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どじっ娘JKは宇宙人でこの世界を征服するそうです。  作者: 春槻航真
第11章、家田杏里と夏休みの計画
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82枚目

 地球人は適度に休みが必要な生き物であるらしい。例えばロボットであるならば、24時間365日ずっと働かせ続けることができる。最近になって進んできたと言われている第4次産業革命の引き金を引いたのは、こうしたロボットの特徴をより広範囲に生かせるようになったからであると私は考えている。まあアルフェラッツ星人の見地からしたら、もう第4次どころか第8次まで進んでいる産業の進展と比べて非常に遅れていると言わざるを得ないのだが、それは恐らくロボットの発展に遅れが出たからだろう。最早肉体労働は姿を消し、多くを働かなくてもよくなった我々において、実は週休2日や年休120日というのはむしろ休む時間が多すぎるくらいだ。この国のようにまだまだ人間の肉体で作業を行う土木建築や工場ラインの方々と違い、我々アルフェラッツ星はまとまった休みというものが必要ではないのだ。その一方で、日々の仕事におけるストレスは無に等しい。この星より休みは少ないが、一日中パソコンにしがみついたり何かを運んだりといった仕事はないから、拘束時間も短いし特別な会議以外では出社する義務すらない。つまるところ、自分の領分をしっかりするのであれば、残りの時間はすべて休みなのだ。こんな勤務体系であるからして、まとまった休みなんていう考え自体がないのだ。休みが多く仕事がつらいのと、仕事さえすれば残りはすべて休みになるのと、一体どちらが素晴らしい制度だと言えるのだろう。これに関しては意見の相違がみられそうだが、少なくとも私はマイペースな人間であるから後者の方が好きだったりする。いやこれは生まれた環境によるものなのかもしれない。

 この世界ほしに来たのは3年前の夏休みだった。まず最初の教師が言った『夏休み明けですけれども…』という言葉に首を傾げてしまったのは今でも覚えている。夏休みって、なんだ?これは軽いカルチャーショック、いやスターショックだった。それから2度、私は夏休みを経験した。正直言って退屈だった。毎日の学校がなくなると、途端に私はやることを失う。それも1カ月となると退屈に押し殺されてしまいそうになる。だから私は夏休みといった長期休みが嫌いだった。しかもその時は今のように本を読む趣味もなかったから余計にそう思った。うーん、今日は何をしようか。明日は何をしようか。そんなことを考えながら暮らしてきたのが、これまでの夏だった。

 しかしながら、今年は少し違うかもしれない。

「夏休み、どこ行く?家田先輩!」

「どこ行きます?家田さん」

 最後の授業が終わって、私達は教室で作戦会議をすることになった。私達というのは無論、姫路と遠垣と私の3人だ。

「とりあえずプールか海でしょ?」

「そうだねーこの辺で海に行こうと思ったら須摩の方とか?」

 そう遠垣が提案したところ、姫路がしかめっ面をしていた。

「どうしたの?姫路さん」

「いや、あそこってチャラい男子がいっぱいいるじゃないですか」

 いや海って大体そんなもんだろ?というか外に出ていく奴らなんてみんなチャラい奴らばかりじゃねえか。そんな身も蓋もないことは心にしまって、私は話の流れに身を任せていた。

「まあ海だからね、そんなものじゃないですか?」

 心に閉まったことを遠垣はぐさりと突き刺していた。

「まあでも、この辺りってあんまり海ないから、ちょっと困っちゃうよね?」

「そうですね!大阪湾には海水浴場なんてないですし、白浜か須摩くらいになっちゃいますよね!」

「どっちもまあまあ遠いしなあ。そりゃみんなこの辺のプールでお茶濁すわけだわ」

「この辺のプールってどこがあるの?」

 私はくりっとした目で聞いた。外に出ないから外部レジャー施設の所在がわからないのだ。

「まあ一番近いのは枚岡にある枚岡パークだと思いますよ?」

「槻山民はあくあピア槻山を推す人もいるけど、あそこは寂れてるからなあ」

「後は…豊倉の緑地公園にもあるらしいです。豊倉市の子が言ってました」

 姫路の情報にへーと感心する遠垣だったが、私は何一つ知らないから二人の情報量にへーとなっていた。

「案外プールってあるんだね…」

「ん?ん?何の話?」

 私の声を遮るように、後ろから調子のいい男の声が聞こえてきた。振り向いたら、いつも通りのチャラい髪形が見えた。

「何しに来たの?有田」

「やーなんか話してて面白そうだったからさ。なんの話?プール?」

 なんだお前は言ってくるな男人禁制だと喚きたくなったが、私はぐっとこらえた。いやいやよく考えてみろ。彼だって、あわよくば遠垣と海やプールに行きたいと思っているに違いない。そしてあわよくば、海やプールで遠垣との距離を縮めて、更には夏特有のランデブーを敢行したいと考えているに違いない。まあヘタレな彼にそこまでできるとは思えなかったが、しかし端から無理だと断定するのは野暮というやつだ。

「有田先輩、この辺にいい海水浴場ってありますか?」

「うーん、白浜か須摩か…」

 という答えに、我々3人は一斉にトーンダウンした。

「まあそれくらいですよね」

 姫路ももうこんな感じだ。

「須摩はまだしも、白浜は日帰り無理だからなあ。距離的に」

「なら、近場のプールでいいんじゃね?」

 そう言って私の方を見て有田は強く押してきた。なんだお前?頼み込む相手が違うだろ?私じゃなくて遠垣に頼めよ。というかお前と遠垣が2人で行ったらいいんじゃないか。

「あ、因みに家田、海でゴーグルは止めろよ」

「ええ?なんで?」

 いきなりの話題転換に私は少し動揺した。

「いや……そんなことしてるやつほぼいねーぞ。少なくとも女子は…」

「2人とも、プールにしよう。この夏はプールに行こう」

「先輩、プールでもゴーグルした女子ってほとんどいないですよ。少なくとも私は見たことない…」

 な、な、なんだってーーーーー!!!!!!私は雷にでも打たれたかのような衝撃を覚えた。なんでだ?何故そんなにもゴーグルを否定する?そもそもゴーグルがなければ水中で目を開けることなどできないではないか。何故それが否定されているのだ?読者のみんなにはもうご存知かも入れにが、私は宇宙人であり、ゴーグルがなければこの世界を破滅へと追い込んでしまう。視界を隠すことが私にとって至上命題なのだ。

「いいじゃないですか!!!ゴーグルしてプールに入っても!!!」

 そう言ったのは姫路だった。

「海はちょっと…ですけど」

「なんで?」

 私は少し冷たい声色で聞いた。

「いや…まあ、あんまりいないですね」

 しかし、そこは譲れないみたいだ。姫路の曖昧な返答に、私はむしろ引き下がることにした。そして私は学習することにした。海にゴーグルは付けない。人はみな裸眼を晒すのだと。

「あ、結城じゃん」

 とここで、先生から呼び出しを喰らっていた結城が席に帰ってきて、私の隣の席に来た。

「お勤めご苦労様!」

 そう私は茶化したが、結城は冷静な顔で

「何で集まってんの?」

 と私達全員に向けて聞いた。むううと不満な顔をしたら、一瞬だけこちらを向いて、結城はニヤッと笑った。おいこいつ、わざと無視したな。

「結城先輩、いい海水浴場知りません?」

 そんな私の憤りなど誰も気づかず、遠垣が結城に尋ねていた。

「海水浴場?みんなで行くの?」

「その予定です」

「んじゃ、白浜行けば?」

 そして次の結城の言葉で、話は大きく動き始めたのだ。

「和歌山は俺の母親の実家あるからさ。泊まりに来なよ」

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