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どじっ娘JKは宇宙人でこの世界を征服するそうです。  作者: 春槻航真
第12章、家田杏里とメイド喫茶
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92枚目

 なんでここにいるんだよ………そんな私の嘆きなんて、目の前のこいつに通じるわけがない。そう思っていたが、亀成は意外にも鬱陶しい話し方をしてこなかった。

「い、意外だね……2人ともこういうの好きなんだ……」

 いやむしろ私達がここにいることに若干ながら引いてるみたいだった。失礼な!と思ったが、特に擁護しようにもそもそも私はメイド喫茶など2回目で何も言えることがないことに気づいた。

「や、友達がこ……」

 と、ここでまたぐっと押し殺した。遠垣のこと、この2人に言うべきではないのではないか?あ、説明不足だったかもしれないが、メイド喫茶の店員は名札を苗字や名前といったものではなく、一種のあだ名?のようなものを使用している。遠垣の場合はリモという名前だ。まあそれでも顔見たらわかるかもだが、それでも基本的に彼女のバイトに関しては言わない方が吉だろう。だとしたら……どう言い訳しよう??

「友達?ここで働いているの?」

「いやいや違う……違うくて……そう!!現地調査よ」

 そうだ、こんな時こそこの言い訳が立つじゃないか!!私にしかできない言い訳が!!

「実はアルフェラッツ星でもこうしたメイド喫茶というのは非常に興味を引いているもの達が多くてね。地球人、特に日本人は他国にあるものの咀嚼とそこから独自に発展させることに関して非常に長けているから、その実例としてみてみたいと思ったのだよ。そこで友達の有田君に頼んだんだ」

 いきなり名前を出されて、有田はびっくりした表情でこちらを見てきた。目がぎゅっとまとまって丸くなっていた。そりゃそうだろうな。宇宙の話からいきなり振られたんだから。

「有田君は結構こういった場所によく来るんでね……だから……」

「いや、ちょっとここに知り……」

 お前ふざけんじゃねーぞ!!私は机の下で有田の足を全力で踏んで抗議した。うぎゃっ!!っと情けない声を出す有田に同情はなかった。当たり前だろう私の苦労を台無しにする気か!

「知り……なに?」

 そう聞く亀成をほっておいて、私はオムライスを軽く指差しながら睨みつけた。お前最初にここきた時オムライスのケチャップ通じて言われただろ!『バラしたらころす』ってよ!もうちょい空気を読めボケが!!そんな思いを込めて睨みつけた。まあ多分これだけじゃピンとこないだろうな。そう思っていたが、有田はなんとか察してくれたようだった。

「や、あの、知り合いに勧められてさ!!俺結構服フェチというか、なんというか……」

 たどたどしい取り繕いだった。目が泳ぎ、声に覇気がなく、普段明るく笑っている有田の本来の姿は消え失せていた。まあたどたどしくもなるか。いきなり嘘をつけと言われて嘘をつけるのは、日頃から嘘をついてる人間のみだ。あ、私は宇宙人だからな!!そこを嘘だと読んでもらうのは流石にNGものである。

「そ、そもそも亀成はなんでここにいるの?こういうの好きなの?」

 私は必死に話題そらしを始めた。というか普通に興味があった。確かに見た目は眼鏡だしひょろっとしてるしオタクっぽくてもおかしくない。いやこれは偏見が入っているか。それでもまあ、何でこんなメイド喫茶文化のまだ発展しきっていない古都に来ていたのか謎だった。

「あーちょっと連れに頼まれてさ……」

「ねえねえ聞いてよ亀成!!さっきここ、サインもらって来たんだ!!握手するときもきゅっと硬く握ってくれて、もうほんと家宝に………」

 後ろからそんなハイテンションで現れたのは、それこそ学校での陰湿なキャラはどこに消え去ったというほどに明るく話しかける出森だった。そして彼女は、私達の顔を見た瞬間に絶句してしまった。そういや今はどれほど想っているかわからないが、出森は有田のことが好きらしい。うん、確か、そうだ。だからかわからないが、出森は退散するようにピューっと自分の席へ戻っていってしまった。席の場所は、おそらく私らの姿は死角になる場所だった。まあ気づかなかったと言われても信用できるレベルだ。

 出森は顔を隠して、手だけ出して手招きしていた。恐らく亀成を呼んでいるのだろう。私は少し意地悪なことを考えた。これは、これまで色々と私に対して尊大な態度かつ冷酷な行動に出て来た出森への、ほんの少しのおかえした。

「え、じゃあ亀成君は出森さんに呼ばれてここに来たんだあー」

 私は出森の席にも聞こえるように少しボリュームを上げてそう問いかけた。いかにもバカっぽい発言だったが、まあこういうの私は結構慣れている。

「まあそうだね。僕はあまりよくわからなかったんだけど、なんか1人だと初めての場所だし行きづらいって言われてね……」

「あ、ここ来るのは初めてなんだ!」

 有田もそれに参戦した。私はあえて出森の表情を確認せずに亀成の方をじっと見ていた。

「そうみたいだよ。どうやら今日来てた声優さん?がお気に入りらしくてね。いっぱい色々話をしてくれたんだけど、僕にはさっぱりだよ」

 亀成はそう言ってお手上げのポーズをとった。私はこれまでの何の話を聞かない亀成のイメージが強かったから、そもそも出森が亀成に何かを熱く語っているというシチュエーションに全く共感できなかった。

 亀成は少し困った表情をしながら尋ねた。

「君たちならわかるのかなあ」

「や、私もよく知らないし」

「俺も服フェチなだけだから」

 有田は結局服フェチという設定でいくらしい。それ、メイド服について詳しく聞かれたらどうする気なのだろう。

「そうか……なかなか学校でそういう話のできる友達ができないと悩んでてね。それをきっかけにいじめられてたこともあるし……」

「いじめ?」

 この単語にアンテナビンビンなのは、昔からの悪い癖だ。音速で反応したにもかかわらず、亀成は何の疑念も抱かずに答え始めた。

「ほら、同じクラスにいるでしょ?女バスの高見さん。彼女にこういう趣味がバレて、黙ってて欲しかったら言うこと聞け的なこと言われてね。そんなひどいことを言われてた時期があったんだ。最近は結構まとも……」

 蹴りが飛んではこなかったのは、さすがに店内ということを加味したのだろう。出森は気づいたら亀成の後ろに立っていて、そして手を引っ張り始めた。

「あんたほんと、しばくわよ!!余計なこといっぱい言って!!」

 そう言いながら彼女は真っ赤になった耳を露出させていた。私達のことを見て一言、

「バラしたらころす」

 とだけ言い放った。そして亀成を連れてそのまま席へと戻っていったのだった。

 残された私達は、暫く呆れて物も言えなくなってしまっていた。ようやく口を開いたのは有田で、

「なんか、色々大変なんだな」

 というしみじみとした感想だった。これまで多数有田とは反対の立場を取って来た私だったが、今回の件に関しては掛け値無しに完全同意だった。こうした、予想外の人間との出会いを経験しながらも、私の夏休み初日は終了したのだった。何?初日は昨日だって?まあそうだが、何もしない日など初日とは言えないだろう。しかし用事があるというのもそれはそれで労力を使うものだ。そう実感しつつ、明日は朝早く起きなきゃいけないんだよなあとほんの少し憂鬱になっていたのであった。


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