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どじっ娘JKは宇宙人でこの世界を征服するそうです。  作者: 春槻航真
第12章、家田杏里とメイド喫茶
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91枚目

 30人くらいの列がどどどどと音を立てるかのように動き始めた。それにつられて私達もお店の中に入っていく。一度来たときは閑散としていたから違和感しかない。

「ねえ有田、あんた良くここ来るのよね?」

「まあ、そうだな」

「いつもこれくらい人数いるの?」

「いないね。これの半分居たら多い方くらい」

 まあそうだろうな。明らかに少し行き慣れていない見た目の人間も散見できたし、今日のイベントがあるから来たという人が多いのだろう。行き慣れていない見た目の人というのは、例えば列に並んでいるにもかかわらず必死に会場を場所を探している、目の前の男の子みたいなやつのことだ。まあそう言っても私だってここに行き慣れているわけではない。たった一度だけだ。だからまあ、今日は偉そうな口をきかないでおこう。

 メイド喫茶の中に入ると一番に飛び込んできたのは、でかでかと飾られた看板だった。そこには、『声優、滝本静禰たきもとしずね限定トークショー』と書いてあった。声優さんのイベントがあるのか。じゃあそのファンが詰めかけているのか。

 声優かあ。こういったサブカルチャーに関する知識はそこまでない。そこまでと書くとちょっとは知っているのかと突っ込まれそうだから訂正しよう。まったくない。強いてあげるなら深夜のアニメを訳もわからずに見ていた時期があるくらいかな。この世界の文化を知ろうと頑張っていたのだが、いつの間にやら辞めてしまっていたのだ。これはアニメに嫌悪感があったわけではなく、恐らく生活態度を改め夜更かししなくなったからであろう。

「この声優さんって、知ってる?」

 有田は心なしか小さめの声で私に訊いてきた。私も心なしか小声で答えた。

「私に訊かないでよ。こういうの詳しくないから」

「俺よりは詳しいだろ」

「いや……どっこいどっこいだと思うよ」

 そう言いあいながら空いていた席に座った。いつも通りのオムライスを頼んだら、仰々しい音楽が流れ始めた。

「皆様席を立たずにお聞きくださいねー」

 そう遠垣が言っていたのでみんなしっかり席に座ったまま盛り上がっていた。よくわかっていない私らは歌う声優さんをぼーっと見ていた。ふりふりとした派手な服を着ていたが、よく見ると色の入ったメイド服で、本来黒色の部分が赤色に変化しているのだとわかった。こういう音楽を雑音だのなんだの言う気にならないのは、自身の数少ないいい点の一つである。知らない音楽はむしろ好きだ。新しい発見がある、というほど音楽に詳しいわけではないが、でも何となく自分の感性が柔らかくなっていく気がした。

 ふと隣を見た。有田はどう思っているのだろうか。こいつは結構なリア充だからな。これは付き合っている異性がいるという意味ではなく、毎日を明るく謳歌しているという意味だ。少なくともこんなところに来る人ではないはずだ。そう思ったが、メイド服を着て近くでリズムをとっている遠垣に夢中になっているようだった。まあ、それはそれでいいか。目の前の美人な声優さんよりも確かに可愛いが芸能人ではないただの高校生に釘付けな姿は、確かに一途だなと感じた。


 歌が終わった後はフリートーク、そして握手会が始まっていた。私はふーんという顔で話を聞きつつ、握手会で必死に愛を語っている他の人を横目で見ていた。

「楽しめた?」

 少し間が開いたのか、遠垣はメイド服姿でこちらの席に来た。少し周りからの視線が痛かったが、まあ話したかったからいいだろう。

「楽しかったよ。あんまり経験ないことだから新鮮だった」

 私はそう言ってにこって笑った。

「うん、楽しかったよ」

 有田もそう言っていたが、お前遠垣の方ばっか見てたじゃねえか。そう突っ込みたくなった。そう思いつつ言葉にはしないでオムライスをのんびり食べていた。

「あの人、私は知らないんだけど、ここのメイド喫茶出身らしいんだ。で、最近デビューが決まってやめちゃったんだけど、最後の最後に引退ライブをしたいって言ってね」

 なるほどそうなのか。ここ出身の子なのか。それなら人がたくさん集まってくるのも理解できた。そりゃ、自分の通っていたメイド喫茶から声優業界に羽ばたいていく子がいたら、応援したくなるのが人の情というやつだ。こういった芸能界的な文化はアルフェラッツ星には存在していないから、余計新鮮に思えた。

「ここ、日頃から結構ライブやってんだよ」

 有田がまるで常連のような口の利き方でそう言った。

「声優さんの?」

「いやいや、メイド喫茶の従業員だよ」

「え?じゃあ遠垣さんも歌ったり踊ったりするの??」

 へええと私は驚いてしまった。確かに遠垣はそういうの、似合いそうだな。ふりふり舌服を着て踊って歌う彼女は、恐らく芸能界向きだ。

「まあ、そうだね」

「結構人気なんだよ」

 そう有田が付け足すと、遠垣がもう!!!っと言って有田の肩を叩いた。それで少しニヤッとした有田の顔が見えた。幸せそうだなと思いつつまたオムライスを食べていた。

「つうか先輩、食べんの遅くないですか?」

 突然指摘されてぶふっと吹き出しそうになった。若干ご飯が飛び出してきた。

「きたなーい」

「落ちてないから汚くないもん。いいじゃない味わって食べてるのよ」

「遠垣、家田はね、2つのことを同時にするのが苦手なんだよ」

 むううう、そんなことないもんそんなことないもんそんなことないもん!!!!!私はふくれっ面をしていた。

「らいちゃん、これお願い!!」

 遠くでそう呼ばれて、遠垣は去っていった。私は残っていたオムライスをかたずけると、先ほど恥ずかしいことを言われた有田にやり返しを始めた。

「有田、どうしたのよ」

「な、何がかな??」

「なんかめちゃくちゃ仲良くなってるじゃないの!!どうしたの??頑張ってるわね!」

「なに上から目線で言ってんだよ、流石学校で抱き合った人は違うわ」

「な!?!?それは言わない約束でしょ」

「そんな約束した覚えねーわ。お前らみたいにもっと積極的にならなきゃね」

「う………うん」

 照れて下を向いた私に、有田は追撃を始めた。

「どうすればそんななれるのかなあ??ねえ!?ねえ!?」

「むうううううう」

 私は下を向きつつ睨んだ。完全に、返り討ちだ。

「そもそも亀成と結城で取り合われるとか、羨ましいこと山のごとしだ……」

「僕のことを呼んだかな????」

 後ろからいきなり声がした。私は振り向きたくなかった。こえだけで、誰だかわかってしまったからだ。

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