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どじっ娘JKは宇宙人でこの世界を征服するそうです。  作者: 春槻航真
第12章、家田杏里とメイド喫茶
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90枚目

「あー先輩、来てたんですか??この列並んでくださいお願いしますぅ」

 そう言いながら遠垣は私の手を握ってこう言った。

「せーんぱい♪会場は12時からになっていますので、お楽しみくださいね♪先輩のために私、頑張りますから♪」

 媚びた声だった。特に女の子とそこまで縁がなさそうな男の子をターゲットとした猫なで声だった。そのためか、その列に並んでいた男たちが一斉にこちら側を見てきた。私は少し伏し目になって首を縦に振った。ただでさえ頭に包帯を巻かなければならない宇宙人なのだから、視線を集めることには慣れっこだったのだが、そうした奇異な視線とはまた違うものを感じたのだ。そして私は一礼をしてそそくさと列の後方へと戻っていった。早くこの変な視線から抜け出そう。そう思って一人で並んでいた有田の隣に行こうとしたら、有田も有田で視線を集めていた。まあ彼は地球人基準ではトップクラスのイケメンらしいからな。宇宙人の私には全く持って理解できないが。

「で、結局ここの列で合ってんの?」

 有田は特に周囲を気に留めずにこう尋ねた。

「あってるって言ってたよ遠垣さん。12時開場だって」

 そう言葉を交わした瞬間、先ほどまで前方から感じていた視線がぎゅっと引いていくのを感じた。少し距離を置いてみられるようになったのかな?なんでかは不明だ。その一方でごくごく一部から非常に冷たい視線が飛んできていた気がするが、その理由も不明だ。

「にしても……ここすげえ集団だな」

 こういう時に空気を呼んだコメントを残さないのが有田の有田らしさである。悪口?そんなわけないだろう。私は褒めているのだ。しばしば地球人というのは自分の意見を持たずに周囲に流されてしまう生き物である。周りを気にして言いたいことも言えないこんな世の中を嘆き、嘆くくせに結局言いたいことが言えないままなめんどくさい生き物なのである。そうした観点で見ると有田雄二という男は非常に一般的地球人とは逸脱していた。ほらどうだ?褒めているだろう。私はこれまでいろいろと有田に迷惑を掛けられてきたが、こうして褒めるべき時には褒められる人間なのだ。

「まあ……そうだね」

 私は曖昧な同調をした。なに?さっきさんざん地球人は周りに流される云々の話をしてきたというのに、お前は周りに流されて生きるのかよってか。ああそうだよ。それで何が悪い。そもそもこの悪癖は別に地球人に限ったことではなく、アルフェラッツ星人と地球人に限ったことなのだ。だから悪くない。私は真っ当なアルフェラッツ星人だからな。知らなかったかもしれないが、私はこんな詭弁すら使いこなせるのだ。もっとこの私のスペックの高さ、褒めてもらってもいいのだぞ。

「なんか……今顔にやついてなかったか?」

 ふっと有田にそう指摘されて、私ははっと我に返った。おっと自身の優秀さに酔いしれて顔が弛緩してしまったか。反省反省と思って頬っぺたをぐりぐりと抑えた。

「もしかして家田ってこういうの興味あるの??」

 へ?突然の質問に私は反応できなかった。

「まあ、その包帯もコスプレみたいなものだもんな」

「な、有田それは違うぞ!!」

 そう言いながら私は有田に指をさした。

「そもそも有田はコスプレってなんだと思ってるんだ???そもそもコスプレとはだな……」

「わーその質問めっちゃオタク臭い」

 ぬぬぬぬぬ、失礼だが有田の意見に同意してしまいそうになった。こういう時に定義や一般論を語り始める時点でコスプレについて詳しい証拠だし、オタクである証左だと言われても言い返すことはできない。私はぐぬぬぬと思いつつ端的にそう宣言した。

「コスプレではなく、私は事実だからな。包帯をつけるのはこの地球を危険にさらさないためだ。しっかり目的があるのだぞ」

「さっきコスプレについて語ろうとしてたけど??」

「当然知識として知っている。何故なら私はこの地球を調査しに来たアルフェラッツ星人だからな。この国やこの星の文化については一定の知識はある」

 そう言って私はどや顔をした。そのどや顔を有田に見せつけた。有田は辟易した顔をしていた。一回離れて行った怪しい視線が、どこかから戻ってきている気がした。

「あんたこそ私を最初にここ連れ込んだけれど、あれからここ来てるの?」

 え?今度ぐぬぬぬな顔をし始めたのは有田だった。

「いや………まあ………最近忙しかったから………週に2回いけたらいい方かなあ」

「しゅ、週2!!?!?!?」

 私は大声を出して突っこんだから、周囲の視線を一手に引き受けてしまった。少し迷惑なことをしてしまったなと思ったが、

「え、普通じゃね?」

 と全く困った顔をせずに返されてしまった。

「なんか、家知ってたり、ここ探し当てたり、あんた結構積極的なんだね」

「素直になれない誰かさんとは違うんだよ」

「私のことか?」

「さあ、どうかなあ……」

 有田は照れながらもそんな悪態をついていた。

「そんだけ積極的なら、デートの一回くらい行ったんじゃないの?」

 そして有田は黙り込む。

「…………行ってないの?」

「お前も行ってないじゃん」

「私は行く相手も行きたい相手もいないからね」

「球技大会の最中2人抱きあ……」

「それは私じゃない別の人だよ何言ってるの有田しばくよしばき倒すよ」

「え?でも噂で流れてき……」

「こ ろ さ れ た い の ? 」

 私はよく人を睨むが、流石にこの時だけは全身全力で睨み倒した。これにはさすがの鈍感男有田も降参したらしい。

「すみませんでした」

「よろしい」

 そろそろ12時が近づいてきていた。もう新しい話題を話す時間もないな。そう思っていた矢先に、有田はこう言った。

「好きなものはさ、大事な人はさ、頑張って自分からアプローチを掛けないといざという時絶対後悔すると思うんだ。待ったって、何にも変わらないからさ」

 そう言う有田の顔も見ずに、私はこうアドバイスした。

「そうできる人間は、そうしたらいいと思うよ。有田はそうできる人間だよ」

 ヘタレだけどな。そんな言葉は胸にしまって、私はそれができない女なのだという言葉も飲み込んだ。

「なんだよいきなり励まして」

「その代わり遠垣さん泣かしたら許さないからな」

 でも遠垣は、多分私と似たものだから、もしかしたらこういう人に面倒臭く感じるかもしれない。いや、そう思うならメイド喫茶に誘わないか。ということは、案外相性がいいのかもしれない。そんなことをのんびりと考えていたら、列が徐々に動き始めた。

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