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77枚目

 私は突っ伏してしまった。落ち込んで落ち込んで落ち込んでずっと机と接着していた。まるで昨日の自分が帰って来たかのように落ち込みまくっていた。仕方ないよね。これは仕方ない。そう自分の胸に言い聞かせつつ、私は突っ伏し続けた。

「雄二集計マダー?」

 今野の間の抜けた声が響いたが、私は顔を上げなかった。そんな元気は無くなっていた。

「ち、ちょっと待てよ…」

 紙がペラペラとめくられる音が響いていた。そんなもの気にも留めなかった。電卓が叩かれる音がした。もはやどうでもよかった。

「結果はこうなりました!!」

 遠垣の声とともに、ばさっと紙が舞った音がした。

「僅か一点差で、結城さんの勝利です!」

 わーという歓声が上がった。勝手にやってくれと思った。私は何も関係ない。宇宙の神秘の話になったら呼んでくれ。そんな話になんて2度とならないというならば、もう2度と私のことを呼ばないでくれ。

「ではでは結城さん感想を一言」

「いやあ苦手なリーディングで点を稼げたことが一番の勝因ですね!」

 結城が誇らしく答えていた。どうでもよかった。大体、たかが80点で自慢して欲しくなかった。2割も間違えてるのに何誇らしげにしてるんだと言いたくなった。

「では亀成さんは」

「…………出直して来ます」

 亀成も何悔しそうに語ってんだ。どうでもいいだろこんな勝負。

「それじゃあ最後に家田…先輩?」

 ん?なんだ遠垣?宇宙の神秘の話か?なら話すぞ?3時間くらい話すぞ?

「家田さん…不貞腐れないで起きて下さいよー」

 ん?何がだ姫路?私は寝たいから寝てるのだよ。自由の行使だよ。それの何が悪いってんだ。

「おーい家田!そんな一教科結城に負けたからって落ち込むなよ!そんなこともあるって」

 むむむ、そんなんじゃない。そんなんじゃないぞ有田。私はただこの昼下がり眠たいからこうしているだけだ。決して結城に負けたことがショックなわけでは…

「やっぱりお前地球人じゃね?」

「宇宙人よ!!!!!アルフェラッツ星人よ!!!!!!」

 私は飛び起きて反論した。くそう結城の策略にはまってしまった。私が宇宙人ではないとか、そんなこと持たれてはいけない疑念である。それをあえて口にすることによって眠気にうなされていた私を飛び起こしてみせるとは…策士、これぞ策士だ。

「いやいや、日頃から言ってたよね?私達は高度な文明のもと高度な教育を受けている優等な生物だって。そんな人間が普通地球人の、それも特別賢くもない人間に負けるだなんて普通は想定できないけどねえ」

 結城はニタニタしながらそう言った。くそう!くそうくそう!一生の不覚。本当に一生の不覚だ。こんな奴に一教科でも負けてしまうだなんて…

「ま、まあ?英語はそっちの言語だし?仕方ないわよ。そもそもこれまで負けていた方がおかしいわ」

 私はそう言い返すのがやっとだった。

「それじゃあ、結城先輩!」

 そして私が起き上がって来たことをいいことに、遠垣は進行を元に戻した。

「結城先輩は、家田先輩なんでもいうことを聞かせられる権利を得ることができました!!さて、何を…」

「おいちょっと待て遠垣、なんでだ?その約束まだ続いているのか?」

「えーだって反故にしたなんて聞いてないですよー」

「私はそもそも結ばれたことすら聞かされてないんだけどその約束!!」

 私は全身全霊で遠垣を睨みつけた。なぜか近くにいた有田がすごいビビっていた。

「…負けたのに」

「おい結城、調子乗ってんじゃないわよ!あんたはたった一教科勝っただけなんだからね!!」

「…負けたのに」

「おい有田!」

「まあ負けは負けっすし、勝ちは勝ちっすよ杏里ちゃん」

 沢木までそんなことを言い出した。私の周りにはすでに、20人くらいが野次馬としていたのだ。なんだなんだ?結城と亀成の勝負ってこんなにも集客力ある催し物だったのか?完全に想定外だった。特にクラスで目立つ人間でもない2人なのに、どうしてここまで人々の興味を引いたのだろう。有田のせいか、遠垣のせいか、それかみんなが私の想定より暇なのか…それに関してはよくわからなかった。

 周囲からの目線に負けた私は、少しため息をついてからこう宣言した。

「わーかったわよ!1つ言うこと聞いてあげる。一教科でも勝ったのは事実だし、よく頑張ったのはその通りだからね」

 わあああああああと歓声が上がった。私は何の歓声なのかよくわからなかった。何なら拍手まで生まれていた。どゆことだ?まったく、彼ら彼女らの行動原理を、早くアルフェラッツ語に翻訳して出版して欲しいと思った。

「ありがとう、家田」

「べ、別にあんたのためだけじゃないわよ。私だってちょっと、収まりがつかないしね」

「ツンデレ…」

「おい今遠垣なんて言ったあ?ああん?」

 私はツンデレでは無い。それは賢明な読者皆様方なら重々に承知してくれているはずだ。全く遠垣は、正直な気持ちをツンデレと呼ぶのはやめていただきたいと思った。

「その代わり、その内容に関してはシークレットよ!部外秘!誰も聞いちゃダメ!わかった?」

「な、何で俺の方を見るんだよお」

「あんたが一番口軽いからでしょうが!!!!!有田ぁ!!!」

 そう言いながら私は結城を引っ張って外に出た。後ろで口笛で煽ってくる人達がいた気がしたが気のせいということにした。気のせいだ。気のせいでなければ…少し顔が赤くなるのでやめていただきたい。

 廊下をでて、階段を降り、校舎を出た。

「おいおいどこに行くんだ?」

「とりあえずこのへん!」

 そう言って2人、ビシッと立ち止まった。

「さあ結城、言いなさい!何かして欲しいこと、何?」

 結城は少し困惑している様子だった。

「困ったなあ…特に無いんだよなあ…というかあれは有田と遠垣が勝手に言っていただけだし、気にしないでもいいんだけど…」

 まあそうだわな。彼は別に特にやって欲しいこともなくこの勝負に参加していたと、言っていたからな。

「いいわよ!これは私に勝ったから、そのご褒美よ!ご褒美!!どう?これならいいでしょ?」

 私はそう胸を張った。

「何胸はってんだよ」

「何?小さいって?」

「言ってない言ってない」

 結城は首を横にブルブルと振った。

「ほら、何でも言ってみなさい!!何でもいうこと聞くわよ!」

「何でも?」

「何でも!!」

「それじゃあさ、僕をころ…」

「それ以外!!」

 忘れていた。この男は青春爽やか自殺志願ボーイなのだ。最近本調子になっていなかったからすっかり忘れてたけど、彼はこういうやつだ。まあこれを押さえておけば、大した話は…

「んじゃ、今日君の家に行っていい?」

 ふぁ!?!?私は予想だにしていなかった願い事に驚きを隠しきれなかった。

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