやり過ごすことにした。

「リモって、なに?魚の名前?」

「それはニモでしょ静禰さん」

 私は大げさに笑った。特に面白くなかったけれども大げさに笑った。

「remoteっていう英単語が遠いとか離れてるとかそういう系の意味なので、自分の苗字遠いが入ってるのでそんな名前にしてみました」

「ふーん、アニメからじゃないんだ」

 私は一瞬反応に困って小さく笑った。

「いや、結構ここにいる子はアニメのキャラからとることが多いからさあ。私もここでは好きなアニメキャラからとってシズって言ってて、今の芸名につながったからさ」

 そうなのか。適当に決めているのではないのか。ふーんと思いつつ私は水を飲んでいた。

「あんたさ、アニメ好きじゃないでしょ?」

 いきなりそう言われ、私は飲んでいた水を吹き出しかけた。

「私が話している時クスリとも笑わなかったじゃん」

 正確には曖昧な笑みを浮かべていたのだが、そんな話をしたいわけではないらしい。まあアニメをよく知らないのは事実だ。

「ユロも言ってたしね、あの子と話し通じないって」

 それはひどいなあ。私は苦笑しつつ言い訳するしかなかった。

「今お客さんから教えてもらっている感じですかね?」

「否定しないんだ」

「肯定しても踏み絵されたらすぐわかっちゃいますもん。仕方ないですよ」

「ふーん、役得だね」

 ん?いまいち話が繋がらなくなってついに私は疑問の顔を隠せなくなってしまった。

「古都ってのは割とアニメファンの聖地だからさ。ここは本来結構なアニオタじゃないと来ないようなそんな感じだったんだよ。それは従業員も同じだよ。アニメに関する知識とか豊富であればそれだけいいって言われてたんだよ。あんたとは違ってね」

 とげとげしてるなあ。こういう空気、私は苦手だ。もうさっさと休憩終わろうかなあ。そう思いながら席を立ととした瞬間に、グサッと刺された。

「ね、どうしてメイド喫茶で働こうと思ったの?」

 いやな質問だ。妥当な流れなのに違和感しかない心持だった。そしてじっと黙る静禰。威圧。完全なる威圧。なんでこんな初対面のよくわからん人にそんなことを言わなければならないのだ。私ははあと心の中で呆れかえっていた。

「人がすることに理由なんてないですよ、興味を持ったから、それだけで他に何の理由もありませんよ」

 そう言って再び席を立った。

「そろそろ外に出ますね」

 そう言って再びバイトに戻った。それでも、心には静禰さんの言葉が残り続けていた。

『なんで私、ここで働いてるのかな』

 愚問だなと思いつつも、エプロンを着て席に座る先輩方にダダがらみを始めたのであった。え、まじめに働けって?それはまあ、ご愛敬というやつだ。

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