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どじっ娘JKは宇宙人でこの世界を征服するそうです。  作者: 春槻航真
第12章、家田杏里とメイド喫茶
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89枚目

 この国には独特な文化が形成されてしまっている。その独特さは世界でも類を見ないほどで、同じ星の中にいる生き物であるにもかかわらず、他の国の人々はその異質さと異常さに戦慄を覚えるほど得ある。まあそんなことを言ってもその具体例を言わなければイメージできないであろう。ではその典型的な事例を紹介しよう。メイドカフェだ。

 もともとメイドというのは女性の従者のことであり、中世から近世にかけてイギリスを中心として貴族に雇われた使用人のことを指す言葉であった。ハウスメイド、ハウスキーパー、今ではあまり好ましい表現ではないか家政婦といった呼び方もできた。他にも中国やシンガポール、サウジアラビアなど使用人を雇っているお金持ちに向けて広く使われてきた言葉だった。このように、メイドというのは女性使用人に対して広く使われるものであり、そこに何ら異常性は発掘できなかった。

 しかしこの国の人々はそれをフェチズムへと昇華されてしまったのだ。というのも、メイドというのは典型的なメイド服を着用しており、このコスチュームに対して興味を持つ男性が非常に増大してしまったのだ。実はこのメイド服の典型である黒色または濃紺色のワンピースに白いフリルを付けたエプロンにプラスして白色のカチューシャをつけるというデザインはメイドに限定できるものではない。19世紀後半における英国の更に午後用のものという非常に限定的に使われていたものをフィーチャーし、メイド萌え、更には主従萌えといったものを形成することになったのだ。

 人はコスチュームやシチュエーションにフェティシズム的な傾倒を繰り返してしまう生き物だ。セーラー服やチャイナドレスなどがその典型だろう。コスプレなんて文化ができるようになったのは、そうした外見的な視覚情報そのものやそこから派生して得られる人間関係を嗜好する人間が出てき、そして今でも言ってい総獲得しているからであろう。最近に至ってはそうしたメイド文化が海外でクールジャパンの文化として紹介されているらしい。刀や畳や生け花などとともに混在しているのだとしたらそうした伝統文化にかかわる人々から苦情が届きそうなものだが、まあそれを私が突っ込むのは野暮もいいところだろう。

 私はその日、朝の11時半から古都にいた。いや正確に言おう。朝の10時から古都にいた。朝に居たのは古都圀屋で、相変わらず本に大量投資を始めていた。いやいや古都に行くのだからそれくらい当たり前だろう。むしろ交通費も出ないこのイベントに、お金だけむしり取られるこのイベントに、他の予定もくっつけないでどうするんだ。まるでこういうとお前これからのイベントに何か恨みでもあるのかといわれてしまいそうだが、別にそんなわけではない。ただ……無為さだけはすごく感じていた。

 もうこの報告用紙も90枚前後になってきていい加減鬱陶しくなってきたかもしれないが、それでも大事なことだから何度でも言おう。私は宇宙人である。誇り高くも平和主義的なアルフェラッツ星人である。定期的に私がただの宇宙人であると妄言を吐く馬鹿者が表れるので、面倒な女だなと思うかもしれないが容赦していただきたい。

 そんな地球から97光年離れたアンドロメダ星雲出身なのだから、メイドにもコスチューム萌えにも特に興味がなかった。当たり前だあんなのただの服だ。しかも私は女だ。興味無いにも甚だしい。そんな私が、どんなイベントなのかよくわからないもののメイド喫茶での催し物に参加するというのだから、中々にひどい話だ。

「あーコスプレ女」

 おう誰だそんな失礼なこと言ったやつは。私は声の主を全力で睨んだ。

「なに?有田?殺されたいの??」

「怖いよ家田さん」

「先に喧嘩を売ったのはあんたでしょ?私のどこがコスプレなの?」

 そう言っている有田の服装はジャージで、前見たような少しおしゃれでリア充感のある服装はしていなかった。スポーツでもするのかこれから。

「コスプレしてるじゃん宇宙人の」

「…………どこが?」

「その頭に差してるヘアピン、それ骸骨のコスプレだろ?」

「骸骨のコスプレって何よ!!」

 そう言いながら私は頭に差しているヘアピンをどやっと見せつけた。

「どう?可愛いでしょ?昨日買い物に出かけたついでに買ったのよ」

「…………正直に言っていいか?」

「うん」

「なんか、痛い子っぽい」

 痛い子……痛い子……痛い子って、何だ??これは、もしかして私がまだ知りえない日本語なのかもしれない。私はそう思った。そう思い込むことにした。

「まあいいや、行こうぜ」

 そう言って私達はメイド喫茶に赴くことにしたのだ。前は駅から歩いたが、今回はしっかり地下鉄を使い最寄りの駅まで来ていたので3分で着いた。その間の会話もそんなに困らなかった。これもイメージの無い読者がいるかもしれないが、実は私と有田はそこまで共通の話題もなければ、感性も不一致なのですぐに意見対立を起こしてしまう。一言でいうと相性が良くないのだ。まあ向こうはそんなこと全く気にしている様子がないのだが、私はあまり長く話すのは苦手て疲れてしまうと感じていた。しかしこの日は3分だったので、特にそんなこと気にせず最近の四方山話だけで近くまで着いたのだ。

 しかしながらそんな心持楽な状態はすぐに終わってしまった。近くに長い長い行列ができていた。

「ラーメン屋かなあ?」

 有田はそんなのんびりとした声をしていたが、私だってまさかこれがメイド喫茶につながっているなんてチリとも思わなかった。

 並んでいる人たちはみんなこんな真夏にボーダーのシャツにGパンを履いて、人によっては首元にタオルを巻いていた。鉢巻をしている人もいた。異様なにおいが立ち込め、汗なのかなんなのかわからなかった。かと思ったら女性も結構いて、皆が皆スマホを見ていた。いったい彼らは何時から待っていたのだろう。時刻は今12時10分前。それなのにもう30人は優に並んでいた。

「なあ、家田」

「なに?}

「もしかしてここに並ぶの、俺ら」

「見てこようか?」

 そう言って有田を最後尾に並ばせて、たたっと前の方を見に行った。確かにそこはメイド喫茶雅の行列だった。何故ならその列がはみ出ないように指示を飛ばしていたのがそう、何を隠そう遠垣来夏本人だったからだ。

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