表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
84/166

79枚目

 カラオケルームに狭いイメージがあったから、実際に打ち上げ会場に着いた時にはとても驚いてしまった。広い。めちゃくちゃ広い。所謂パーティ用の部屋というやつらしいが、クラス25人が入ってもなお余りあるほどの広さだった。あれ?この人数だったら歌わなくてもワンチャン行けるんじゃね?そんなことを思わせるほどだった。お菓子や飲み物なども完備されていて、20歳以上ならばお酒の提供もあるそうだ。これはカラオケを1人、もしくは数人で行くという固定概念を崩しかねないものだと思い、べんきょうになるなあと棒読みした私だった。

「わーひっろいひっろい!!!」

「お菓子とかならべよーぜ」

「新曲入ってるかなあ」

「ドリンクバー行かなくていいのは新鮮だよねえ」

 クラスのみんなは結構慣れているのか、着々と準備を始めていた。その中には有田の姿もあった。流石だぜあいつ。無論私は茫然と立ち尽くしていた。仕方ないよね。初カラオケなんだし。そう思いながら阿部がオレンジジュース欲しい人ー?という提案をしているのに便乗して手をあげていた。

「ねえねえ、家田さんってどんな曲聞くの?」

 ふっと隣から声を掛けられて、私は動揺してしまった。隣に座っていたのは同じクラスメイトの…ええっと…誰だっけ?暗めの茶髪が完全な黒髪よりもむしろ清楚さを醸し出していてよかった。

「うーん、あんまり聞かないんだよね」

 そう控えめに笑いつつ、

「そっちは?どんなのよく聞くの?」

 と質問で返すことにした。そっちはという言い方は少し冷たいかもしれないが、名前を思い出せないのだからしょうがない。隣のクラスメイトは明るい声で語りはじめた。

「やっぱりロキノン系だよね。フジファ○リックとかサカ〇クションとか好きでさ。あのなんていうかな、キュイーンって透き通るような音がいいんだよね。儚げで透明感があって、それでも聞いているうちに少しずつ元気になるような曲調が好みでさ。そもそも私軽音楽部なんだけど、だからわかんないけど、ドラムとベースとギターの音が聞こえてこないと落ち着かないんだよね。所謂アイドル曲とかがなかなかなじめないんだよね。でも最近ではそういう系のアーティストってあんまり出てきてないんだけど…あでもチェコとかよかった。知ってる?チェコ・〇・リパブリックってバンド?まだまだ無名だからねえ」

 うーん、何を言ってるのかよくわからない。もう少しだけ聞いてみよう。

「あーゆー爽やかすぎるのは合わないと思ってたんだけどね。いやあこれが案外合っちゃってね。昔は曲におーおーとか言っているのは私好きじゃないって思ってたのに、徐々になんだろう。感性が変わってきたのかな?今だったらニコ〇ッチザワールドとかフ○ンプールとか聞いても嫌な感情ないかもしれないって思えた。お薦めだよ!!!」

 うん、余暇系解らなくなった。とりあえず、ロキノン系というのが流行りなのだな。そんな言葉、遠垣からは一切聞かれなかったけどな。

「す、すごいね。今度聞いてみるよ」

 私は遠慮しがちにそう言った。すっごい中身のない返答だなあと思った。目の前の少女は目を輝かせてそう言っていた。でも、なんでそれを私に言ったのだろう。たまたま隣に座ったからだろうか?因みに左隣は最初有田だったのだがどうぞどうぞと差し出してしまったので濱野になった。また睨まれるのは嫌だからな。

「聞いて聞いて、なんならCD貸すから!!」

 右隣の彼女は、そう鼻息を荒くしていた。拳をぎゅっと握って、それを両手顎の周辺に持ってきてふんふん息を吐いていた。

「誰歌う?最初」

 みんなの席が決まったのを見計らったように、嘉門がそう大声で提案した。しかしながらクラスの雰囲気を見る限り、もうトップバッターは決まっているようだった。

「そりゃあもう、魅音でしょ!」

 そう口を開いたのは出森だった。

「ちょっとま…」

 そして口を開いたのは右隣りの人間だった。そうかこの人は魅音という名前なのか。私は今更ながら知識として蓄えた。

「そうだな。武田しかいないな」

「武ちゃーん、頑張ってねー」

「うう、がんばる」

 そう言いながら彼女は、すでに入ってある曲を歌い始めていた。某アイドルグループのヒット作だ。あれ?さっきそういう曲は嫌いって言ってなかったっけ?

 しかしながら彼女はノリノリで歌い始めた。とても歌が上手かった。透き通るような歌声とはこのことだった。しかもそれに、取ってつけたような明るさも兼ね備えていた。そして私は察した。ああそうか。もうこれからこういう自分があまり好きではない曲を歌うことが確定しているからこそ、あんなふうに話しかけてきたんだ。本当の私はこうじゃないってことを言いたかったんだ。なるほど武田魅音という女の子はこう言う人なのか。私は配られてきたタンバリンを適当にたたきつつ、そう思った。まったく、どいつもこいつも自分の本性というものを隠しすぎやないか。私は自分のことを棚に上げつつそんなことを思った。

「歌う順番どうする?」

「時計回りでよくね?」

 そんな声が聞こえてきたのは一番が終わったあたり。ん?ちょっと待とうか。時計回りなら次が私になる。カラオケの機器が私の前におかれた。

「濱野さん操作して?」

「えー、どの曲にするのー?」

 私は自分の不得手な機器を濱野に押し付けた。無論小声で

「貸し1つだぞ」

 と言っていた。私は曲目を入れるよう指示した。その曲を見て濱野が首を傾げていたのが印象的だった。なにかおかしなことを言っただろうか?私は遠垣に聞いたこの星で一番流行っているというアーティストの代表曲を指示したのに、何をそんな怪訝な顔をしているのだ。

 カラオケは曲を入れたら画面に表示されるらしい。その曲名が出て少しだけ騒然としたのは気のせいだろうか。気のせいだ。そもそも私はこのクラスで目立つ存在ではない。たかだか包帯を巻いているだけの少女だ。前は偶々ボーリングで目立ってしまったが、あんな過ちを犯さないように遠垣に曲を聴いてきたのだから、間違っているはずがない。自信を持て。何の自信かわからないが自信を持て。そう思いながら曲が終わるのを待っていた。タンバリンを叩きながら待っていた。

 曲目は『エイリアン・エイリアン』アーティストは『ナユタン星人』日本で今、一番流行っている曲である。私はそんな曲を、淡々と歌うことにした。今回こそは、目立たずにそつなく過ごすことができるだろうと思いつつマイクを握ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ